見出し画像

しょうもないインタビュアーに取材を受けたら「安楽椅子探偵の逆だ…」と感じた話

生意気にも、取材依頼をそこそこのペースでもらっている。月に2~3回くらい。インタビューをお願いされる。

基本的には全部「ギャラはいくらですか?」と聞く。「薄謝で恐縮ですが1万円でお願いします」と言われると、「すみませんちょっと今月は忙しいのでまたの機会に…」と断る。当然だが、10万円だったら忙しくなくなる。僕の忙しさはギャラの提示によって変わるのである。

そういうことで、インタビューを引き受けたり引き受けなかったりしているのだけれど、やればやるほど、上手な人とヘタな人の差が激しいな…と感じるばかりである。

上手な人のインタビューを受けていると、話が盛り上がって楽しい。「オレ、そんなこと考えていたのか」と自分でも衝撃を受ける。潜在意識を引っ張り出すのが良いインタビュアーだ。

それどころか、「インタビューを受けたお陰で、新しい考えが生まれた」ということも往々にしてある。インタビューとは答えを引き出す営みではなく、むしろ答えを与える営みなのかもしれない。


それに対して、ヘタな人のインタビューは地獄だ。「なぜこのプロジェクトを始めたんですか?」というカスみたいな質問を連発する。その答えは今までにあちこちで話しているから、少しでも調べる気があれば聞かなくても分かるはずだ。僕は大人なので「ググレカス」と答えるワケにもいかず、テキトウに答える。今まで10回以上喋ってきた話なので、口がオートマチックで動く。

答えを聞いても、彼らは何か意味のあることは言わない。「へえ~。そうなんですね!すごいですね!では次の質問ですが…」と、事前に準備した質問リストを淡々とこなしていく。インタビューのことをやり過ごすタスクだと思っているのだろう。世界に新しい価値を生む、意味のある仕事をしようと思っていないのだ。

当然、彼らと話していてもまったく楽しくない。どこかで話したような使い古しの話を延々オートマチックで繰り返すだけだ。僕の出演作品を学習させたチャットボットでも同じ回答ができるはずなので、ぜひ彼らはチャットボットにインタビューしてほしい。そうすると僕の工数はゼロでインタビューが終わるし、彼らも一瞬で記事が作れてWin-Winだと思う。


ということで、今回は「上手な人」と「ヘタな人」の事例を一つずつ取り上げて対比しよう。

まずは上手な人の事例を見ることで、世界に価値を生む仕事とは何かを論じる。

次に、めちゃくちゃヘタな人の事例を仔細に見ていくことで、彼を反面教師にすることができる。

そう、これは価値ある仕事を生むための教材として書いた文章なのであって、断じて、しょうもないインタビューのことをこき下ろしたいワケではない。そこのところをご理解いただきたい。


上手い人-中央公論の編集者

雑誌「中央公論」の2023年1月号に僕のインタビューが載っている。

この号のテーマは「効率重視の教養は本物か」である。僕は、ビジネス書を100冊読んで茶化す本を書いたヘンクツ人間としてインタビューされた。

白黒の写真は盛れる。うれしい。


中央公論の編集者のインタビューは本当に上手だった。まず予習の量が違う。ビジネス書100冊本を隅々まで読んできているのは当然、膨大なビジネス書を100冊読む動画アーカイブまで見ているようだった。過去の僕の発言について、僕よりも詳しかった

(この動画から主張を引用されたが、僕は憶えていなかった)


そんな中央公論のインタビュー、冒頭だけWebで読めるのでよろしければどうぞ。良い記事です。「これから面白くなるぞ!」ってところで終わるけど。


この中央公論のインタビューでは、見事に新しい発想を引き出されたと思う。というのも、2つの質問が見事な順番で出てきたのだ。

1問目は、「堀元さんはビジネス書の読者層についてどう思いますか?」だ。「逆説を好まない、物事を深く考えない層でしょうね」と答えた。

2問目は、「それでは、論破というものについてはどう思いますか?」だ。「論破なんて好むのはちゃんと仕事をしたことがない人間だけでしょう。相手の顔を潰してやり込めても良いことなんてないんだから。気に入らない人間の顔を立てる重要性を大人なら知っている」と答えた。

そして、そこで繋がる。1問目と2問目の回答が僕の中でリンクした。「ビジネス書の読者層とひろゆきさんの”論破”の支持層はかなりかぶっているでしょうね。世の中は複雑で、敵を叩き潰せばいいなんて単純な局面は少ない。でもそういう複雑性に取り組むのが嫌な人こそ、物事を深く考えない。ビジネス書と論破は両方とも”複雑性を嫌う”という性質によって好まれているのかもしれません」。

この回答をした直後は「オレ上手いこと言うなぁ。直近の質問をうまくまとめて良い結論に持っていった」と思ったのだが、よく考えるとこれは僕の手柄ではなく、インタビュアーの手柄だ。

恐らく、インタビュアーは元々この仮説を持っていたのだろう。複雑な言説に取り組む力のない人たちは単純な世界を見て生きていて、それゆえにビジネス書を楽しんでいるし論破にも憧れている、と。

だから、それを上手い順番で質問に落とし込むことによって、僕をその結論にたどり着かせたのだ。さながら、大学入試の数学だ。簡単な小問をいくつか解かせることによって、最終的な結論までの道筋を誘導していく。

僕は自分で上手い発想にたどり着いたと思ったが、実際にはインタビュアーの思惑通りに動いていたのだ。「手のひらの上」というとネガティブなイメージだけど、まったく不快な体験ではない。むしろ「素敵な気づきを与えてくれてありがとう」と心から感謝するばかりだ。前述の通り、良いインタビュアーは対象の答えを引っ張り出すのではなく、むしろ新しい答えを芽生えさせるのだ。

なお、このあたりはインタビュアーの性質によるかもしれない。インタビュアーによってはそのまま「新しい答えを自分から言ってしまう」というタイプもいる。たとえば武田砂鉄さんにインタビューしてもらったとき、彼は自分の中にある答えを思い切り喋っていた。「ということは、堀元さんの中にある根底のアイデアは○○ですよね?✗✗したくなるときがあるんじゃないですか?」とめちゃくちゃ自分から切り込んできた。実に的確な考察だったので、「あー、言われてみるとそうかもしれませんね」と答えた。そういうストロングスタイルのインタビュアーもいる。

いずれにせよ、彼らは良いインタビュアーだ。中央公論の編集者にせよ、武田砂鉄さんにせよ、ありふれた思考停止の質問をするのではなく、仮説を持っておもしろい話を引き出そうとしている。頭を使って、自分で価値を生み出そうとしているのだ。


それでは、ヘタな人はどうか。お待ちかね。ここからは思いっきり実例(実名)が出るので有料になる。

単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。いつ入っても今月書かれた記事は全部読める。1月は5本更新なので、バラバラに買うより3倍オトク。

なお、内容を流出させたり本人に伝えたりした人には法的措置を取りますのでよろしくお願いします。法廷でインタビューされる目にはお互い遭いたくないでしょ?


それでは早速見ていこう。ヘタな記事は、こちら……


ここから先は

4,626字 / 2画像

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?