往復書簡という言葉の持つ特別な響きについて
結城さん
結城さんにこうして手紙を書くのは実に2年ぶりですね。2016年3月の僕らのバイト先での送別会で、あなたに手紙を読んだのは僕でした。
僕は学部を、あなたは大学院を卒業するタイミングだったので、2人とも職場からは見送られる立場でした。
すなわち、見送られる立場の僕が、見送られる立場のあなたに手紙を読んだのです。異例の手紙でした。
「卒業していく先輩に対して、これからの職場を担う後輩が手紙を読む」というのが通例でしたから、それを破壊してしまったことを大変申し訳なく思っております。
……ウソです。全然申し訳なく思っておりません。あの時にあなたに手紙を書くのに最もふさわしかったのはやはり僕だと未だに思っております。ダントツで僕があなたを尊敬していましたし仲が良かったと自負しております。
さて、僕は記録を蓄積させるのがやたら好きなタイプなので、あの時に読んだ手紙の文面がまだEvernoteに残っておりました。
一部、転載してみます。
(前略)
ここではとても書ききれないくらい、結城さんには色々と話を聞いてもらいました。
結城さんは自分でグイグイ来るタイプではないので、食事にはいつも僕が誘っていましたね。
「俺今日は早く帰りたいんだよ!」みたいなことを言いながらもなんだかんだ来てくれたのは、結城さんも大なり小なり楽しんでくれていたからなのでしょう。
僕達の会話はもっぱら僕が話し役で、結城さんが聞き役でした。
大抵は僕が突拍子もないことを言い、結城さんがそれを冷静に諌める、という会話でした。
僕はそんな結城さんを、勝手に師匠だと思っていました。
理系人として、塾講師として、大学の先輩として、人間として、僕の師匠でした。
大抵の悩み事は結城さんに話しました。
結城さんから返ってくる回答は、いつも冷静で客観的で、でも結城さんらしい温かみのあるものでした。
(後略)
……はい、エモい。我ながらエモいですね。大学卒業間際でエモいモードMAXの時に書いてるから、エモさが限界突破しています。
で、今回の往復書簡を始めたきっかけとしては、この手紙の中にまさにある、
大抵は僕が突拍子もないことを言い、結城さんがそれを冷静に諌める
このやり取りがどうしようもなく愛おしくなったからですね。
議論をもっとしたい。ちゃんとがっしり議論を受け止めてくれる人と、お互いに敬意を払いながら本音を出せる議論をもっとしたい、そんな感じです。この往復書簡は、そんな議論の場所を作れたらいいなと心から思っております。
往復書簡の開始を快諾頂けたこと、心より嬉しく思います。いつまで続くか分かりませんが、これからしばらくよろしくお願いいたします。
さて、まず何を書いたら良いのか分からないので、僕が憧れてやまない「往復書簡」という言葉について書いてみます。
そう。僕は往復書簡という言葉にあこがれています。
「往復書簡やってるんだぜ」と言いたいがためにこの往復書簡を始めたフシすらあります。
往復書簡、すごく知性を感じる言葉です。偏差値で言ったら66くらいあります。他に偏差値66の四字熟語としては、「覆水難収」等があります。知ってます?覆水難収。
「覆水盆に返らず」と同じ意味らしいです。「それなら覆水盆に返らずって言えよ」という怒りがちょっと沸いて来ますが、こんなマイナー四字熟語を知ってたらちょっとカッコいいですよね。覆水離収。
……何の話でしたっけ?あ、そうだ。「往復書簡」だ。「覆水難収」とか余計なこと言うから話が錯綜してしまいました。「往復書簡」の話に戻ります。
往復書簡という言葉が好きなので、最初にこの文章を書くにあたって、「往復書簡」とGoogleで検索してみました。
結果は、「湊かなえの小説についての情報がいっぱい出てくる」という結論で終わりました。(往復書簡という作品があるようです)
僕はこの結果にガッカリしました。「往復書簡」という言葉にふさわしい重厚な往復書簡が出てきてほしかった。
昔の文豪とかインテリとかが、誰に見せるワケでもなくお互いの意見交換のために書いた文章。カッコいいじゃないですか。そしてそこから物語が読み取れたり、心の交流が読み取れたり、あまつさえ後年、本として出版されたりするワケですよ。これは凄いことだと思います。
そんなわけで、湊かなえの検索結果はスルーして、お手本になる往復書簡を探しました。
……すると、良いのが出てきました。
高校の同級生だった2人は、正岡子規が死ぬまで手紙のやり取りを交わしたんですって。すごく良さそうですね。
Amazonのレビューを引用します。
時に阿呆でふざけた内容、時に熱く語り、また批判しながらも、親友で有り続けた二人。真っ向から批判したものの、ちょっとした齟齬だった時の漱石の平身低頭ぶりも可笑しい。
ですって。すごく良さそうじゃないですか。僕はこういうのをやりたいのです。
ということで、この往復書簡を参考にすることに決めました。
そしてKindle版を購入し、読むのを待ちきれずにこの文章を書いています。
参考にするんだったら書き始める前に読まないとダメだというのはもっともな話なのですが、仕方ないじゃないですか。ここまで書いてしまったのだから。覆水難収です。
……はい、ということで、伏線を回収してドヤ顔をしたところで一旦終わりにして、夏目漱石と正岡子規の往復書簡を読もうと思います。
結城さんからの返信があるまでに読み終わっていることを祈りつつ、筆を置きます。
非常に返信がしづらい内容になってしまい恐縮ですが、ご返信をお待ちしております。
P.S. 先日はごちそうさまでした。ワインの飲み過ぎで翌日豪快に寝坊しましたが、とても楽しい夜でした。ありがとうございました。
2018年4月19日 堀元 見
千葉県鴨川市街地のマクドナルドにて。