創作ストーリー 空を越えて
大学受験に挑む高校生をテーマにした創作ストーリーです。
空を越えて
冬の朝。澄み切った空気の中で、受験会場へ向かう電車がホームに滑り込む音がした。
高校3年生の松岡遥（まつおか はるか）は、ぎゅっと鞄の肩紐を握りしめ、ゆっくりと電車に乗り込む。車内の広告が彼女の視界をかすめた。「未来は君の手の中に。」大手予備校の広告が誇らしげに謳う言葉だ。
「未来なんて、まだ何も見えないけどね……」
窓ガラスに映る自分の顔に向かって、遥は小さな声でつぶやいた。
遥の目指す大学は東京にある名門校。進学率が高く、学びたい心理学の分野でも評価が高い。地方都市に住む彼女にとって、東京の大学は憧れと同時に、どこか手の届かない場所のようにも思えた。
彼女が本格的に大学を意識したのは、高校2年の秋だった。家族旅行の途中で見かけたカフェで、偶然大学生の先輩と話をする機会があった。都会での学生生活に目を輝かせながら語るその姿は、遥にとって新しい世界を垣間見せる窓だった。
しかし、彼女が置かれている現実は厳しかった。偏差値は決して高くなく、模試の判定も「D判定」ばかり。それでも彼女は諦めなかった。
「お姉ちゃん、また夜更かし？」
部屋のドアを少しだけ開けて顔を出したのは、中学2年の弟・健太だった。
「うん、でも大丈夫だよ。もうすぐ終わるから。」
健太の心配をよそに、遥は参考書に視線を戻す。数学の応用問題がどうしても解けず、ページの端がすっかりクシャクシャになっている。
ふと、スマートフォンに通知が届いた。親友の沙希（さき）からのメッセージだ。
「明日の模試、緊張するね。泣きそうだけど頑張ろう！」
沙希も同じ大学を目指す仲間だった。彼女との励まし合いが、遥の支えとなっていた。
部屋の窓を見上げると、夜空に星がひとつ瞬いているのが見えた。
「未来は君の手の中に、か……」
遥は小さく息をつきながら、ペンを握る手に力を込めた。
翌日の朝、冷え込む空気が遥を目覚めさせた。ベッドから起き上がり、窓を開けると冬の澄んだ空気が頬を刺すように冷たい。それでも遥は、心のどこかに小さな期待を感じていた。今日は模試の日。この数週間、どれだけ自分が成長したのかを試す日でもあった。
「お姉ちゃん、お弁当忘れないでね！」
キッチンから母の声が聞こえる。テーブルの上には、いつものおにぎりと保温ポットに入ったスープが置かれていた。
「ありがとう。行ってきます！」
遥は笑顔で返事をし、慌ただしく家を飛び出した。
会場に到着すると、すでに多くの受験生たちが列を作っていた。みんなそれぞれの不安や期待を抱えているのだろう。遥もその中に立ちながら、手の中でぎゅっと鉛筆を握りしめた。
「遥！」
背後から沙希の声がした。いつも通りの元気な表情が彼女の不安を少し和らげる。
「おはよう、沙希。準備は大丈夫？」
「うん、たぶんね。でも数学だけはまだ自信ないや。」
「私も。けど、やるだけやろう。」
沙希と軽く拳を突き合わせ、遥は笑顔を見せた。
試験のチャイムが鳴り、会場は一斉に静まり返った。遥は深呼吸をして、最初の問題に目を落とす。数学の問題は、見た瞬間に「これは無理だ」と思うものもあったが、一つ一つ冷静に解いていった。
模試が終わった帰り道、遥と沙希は駅前のカフェで一息つくことにした。熱いココアを手にしながら、沙希が口を開く。
「ねえ、遥。今日はどうだった？」
「うーん、悪くはないけど、完璧でもないかな。でも、少しはできた気がする。」
「そうだよね。なんか、不安なのに少しだけ自信がある感じ。」
沙希が笑うと、遥もつられて笑った。
