鹿鳴館精神を身につけてる【インテリ悪口本_期間限定公開③】
インテリ悪口
「鹿鳴館精神を身につけてる」
対象
海外かぶれの人。特に、すぐ「海外では~」と言い出す人。
解説
「日本の会社はこれだからダメなんだよね~! アメリカでは……」
……と語り出されると、「うるせえなこのアメリカかぶれが」と話を止めたくなる。
百歩譲ってアメリカで働いた経験があるならまだ許せるのだが、これを言っている人はたいてい日本でしか働いたことがない。伝聞情報とか、2週間旅行しただけの経験とか、ヘタするとイメージだけでアメリカの会社について喋っている。
一方、海外で働いた経験がある人はあんまり「日本の会社はこれだから……」みたいなことは言わない。
アメリカの某IT企業で働いていた友人いわく「オレは日本の会社の労働環境の方が好きだよ。オレが働いてた某企業は職能分離がすごすぎて、1ミリでも自分のタスクから離れた仕事はやらない人ばかりだったから、お手伝いの文化がなくて割と寂しかった。日本の会社いいよね、飲み会とかあるし」とのことだった。リアルな意見だ。
「隣の芝生は青い」という言葉がある。実際にはそれほど良いものじゃなくても、漠然と憧れを持って見つめているとつい信奉してしまいがちである。特に、GAFAみたいな神格化された存在の物語を見すぎていると。
そんな海外かぶれの人は昔から鼻につく存在だったらしく、こういう人を揶揄する言葉はいっぱいある。
たとえば、「出羽守(でわのかみ)」である。これは本来、出羽国の行政官の役職名である。
そう言われてもよく分からないので雑に説明すると、「出羽国」は昔の日本の国名で、現在の山形県と秋田県である。つまり、「出羽守」は「山形県と秋田県の県知事」みたいなものだ。
※この説明は厳密には全然違うので、日本史オタクには怒られそうである。「出羽守は中央から統治のために送られてきてるのであって、地方自治によって選ばれる県知事とは性格が異なっていて……」と怒られそうだ。そういう日本史オタクは論理療法で論駁されてもらうとして、話を進めよう。
この「出羽守」と「アメリカでは~」の「では」をかけて、やたらと「アメリカでは~」と連呼する人のことを「出羽守」と呼ぶようになったそうだ。「海外出羽守」ともいう。
僕はこの言葉を知ったとき、一瞬「おっ、インテリ悪口かな」と思った。「出羽守」という日本史用語を使って人をバカにするので、高尚っぽい雰囲気がある。
しかしよく考えてみると、これは単なるダジャレである。「でわ」という音だけが重要なのであって、出羽守の役職内容とは全く関係ない。高尚というよりは、オジサンのセンスである。「あたり前田のクラッカー」とかと一緒だ。
そういうワケで、「出羽守」はなるべく使いたくない。もっと高尚なヤツを使いたい。だから他に高尚なものがないかなぁと思って調べてみることにした。
すると、「アメション」というのが見つかった。これもやはり海外かぶれ(というか、アメリカかぶれ)をバカにする言葉だ。
もしかしたら使えるかも? 知的な由来かな? と思いながら調べてみると、「アメリカでションベンしてきただけ」だった。もっと下世話。全然知的じゃなかった。
仕方ないので、いつものように自分で何か考えるしかないのかなと思っていた時に、偶然出会ったのがこの「鹿鳴館精神」という表現だ。『知られざる皇室外交』という本を読んでいたら出てきた。
「皇室が和食でなく、フランス料理で外国の国賓をもてなすのは、『鹿鳴館精神』の名残りがあるからです」
(『知られざる皇室外交』Kindle位置No.443-444)
これは東大名誉教授の大沼保昭氏の言葉である。
僕は一発で虜になってしまい、これだ! と思った。「出羽守」とか「アメション」とかでなく、我々は大沼氏のこの言葉を使っていくべきだろう。
