起業家気質: 不確実性と変化を楽しむスタートアップな人たち
Noteを書き始めて一番最初に「米国VCが好む起業家の7つの特徴」という文章を書きました。その記事では書かなかった起業家の「当たり前の」性格、そもそもこれがないと多分起業すらしないだろうという、"起業家気質"について今回は書いてみます。
これらの性格は起業家だけに共通するものではありません。スタートアップにいる人たちの多くが持つ性格です。最近大手企業などにいる方や様々な人がスタートアップへの転職に興味を持ってくれるようになりました。そういう方にも参考になればと思います。
1. 楽観性
英語で"What could go right vs what could go wrong" (何があれば上手くいくか vs 何があれば失敗するか)という言い回しがあります。
この2つの立場によって、なにか選択肢を考えるときに同じデータがあっても、同じ状況でも、発想や物事への取り組みが大きく変わります。
スタートアップは「不確実性の集合」のようなものです。このプロダクトはユーザーに刺さるか、マーケティングプランはうまくいくか、マネタイズは?
スタートアップにおいて確実な事を言うとするなら「スタートアップにおける不確実性は消せない」ということです。いくら調べても、いくら考えても、どんな賢い人でも不確実性を消すことはできません。
その不確実性を目の前に、失敗しそうな理由は、もういとも簡単に思いつきます。極力失敗を減らすような思考トレーニングを受けてきた方、リスクを避けることが重要な組織にいる方にとってみたら、もうスタートアップなんて正気の沙汰ではないと思います。
そんな正気の沙汰でない環境にいるスタートアップにいる人たち、起業家は、端的に言うと、楽観的なんだと思います。「きっと上手くいく」「多分なんとかなる」という思考の持ち主。そして大きな栄光のためには不確実性は避けられないことを理解している人たち。
「この事業うまくいくんですか?」「競合に勝つ確率どれくらいあるんですか?」と聞かれたスタートアップの人は心のなかでこんな感じで思っているかもしれません。
「出る前に負けること考えるバカいるかよ!」
ただし、スタートアップ経営者は得てして長期的には楽観的だとしても、短期的にはとても悲観的で強迫観念にとらわれていたりしますが、これはまた経営者にとってはとても重要な資質だと思います。
2. 変化への適応性
スタートアップのもう一つの特徴は「スピード」です。今この記事を書いているのはオリンピックの直後ですが、開会式からたった2週間とは思えないくらいたくさんのことが起きました。これとスタートアップでの生活も似ているかもしれません。1年とは思えないくらい様々なことが起きます。
喜びも悲しみも、希望も興奮も怒りも落胆も、仲間との出会いや別れも、全てが短期間で訪れます。計画通りに物事は進まず(いい意味でも悪い意味でも)、想定していたやるべきことは日々変わっていきます。
練りに練った「計画」通りに事が進むことは決して多くない環境です。
ボクシングのマイク・タイソンの言葉にこういうものがあります。
誰もがゲームプランを持っている。顔面にパンチを受けるまでは。
Everybody has a plan until they get punched in the mouth
スタートアップでも顔面にパンチを受けてからがゲームスタートです。スタートアップにおいて「変化」は当たり前の存在。むしろ変化を「新たな経験」として楽しみ、またむしろ自分からどんどん環境を変えていくタイプの人が多いのかなと思います。
3. 創造性
「変化」は多くのケースであまりうれしいイベントではなく、ストレスがかかります。自分が想定していたプランから外れるため、事前に蓄えてきた知識、予算、人的なネットワークの意味がなくなります。
そして、知識も予算もネットワークも不足しているのがスタートアップ。ところで創造的にやりくりする能力が求められます。
オリンピックでも番狂わせがたくさん起きました。強いチーム、王者が圧倒的に優位な中で、番狂わせを起こしたチームは強者に劣る体格や経験や実力の中で、少しだけ相手よりも勝る能力をうまく活用し創造的に戦略を練っていたケースが多いかと思います。
リソースがない状況に文句を言うだけなのか、その中でいかにどう上手くやっていくかと、頭をひねるか。これも気持ちの問題なのかもしれません。
4. キアコン
一度僕のボスと起業家とのミーティングの後に、トイレでこう言われたことがあります。
「起業家にとっていちばん大事なことは何かわかるか?"キアコン"だよ。」
キアコン = 気合と根性です。
あの迫力のある雰囲気で、極めて論理的に物事を考える人から、キアコンという言葉が出てきて衝撃を受けたことを覚えていますが、まさに気合と根性こそ「不確実」で「変化の多い」環境を、特に苦境を乗り越えるために必要なものです。
気合と根性とは、ドラクエで言えば「ガンガンいこうぜ」。守りに入るのではなく、考えている暇があれば、とりあえず攻撃するという姿勢。
それから、僕もさまざまな起業家の浮き沈みを見た結果、おうすけさんの受け売りとして、いろんな起業家の方にキアコンの話をさせてもらうようになりました。
キアコンを生み出すエネルギーは人によって異なると思います。
小さい頃の原体験をエネルギーにする人、怒りや悔しさをエネルギーにする人、負けたくないという気持ちをエネルギーにする人、類まれな好奇心をエネルギーにする人。何をエネルギーにしてもいいと思いますが、自分にとってのエネルギーの源泉を理解して自分らしい勝負をしてほしいです。
5. 勇気、大胆さ
スタートアップは大きくなっていけばリスクは減っていく、わけではなく、不確実性は残り続けます。
スタートアップが大きくなれば新しいリスクと向き合うことになります。PMFがあったとしても、競合が出てきてせっかくの顧客が取られるかもしれません。先を見据えた組織の拡大だって、事業がついてこなかったことを想像すると恐ろしい。