その時、スマートフォンの通知が再び鳴った。画面を見ると、地元の進学塾で講師をしている恩師・高橋先生からのメッセージだった。
「模試お疲れ様！手応えはどうだった？今日の結果は次の勉強に繋がるから、あまり一喜一憂しないこと。君ならできる。」
先生の言葉が胸に響いた。あの夏休み、どうしても解けなかった問題を一緒に考え抜いてくれた高橋先生。その時の「努力を諦めない君が好きだよ」という言葉を思い出した。
「沙希、私、まだまだ頑張れる気がする。」
「何それ、急にどうしたの？」
「ただ、ちょっと自分を信じてみようと思っただけ。」
そう言うと、遥はカップの底に残ったココアを飲み干した。
それから数週間、遥はさらに努力を重ねた。学校が終わった後も図書館や塾で遅くまで勉強を続けた。苦手だった数学の応用問題も、一問一問確実に解けるようになってきた。
迎えた大学入試当日。遥は受験会場の門の前で立ち止まり、深呼吸をした。振り返ると、これまでの努力の全てが背中を押してくれる気がした。
「私なら、きっと大丈夫。」
そう自分に言い聞かせ、遥は自信を持って試験会場の中へと足を踏み入れた。
入試当日、全力を出し切った遥だったが、手応えがある科目もあれば、そうでないものもあった。特に数学は、模試のときよりも難しく感じ、試験後に悔しさで涙が出そうになった。
「でも、終わったんだから、あとは待つしかない。」
帰り道、電車の中でそう自分に言い聞かせた。沙希と連絡を取り合い、互いに励まし合いながらも、不安な気持ちは消えなかった。
結果発表の日
3月の風が、春の訪れを予感させる頃。遥は家族と共に、合格発表を見るためにパソコンの前に座っていた。
「受験番号、ちゃんと確認したわよね？」
母の心配そうな声に、遥は緊張した表情で頷いた。番号は覚えているが、それでも何度も確認した。指先が震える中、合格発表のサイトを開き、自分の受験番号を探す。
「……あった。」
画面に映る自分の番号を見つけた瞬間、心臓が止まりそうになった。しばらく信じられず、画面を何度も見直す。
「合格……した。」
遥の呟きに、母が声を上げ、弟の健太が「やったー！」と跳ね回った。父は静かに「よくやったな」と言いながら、そっと遥の肩を叩いた。
その瞬間、努力の日々がすべて報われたような気がした。
新しい生活の始まり
4月、遥は夢に見た東京の大学に進学した。最初の数週間は、都会の生活に慣れるのに精一杯だったが、新しい友人ができ、興味のある心理学の授業を受ける中で、徐々に充実感を覚えるようになった。
ある日の夜、遥は東京の夜景を見下ろす高層ビルの展望台に立っていた。親友の沙希も、別の大学に進学しながらも連絡を取り合っており、二人で「いつかまた一緒に何かしよう」と話していた。
「未来は君の手の中に。」
あの日、電車の広告で見た言葉を遥は思い出した。未来はまだ見えないけれど、手を伸ばせば掴める。努力を続ける限り、きっともっと高く飛べるはずだ。
遥はポケットからスマートフォンを取り出し、メモアプリを開いた。そこに、夢の続きを書き留めるように文字を打ち込む。
「心理学を学び、人の心に寄り添える仕事がしたい。そしていつか、自分のように悩みながらも頑張る誰かを支えたい。」
夜風が髪を揺らし、遥は空を見上げた。その先に見える星々が、遥に新しい目標への道しるべを示しているように思えた。
「これからも、頑張ろう。」
遥は静かにそう呟き、心の中で未来への誓いを新たにした。
Written by Akemi (ChatGPT)
Directed & Produced by Kenichi Iwase