「物件モーセ家賃ジャイアン」という妖怪の被害に遭った話、あるいは悪評を集めることの大切さについて
僕は就職をしたことがない。
大学を卒業していきなりフリーランスになるという、めちゃくちゃ優秀な学生かめちゃくちゃアホな学生しか選ばない進路を歩んだ。
めちゃくちゃ優秀だったので最初から順風満帆だった……ということになればいいのだけれど、決してそうはならなかった。残念ながら僕はめちゃくちゃアホな方に該当したらしい。商売に足を突っ込んでからの5年間、悲惨な失敗をたくさんした。こんなことの連続だった。
①「この仕事、いくらでお願いできる?」と聞かれて「(5時間でできそうだな…時給2000円と考えて…)1万円です!」と回答し、仕事を受ける
②5時間で仕事を終えて、納品する。
③しかし、「もっとイケてる感じにしたい」という謎の修正依頼・「直接話せない?」という交通費の出ない打ち合わせ要求・「うちの社長、今度誕生日だからビデオメッセージちょうだい」というお前は生まれなければよかったのに的な相談などが相次ぎ、余計な仕事が山盛りになる。
④時給が480円くらいになる。小学生の家事手伝いとかに負けそうな時給でヘコむ。
こういう失敗の度に、一つずつ新しい知恵を学んでいった。「コミュニケーションコストを考えて、時給の2倍を請求しなければならない」「めんどくさいクライアントにはストレス料も上乗せして時給の5倍請求しなければならない」といった商売の基本を理解したのはこの頃だ。今になって思えば当たり前のことなのだけれど、あんまり優秀じゃなかった僕は体当たりで学んでいくしかなかった。
「人間の評判を収集するのは大切」という初歩的な教訓も、体当たりで学んだことの一つだ。
商売人は「同業者との飲み会」にしょっちゅう出ていく傾向がある。
当時の僕にはこれがよく分からなかった。ご機嫌取りが必要なクライアントとの飲み会ならともかく、同業者と飲みに行く意味がどこにあるのか。そりゃあ仕事の愚痴を言い合ったり、仲間意識で盛り上がったりすることはできるだろうけど、それってそんなに必要なことか?
仲間内で時間とお金を消費するだけの場をバカバカしく感じた僕は、そんな場にあまり寄り付かなかった。
結果、手痛いしっぺ返しを食らうことになる。
圧倒的な取材力で政財界を克明に描き出す作家・城山三郎は、ベストセラーになった小説『打出小槌町一番地』の中でこう書いている。
鮮度のいい、いい情報というのは、インフォーマルな人間関係から生まれてくるものなんだ。
城山三郎.打出小槌町一番地(新潮文庫)(Kindleの位置No.644-645).新潮社.Kindle版.
『打出小槌町一番地』に登場する超やり手の銀行マンは、週7で飲み会の予定を入れている。平日の夜は銀行関係者と、土日の夜は前職である商社勤務で知り合った人たちと飲むために使っていた。
それが彼なりの仕事術だったのだろう。インフォーマルな人間関係を持っておき、「鮮度のいい、いい情報」を入手し、銀行の支店長として圧倒的な結果を出した。
商売人デビューを飾ったばかりの僕にはよく分からなかったのだが、同業者の飲み会には単なる仲良しこよし以上の圧倒的な意味があるのだ。
今日はそんなことを実感した話をしたい。商人ビギナーの僕が、物件モーセ家賃ジャイアンという一人の妖怪に騙された時の話だ。意味が分からないと思うが、本文を読んでいる内に理解できる。
物件モーセ家賃ジャイアンはひどく評判の悪い人物で、彼が妖怪であるという情報には容易にアクセスできた。彼は非常識な金銭トラブルをたくさん起こしていた。しかし、当時の僕はトラブル談義が飛び交うような飲み会にほとんど出ていなかったので、この情報を取り損ね、ダメージを受けることとなった。インフォーマルな人間関係は大事だなと学んだ一件だ。
同業者の飲み会には大なり小なり、妖怪についての情報収集という側面がある。ヤバい妖怪の情報は口伝で語り継がれていくのである。ヤバすぎるムーブを繰り返すヤツは、都市伝説ならぬ同業者伝説になる、そういうことは往々にしてある。
ということで、以下実名と写真を出しながら物件モーセ家賃ジャイアンのやったことや飛び交った評価について見ていこう。
皆さんは単なる妖怪ウォッチとして楽しむのもよし、要注意人物の情報として捉えるのもよし、意識高い系学生起業界隈で起こった愉快なトラブルの見聞録として捉えるのもよしだ。
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