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インターネット芸人のGIVE&TAKE。あるいは、なぜ僕はDMを返さなくなったか。
『GIVE&TAKE』を読んだ。
数年前に話題だったが、僕は最近まで読んでなかった。未読なのに、「ギバー(与える人)になった方が良い」という結論だけは知っていた。胡散臭い人が盛んに引用していたからだ。
数年前は10万人くらいの胡散臭い人がこれを引用してフォロワーをオンラインサロンに入らせようとしていたので、「うわっ、胡散臭っ!!」と引いてしまい、本を読む気を失ったのは必然と言えよう。
当時、盛んに「今はギブ&ギブの時代なんだ!」という主張をしていた人はどこに行ってしまったのだろうか。彼らはこぞってオンラインサロンを運営し、高額セミナーを開催し、「人にギブすれば必ず自分に返ってくる!」と喧伝したままどこかに消えてしまった。多分、彼らにお金を払っていた受講生に何かが返ってくることはなかっただろう。結果的にはギブ&ロストである。
そういうことで、『GIVE&TAKE』は僕の中でイメージが非常に悪く、読む気にならなかった。胡散臭い人たちのせいですっかりイメージが汚染されてしまった本だ。
しかし、この度思い切って読んでみると、割とマトモで面白い本だった。語り口は軽妙洒脱で読みやすいし、数多くの興味深い統計的事実を紹介している。そして、巷のイメージと違って「とにかくギバーであれば成功する」という本ではない。ギバーは大きく成功するかまたは大きく失敗するかどちらかであるという事実も明記されている。(たしかに、高額セミナーにお金を払って丸損したギバーは大きく失敗しているので、理屈に合っている)
僕は、この『GIVE&TAKE』みたいな本のことを「電マ本」と呼んでいる。
いわゆる「電マ」は、本来ちゃんとしたマッサージ器具である。しかし、ユーザーが勝手に目的外利用をしまくった結果、完全にイメージが汚染されてしまった。もはや、本来の用途で使用する人の方が少ないだろう。
『GIVE&TAKE』も同じである。書籍としては割とマトモで、興味深い統計事実や事例を列挙している。ここまではちゃんとしたマッサージ器具である。
しかし、怪しい情報商材屋とかセミナー講師が「与えるものこそ成功する時代だ!!皆!!どんどんギブしましょう!!」と変な形で使いまくってしまったので、すっかりイメージがおかしくなった。マッサージ器具がアダルトグッズに変わる瞬間だ。
そんなワケで、『GIVE&TAKE』は完全な電マ本なので、読んでみると結構面白い。イメージに引っ張られて食わず嫌いしていた人には、読んでみるのをオススメしたい。
インターネット芸人がDMを返さなくなる理由
面白い本を読んだ時の例に漏れず、今回も色々と考えたり、思いつく仮説があった。
具体的には、「インターネット芸人がDMを返さなくなる理由」を思いついた。多くの人がそうであるように、僕もこの手の仕事本を読む時は自分の仕事に当てはめて考えてしまう。今日はそんなことについて書いてみたい。
本書で出てくる「ギバー(与える人)」は、こんな特徴を備えている。
・損得を気にせず、まずは相手の役に立とうとする
・相手の役に立つことが喜びで、惜しみなく協力する
・相手の視点に立ち、相手にとって何が好ましいかを考える
要するに、「素敵な人」である。
その逆である「テイカー(取る人)」は、当然こうなる。
・自分の損得しか考えていない
・相手の成功は自分の敗北だと考え、足を引っ張る
・相手の視点に立てない。常に自分の視点。
要するに、「ヤバい人」である。
ちなみに、この説明があった後に、マイケル・ジョーダンはテイカーだったという説明がなされる。マイケル・ジョーダンへのダメージが計り知れない本である。「マイケル・ジョーダンにもギブしてあげればいいのに…」とちょっと思った。
『GIVE&TAKE』は、ギバーの良さを説き、推奨している本である。読んでいると、その鷹揚な態度こそが模範的な大人であるように思えるし、僕もそうありたいと感じた。
しかし同時に、インターネット芸人としては実践は困難かもしれないとも思っていた。思いっきりダブルバインドに苦しむ読書体験であった。
というのも、インターネットで暮らしていると変な人から変なメッセージが圧倒的な量来るからである。ギバーであればこれを「まず返信してあげる」べきなのかもしれないが、それはなかなか難しい。
『GIVE&TAKE』で出てくるギバーの事例として、「起業家ひとりひとりのために親切をしまくるベンチャーキャピタリスト」とか「教え子ひとりひとりのために身を尽くす会計の先生」とかがあるが、「フォロワーひとりひとりのために頑張るインターネット芸人」は出てこない。多分、そんな人はいないのである。
インターネット芸人として自分の行動を最適化していくと、DMやらリプライやらを返信しなくなっていくように思う。
僕自身、6年前のメッセージボックスを見てみると、「ギバーっぽい返信」で埋め尽くされている。1円にもならないのに赤の他人の質問に回答しまくっているし、赤の他人に会いに行く予定を入れまくっている。
一方、最近は、そもそも知らない人にはあんまり返信していないし、ましてや意味なく「会いましょう!」となることなど絶対にない。僕は年月を経るとともにギバーでなくなってしまったのだろうか?
だが、少し考えてから、良い解決法を思いついた。これはギバーでなくなったワケではなく、むしろ賢明なギバーになったと言えそうなのだ。
ここから、その詳細について書こう。『GIVE&TAKE』の中に出てくる「賢明なギバーが取るべき戦略」を使って、インターネット芸人がDMを返さなくなる理由を説明したい。
寄せては返す謎の問い合わせ
僕のTwitterのDMボックスは、端的に言うと「地獄」である。ワケが分からない人間のワケが分からないメッセージでビッシリだ。
たとえば、こういうもの。
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