「鹿鳴館」は、明治16年に作られた社交のための西洋館である。
明治時代初期、日本政府は「不平等条約を改正したい」と思っていた。これが当時最大の外交上の課題である。
アメリカから黒船がやってきて江戸時代が終わったのは周知の通りである。日本人は圧倒的なアメリカの技術に衝撃を受け、鎖国を終わらせて、不平等条約を結んでしまった。
時は経ち、日本政府は考えた。アメリカになんとか不平等条約を改正してもらいたい。
そのためには、「我々は立派な文明国家である」ということを示さなければならない。
そう。問題は、日本が野蛮な後進国だと思われていたことだ。ほんの10年前まで皆ちょんまげで刀を差して歩いていて、すぐ切腹だの打ち首だのをやっていたヤツと考えられてしまうと、どうしてもまともな外交はできない。
だから、欧米風の立派な社交場を作ることによって、「日本はちゃんとした国ですよ」というアピールをしようとしたワケだ。そこで生まれたのが鹿鳴館だった。
鹿鳴館では、とにかく「欧米っぽいことをするぞ!」と強い気持ちで色々なことをやった。一番は舞踏会である。西洋風の建物で、西洋風の服を着飾って、西洋風のダンスを踊る。これで欧米列強の仲間入りだ!
……とはならなかった。当時の日本人は振る舞いや服の着方などが全くサマになっていなかったようだ。
明治18年に来日したフランス人作家のピエール・ロチは、『秋の日本』の中でこう書いている。
燕尾服というものは、すでに我々にとってもあんなに醜悪であるのに、なんと彼らは奇妙な恰好にそれを着ていることだろう!彼らはこの種のものに適した背中をもっていないのである。……、私には彼らがみな、いつも、なんだかサルによく似ているように思われる。
(『秋の日本』Kindle位置No.862-865 ※強調箇所は筆者)
当時の日本人は必死で西洋風の流儀に合わせて、燕尾服を着て踊っていたはずだ。それなのに、本場のフランス人には「なんだかサルに似ているなぁ」と思われていたのだ。悲しすぎる。
同じくフランス人の画家であり、風刺画をたくさん残したことで知られるジョルジュ・ビゴーは、洋服を着込んだ男女をサルにたとえた絵を描いている。フランス人、めっちゃサルでイジってくるやんけ。
鹿鳴館にはそういうところがある。「必死で欧米に追いつこうとしているのに、全然サマになってない」みたいな、悲しき海外コンプレックスみたいな逸話がいっぱいある。
今になって思えば、別に日本の文化が悪かったワケでなく、単にテクノロジーで劣っていただけなのだ。ムリして燕尾服で社交ダンスを踊る必要はなかった。
でも、当時はそういう中立な立場でのんきなことを言っていられるような世相でもなかったのだろう。エラい人たちは必死で鹿鳴館を作らせて、西洋風の文化をマネしようとした。
大沼氏はそういう悲しいコンプレックス状態を指して「鹿鳴館精神」という言葉を使ったのだろう。
ということで、僕らもこれを使っていくと良いだろう。「アメリカでは~」と言い出すヤツにはすかさず「鹿鳴館精神を身につけてる」と言おう。
「鹿鳴館精神」って文字も響きもめっちゃカッコいいから、なんか褒めてるみたいな雰囲気がある。「武士道」みたいな雰囲気がある。便利なサイレント悪口として、率先して使っていこう。
使用例
「大学ホントつまんない。あー、やっぱ海外の大学行けばよかったなぁ!」
「鹿鳴館精神を身につけてるんだね」
参考文献
・西川恵『知られざる皇室外交』(角川新書)
・松本清張『象徴の設計』(文春文庫)
・清水勲『風刺画で読み解く近代史』(三笠書房)
・ピエール・ロチ『秋の日本』(グーテンベルク21)
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