熊谷知事のお知らせ『東京都知事選』

東京都知事選が始まりました。非常に多くの候補者が立候補し、選挙ポスターで過激な表現が問題になっていますし、これからは政見放送がおそらくカオスになるのだろうと予測されます。

私は以前から公選法を改正し、選挙ポスター・選挙カーなどの手厚い公費支援を見直し、その代わりに諸外国の中で異常に高い供託金を引き下げることを提起してきましたので、今こそ議論を広げてほしいと思います。

供託金自体が一定のお金を払える人のみが立候補できるという、ある種、憲法で保障された被選挙権を制限するものであり、民主制としては望ましいものではないと考えます。

一方で選挙カーや選挙ポスター・ハガキなどが全て公費で賄われるのですが、ネット選挙の時代、選挙カー自体が不要という候補者もいる中で、そろそろ公費支援の対象を見直す議論があって然るべきです。

youtubeで個人が利益を上げることができるようになった現代において、国政選挙や知事選などの大型選挙における選挙ポスターと政見放送は、売名行為として供託金分を回収できると見込めるものになっており、選挙の本質を大きく歪めるものです。

そして、選挙の対象有権者の一部(数百~数千)の署名提出をもって立候補者とする等の足切り条項を設ける方が、供託金という「お金」を積んで足切りにするよりもマシだと思いますし、候補の乱立も防げるかと思います。

マスメディアには表層的な報道ではなく、ましてや悪ふざけしている候補者を視聴率・インプレッション目的で過剰に取り上げ、売名目的をさらに満たすような真似はせず、日本の公選法と諸外国の選挙関連の実態を比較の上で、日本の今に合った制度議論を展開して頂きたいと切に願います。

<長い追記>

都知事選は「東京がニューヨーク・ロンドン・シンガポール・上海といった世界の大都市と、どのように戦うのか」といった産業政策・都市づくりの視点が重要です。
この間見ていると、主要候補者の政策、マスメディアの報道も、都民にいかに分配するかという視点が比較的多いと感じます。
首都・東京が世界の主要都市との都市政策や産業施策の競争で劣後すれば、それは日本全体の経済衰退に繋がります。
都民への大盤振る舞いは有権者にとっては嬉しいことですし、選挙に当選するために一定程度はやむを得ないかもしれませんが、その分、企業からの貴重な税収を投資ではなく分配に回すことになります。
「東京」という都市がどの視点で比較評価されるべきか、是非この機会に議論が深まって欲しいと思います。
誤解のないよう申し上げると、支えを必要とする方々への支援は必要ですし、充実すべきです。
東京が進めている所得制限無しの各種無償化は莫大な費用を毎年発生させるものであり、その是非はきちんと議論されるべきと感じます。
新型コロナウイルス感染症の拡大以降、給付や補助などの大型事業が相次いで行われ、それが政策論争の中心になってきた感があります。
<ここから長い追記>
「東京は地価が高いから、金銭的支援が必要」という主張がありますが、そもそも地価が高い東京にこれ以上人を増やすこと自体が社会全体のコスト増に繋がっていて、本末転倒と感じます。
人口減少の時代の中で限られたパイを取り合う政策はあまり意味がありません。私は千葉市長時代、重視していたのは人口増施策ではなく就労人口増の施策です。
千葉市は人口が当時97万(現在98万)で、かつ政令市になる条件が「いずれ100万人に到達する」だったこともあり、伝統的に「なんとか100万人に到達しないと」という意識が市役所・市議会にも一定程度ありました。
人口増のためには、マンション含めた住宅施策や、都市間競争に打ち勝つ手厚い子育て支援施策(それも分かりやすい医療費助成や各種給付系)を行うことが考えられるわけですが、そうやってベッドタウン的な施策を行っても一時的な人口増でしかありません。
手厚い子育て支援で人が集まっても、その子ども達が千葉市に住まなければ自治体収支的にはマイナスであり、手厚い子育て支援はいずれ他自治体が追随して消耗戦になるだけです。
それよりも千葉市の特徴(東京への通勤者が意外と少なく、周辺の雇用の受け皿になっている)を活かし、より就労・創業の場として魅力を高め、消費都市ではなく生産都市を指向するべきとの方針を取りました。
これは自治体収支的にもプラスで、企業立地を促進するなど産業施策を強化することで固定資産の投下を促し、基礎自治体の根幹財源である固定資産税の増収を図り、市民福祉の安定財源を確保することに繋がります。
また、千葉市は東金市や茂原市などからの流入によって人口が維持・増加していたのですが、千葉市より先の自治体が人口減少することによって千葉駅に上って購買する層が減少し、中心市街地の活力低下を招いていました。
企業立地施策を強化し、千葉市に多様な就労の場を確保することで、千葉市に通勤する住民を増やす、周辺自治体の人口のダムになろうとしたのです。
東京都が目指すべきなのは、東京都の人口増ではなく、シンガポールや上海、ソウル等にアジアの拠点や研究機関を構えようとしていた企業を呼び込んだり、東京のスタートアップ企業や大学等が世界に打ち勝っていくための施策など、海外のエネルギーをいかに日本国内に取り込んでいくか、です。
また、東京にある歴史遺産を活かし、かつ新たなデザインや建築技術などの創意工夫を凝らし、100年後も1000年後も引き継がれる都市景観や都市文化を作り上げることです。
もちろん、東京都もこうした観点で様々な施策を展開していますが、トップである知事自身がこの視点を強く持ち、職員や民間をコーディネートしていくことが求められます。
私も千葉県知事として、成田空港や柏の葉などの拠点を活かし、アジアや世界を考慮した産業拠点形成などを進めていますが、東京はその拠点性と豊富な財源を活かし、まだまだ施策を強化できると思います。
東京都が豊富な法人税収によって都民への直接給付や無償化を過剰に強化し、直接給付・無償化が主な理由となって本来の居住地選択を東京都に変更させるような、より東京一極集中を強めることは、東京都にとっても首都圏にとっても日本全体にとってもあまりベストな解ではないと考えます。

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※転載に当たっては熊谷知事の許可を得ています。


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