ある市場で独占的になってきたとしても、新たな市場への参入や新プロダクトローンチを行う際は、また一からの立ち上げのやり直しとも言えます。
事業が進んだからと言ってリスクが減ることがないという、だけではなく、事業が進むと一つの失敗のインパクトが大きくなります。組織拡大による失敗の大きさも、1人が3人になることと、100人が300人になることは、失敗のインパクトが異なります。
そのような中で、いま現在大きくなっているテック企業はいくつもの痺れる意思決定をし続けているケースが多いです。マーケティングへの資金投下、新規事業の開始、海外進出。ある意味で、成功企業は一番多く「潰れそうな瞬間」を経験している会社とも言えるのではないでしょうか。
スケートボードなども上手くなれば失敗の可能性が減るなんてことはまったくなく、より大きな成功のために失敗するリスクを取り続ける必要があります。
そして失敗するリスクをギリギリまでとって得られた成功、それによる栄光や感動は計り知れません。
オリンピックの男子リレーも栄光のためのリスクをギリギリまでとったチームだと思います。結果を見てただの失敗と呼ぶのではなく、栄光に挑戦したプロセスこそ称賛されるべきだと思います。
(↑「失敗するリスク」なんて気にもとめない姿がかっこいいです)
成功に成功を重ねた上でも、さらなる成功のために失敗するリスクをとり続けられる人はどういう人なのでしょうか。ソフトバンクの孫さん、ファーストリテイリングの柳井さん、など普通の人ならもう十分満足しそうな段階でも何度も何度も大きなリスクをとっています。
消費から得られる効用(満足の度合い)を表した効用曲線というものがあります。一般的な人であれば、10億円手にすること(とそれに伴う消費)と、100億円手にすることの満足度が10倍異なることはなく、ある程度を過ぎると満足度はもう大体同じになるはずです。孫さんや柳井さんは一般的な効用曲線に乗っているように思えません。巨万の富を得た上でも、類まれな起業家は全く満足せず勇気を持って挑戦しつづけます。
事業の目的が財産の獲得(Mercenary)であったならば、合点がいきませんが、そのような起業家は、事業の目的が自身や起業のミッションの達成(Missionary)であることが多いかと思います。
そしてその自身や企業のミッションを事業の目的にするいる起業家(Missionary)が、勇気や大胆さを持ち続け、前の記事にも書いた成功する起業家の条件である「執念」を強く持てるのだと思います。
6. 誠実さ
最後に、必ずしも"起業家気質"とは言えませんが、大切になる気質をあげるならば「誠実さ」だと思います。
以前、起業の戦略を考える上で大切なMoat(競合優位性)について記事を書きましたが、そこで引用した投資家のバフェットの言葉を再掲します。
The most important thing, what we're trying to do is to find a a business with a wide and long lasting moat surrounded and with protecting a terrific economic castle with an honest Lord in charge of the castle and in essence that's what business is all about.
(投資や事業において)最も大切なこと、私たちが常に探し続けているものは、"広く、長い期間続く堀(Moat)"と、それが守る"素晴らしい事業という城"、そしてその城を司る"誠実な城主"です。本質的に、それがビジネスの全てです。
こちらでバフェットはMoat同様に、経営者の誠実さも事業で最も大切なこととして挙げています。
不確実で、変化とスピードが早いスタートアップでは、意思決定やコミュニケーションが迅速に行われます。一つ一つ相手が言っていることの裏付けをとったり、事実を調査する時間がないケースが多いのも事実です。
そのような状況だと、「不誠実」に相手を扱ったり、ときに騙したりすることさえできてしまうかもしれません。だからこそ「誠実さ」が大事になります。
競争が激しく生き馬の目を抜くスタートアップの環境にいると「誠実さ」について語られることは少ないかもしれませんが、「誠実さ」を大切にしてほしいと思います。
社会が求める起業家気質
冒頭に「"起業家気質"は起業家だけでなく、スタートアップにいる多くの人が持つ性格」と述べましたが、これはスタートアップだけでなく、今後変化が起きやすい不確実な社会においても求められる気質だと思っています。
テクノロジー、インターネットの進化によって、情報が(正しいものも誤ったものも)大量に溢れ、これまでより早く国を超えて伝搬し、今までは触れることがなかった人々や社会とコミュニケーションと競争が求められる社会は、その「不確実性」「変化」「スピード」においてはスタートアップと変わらないと思います。
なのでスタートアップとは関係のない組織にいる方でも、"起業家気質"が求められる局面は増えてくるのではないでしょうか。
また、いま"起業家気質"に溢れる多くの方も、以前は"起業家気質"を持っていなかったかもしれません。大企業からスタートアップに移った方でも当初は困惑した方が多いと思います。ただ、スタートアップで時間を過ごすうちに、だんだんと性格は変わっていくものです。
大切なのはどのような環境に身を置くか。誰と一緒に時間を過ごすか。人間は自分の周囲5人の平均になります。"起業家気質"を持つ人とともに時間を過ごせば、自然と自身にも"起業家気質"がついていくでしょう。
今後そのような"起業家気質"を持つ人が社会に増え、挑戦や失敗を称える社会が来るといいなと思っています。
* この記事は起業家"的な"性格についてですが、「成功する起業家」に求められる能力の記事はこちら
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