米国VCが好む起業家の7つの特徴(その2: 説得力)
こんにちは。DCMの原です。前回の起業家についての記事で"頭の使い方"の特徴についてのポストを書いたので、今回はその続きで"他人との関わり方"の特徴についての記事を書きたいと思います。
繰り返しですが、これらの特徴は網羅的でもなければ、成功に必要な条件でもありません。ぜひ前の記事から読んでいただけたらと思います。
B. 他人との関わり方
B-1. Convincing/Vision: 説得力/ビジョン
スタートアップの起業家にとって説得力はとても大事なスキルとなります。 Benchmark CapitalのBill Gurleyは下記のように述べています。
One of the traits that you will see in successful entrepreneur is an incredible storyteller... if you want to recruit, if you want to close partnerships, if you want to raise money, all these things require the ability to sell people on your idea.
成功する起業家に共通する特徴の一つは、素晴らしいストーリーテラーであること。採用しようとしたとき、業務提携を結ぼうとするとき、資金調達を行おうとするとき、これらは全て、他の人に対してあなたのアイデアを売る力が求められる。
こちらはY Combinatorの元PresidentのSam Altmanの言葉です。
Startups need at least one evangelical founder usually the CEO. Someone at the startup has got to be the person that is going to recruit, sell the product, talk to the press, raise money. And this requires someone who can infect with enthusiasm the whole world about what the company is trying to do. And someone who becomes the chief evangelist for the company, it's very hard to succeed wildly without that. It's very hard to build a team at all without being able to do that.
スタートアップには最低一人エヴァンジェリスト(サービスや会社について啓蒙する人)がいる必要があり、通常はCEOが担う。エヴァンジェリストは採用を行い、プロダクトを売り込み、PRを行い、資金を調達する。これらには、熱意をもって世界中に対してこの会社が何を目指しているのか伝える、影響力のある人が必要になる。会社のチーフエヴァンジェリストとなるべき人材がいなければ大きな成功を得ることもチームを作ることもできない。
資金調達、採用、営業、事業開発、これらは全てスタートアップとそのビジョンを売り込むことを意味します。資金調達は投資家にお金を出してもらい、採用ではその人に人生を賭けてもらい、営業先や事業開発先には社内での担当者の方にリスクを負ってもらいます。
スタートアップには大企業が持っているようなブランドも、実績も、信頼も、安定性もありません。そんな中で、会社のプロダクトに惚れ込み、ビジョンに共感し、採用、調達、事業開発で、リスクをとって将来に賭けてもらわないといけない。それがCEOの仕事です。
その中でも"採用"はとても大切
説得力がモノを言う、採用、資金調達、事業開発、営業の中でも最も大切なのは採用です。Vinod KhoslaはCEOの素質の一つを"Talent magnet"(人材をひきつける力)と呼び、ステーブジョブズは起業家が「どれだけ頭が良かったとしても絶対に素晴らしいチームを作らないといけない。起業家は本当に優れたタレントスカウトであるべき」と言います。
お金があっても事業やプロダクトはできないし、営業がうまくても売るものがなければスケールしません。事業やプロダクトを作るのは、人。そして起業家一人ではいいプロダクトは作れないからです。PMFを迎えたプロダクトを作れば終わりではありません。営業やマーケの優秀な人材が必要になるだけでなく、PMFの後もプロダクトの改善によりPMFを保ち続けてよりユーザーのスイッチングコストを高めて事業の競合優位性を保つのも、新たにプロダクトや新規事業をつくっていくのも、全てチームです。お金があっても生まれません。
"タレントマグネット"の大見さん
先日Chompyというフードデリバリーサービスを立ち上げた大見周平さんは、この"説得力"が優れた起業家の一人です。会社創設前から相談に乗りシードラウンドでの投資を決めた直後、2人で起業した大見さんがミーティングのためにDCMのオフィスを貸して欲しいと言ってきたことがありました。その日、大見さんと八木さんの調子はどうかな?せっかくだから2人の議論に混ぜてもらおうかな、とフラっとミーティングルームに立ち寄ったとき、そこでは10人を超える人たちで喧々諤々の議論が行われ、壁中にポストイットが貼られていました。2人しかいないと思っていた僕は、「え?」と思わず声を上げてしまいました。
オフィスも何もない段階であれだけ多くの人を仲間に引き入れるという、大見さんの"人材をひきつける力"を垣間見た瞬間でした。
説得のしかた: 相手に合わせてシンプルに伝える
相手を説得する際はとにかくシンプルに、そしてクリアにわかりやすい言葉で伝えるということです。セコイアのJim Goetzは「2-3行で会社のユニークな点を伝えろ」と言い、GoogleやFacebookに投資をした代表的なエンジェルのRon Conwayは「会社について一行で説明できるように狂ったように練習しろ」と言います。なぜならば、相手もそのあと、「Aという面白い会社があったんだけど」と他の誰かを説得するからです。採用ならその方は家族を説得するでしょうし、調達、営業、事業開発なら上司や社内のチームメンバーを説得すると思います。相手が自分の言葉で語れるように、相手の心に残る会社の良さや言葉や数字をシンプルに伝えましょう。
どんな言葉や数字が心に残るかは、相手によって変わります。なので相手について知ること、相手の話をよく聞くことが大切になると思います。自分だけが一方的に話していると伝わりません。"XXXっていう会社があってさー、Aがxxもあって、Bがxxで、Cがxxxなんだってさ、すごいね"という会話を逆算して想像して、A,B,Cが何になるのか、というのを考えながら話すのがいいのかと思います。
強いプロダクトがあれば説得力はいらない
ただし、そんなテクニックがなくてもユニークでユーザーから求められるプロダクトがあれば関係ありません。InstagramがFacebookに約1000億円で買収されたときの社員数は13人、Whatsappが約2兆円で買収されたときの社員数は55名でMAU(月間アクティブユーザー数)は4億人を超えていました。
逆にいうと、ユーザーから求められていないプロダクトや会社を、調達や採用で"説得力"を使ってゴリ押しするなら、その行為は間違っています。存在しないプロダクトを無理やり売り込むならばそれは詐欺師にもなりえます。TheranosのElizabeth Holmesは説得力が飛び抜けて優れた起業家でした。ただ問題は、約束していたプロダクトが存在していなかったこと。「説得力があるかどうか、どう説得力をつけるか」を考える前に、「目の前のユーザーに愛されるプロダクトを作れているか」、ユーザーをプロダクトを通じて"説得"できているか、考えてみてください。
事業ドメインによる説得力の違い
事業ドメインによっても、説得力の重要性は変わります。大見さんが事業を行うフードデリバリーや、フィンテック、ライドシェア/バイクシェア/スクーターシェア、シェアリングエコノミー、不動産系など、ネットワーク効果が重要だったり、スイッチングコストが高かったりする領域では"説得する力"はより重要度を増します。PMFを前提に、競合よりも早くユーザーを獲得してネットワークの価値やスイッチングコストを高めるため、できるだけ多く資金調達を行い効率的に資金投下することが事業の価値を向上させるからです。
一方で、Instagram, Whatsappプロダクトドリブンで少人数で事業がスケールしてしまうような事業(段々と稀になってきていますが)は、そこまで強い説得力は求められない(逆に信じられないような優れたプロダクトが求められる)と思います。
最も大切なこと: ビジョン
スタートアップの起業家が説得するとき一番大切になるもの、それはビジョンです。繰り返しになりますが、スタートアップには実績もブランドもありません。そのときに相手にリスクをとり、将来を賭けてもらうのは、起業家のビジョンに共感してもらう以外ありません。
ビジョンと聞くと、「XX業界を変える」など大きいほうが"すごい"と考えられたり、「アフリカの飢餓を解決する」など高尚であるほうが"偉い"と考える人も多いと思いますが、僕はそう思いません。ビジョンは大きければいいわけではないですし、高尚である必要もないと思います。ビジョンにすごいも偉いもありません。
ビジョンで大切なのは"本気度"だと僕は思っています。本気で起業家自身がそのプロダクトが必要だと思っているか、人生をかけてその事業を成し遂げようとしているか、最後まで逃げずにブレずに闘ってくれるか。ビジョンが小さく聞こえようが、社会を変えるようなものでも人類を救うようなものでなかったとしても、本気で実現しようとしているビジョンが説得力を生みます。起業家が本気でなければ人はついてこないと思います。
映画マネーボールで、セイバーメトリクス(統計を使った野球の分析)でこれまでの野球のスカウトの方法を180度変えようとしたものの、思ったほど結果が出ずチーム内部から大きな反発を受けた主人公。さらに反感を生むような意思決定を行おうとした際に、右腕であるアナリストにこのまま統計に基づいた意思決定を続けるとクビになりますよ、と指摘をうけます。その時のセリフです。
その通り。
きっとクビになる。そのとき俺は高卒の44歳で大学へいかせたい娘もいる。君は25歳、イエール大学卒。立派な職歴もある。
だが何が大切だ。
大切なのは本気でこれ(セイバーメトリクス)を信じているかだ。
誰に説明が必要だ?
誰にも必要ない
結果はともかく 俺はやる。
みなさんが、本気で信じられる事業を見つけられ、それに共感してくれる仲間に囲まれて、何があっても成し遂げたかった目標をチームで達成できることを祈っています。
つづく
ここまでお読みいただきありがとうございました。このB. 他人との関わり方の"説得力"以外のもう一つのトピックは"アドバイスを聞く力"です。ただ"アドバイスを聞く力"は7つの特徴の中で最も難しい力だと思っていて、実は書いていたら内容が多くなってしまったので、別ポストにして週明けにでもポストします。是非またお読みいただけたらうれしいです。