巧みなストーリー展開で目が離せないエロTwitterアカウント1選。あるいは、20年前のエンタメの遺伝子を継ぐ唯一の存在について。
いま一番おもしろいTwitterアカウントは何だろう。僕はその答えを知っている。
ずばり、このエロアカウント「るな」である。
多分みなさんは「何を言ってるのか分からない」ってなったと思う。そりゃそうだ。誰がどう見てもよくいるスパムエロアカウントで、おもしろい要素など一切ありそうにない。
だが、これがめちゃくちゃおもしろいのだ。
実は、このアカウントは途中まで凡百のエロアカウントだったのに、中の人が一念発起したのを機に、突然ストーリーを紡ぎ始めたのである。
このストーリーがあまりにも魅力的なので、その全容を抜粋して考察しつつ、最後には「今は死に絶えてしまったとあるコンテンツの遺伝子を継いでいる」という結論を導く。1万2000文字の長い記事になるが、お付き合いいただきたい。
「るな」の概要
まずは「るな」の基本情報を確認しておこう。固定ツイートはこれ。
彼女がしきりに誘導するのは有料の出会い系サイト・動画サイトであり、どう見ても業者のアカウントだが、一応の設定としては「サッカー部マネージャーの女子高生」ということらしい。
このアカウントがおもしろくなるのは2024年からである。2023年までは、非常に凡庸なエロアカウントという感じだった。つまらない。
「カラオケでエッチなことをしちゃったから、いいねしてくれたらその動画送ります」的なツイート。エロスパムアカウントに典型的によく見られる形だ。
しかも、画像の使いまわしもひどい。1ヶ月半ほどの周期で同じ画像が投稿されている。上のツイートは7月5日だが、下のツイートは8月23日のもの。
画像が同じであるだけでなく、「カラオケからの帰宅中」「個室でフ◯ラしちゃった」という設定までまったく同じであり、運営者のやる気は一切感じられない。なお、なぜか文面が微妙に違うので、毎回わざわざ手動でツイートしていると思われる。なんだその中途半端な行動。コピペするか全然違う文面にするかどっちかにせえや。
っていうか、中身がAIなのかもしれない。それはそれで「だったらもっとガラッと違うシチュエーションの文面とか生成してくれよ。AIバカすぎんか」という気もする。謎が深まるばかりである。
ともかくそんなワケで、「るな」はずっと「典型的なおもんないエロアカウント」として運営され続けていた。余談だが、なぜかエロスパムアカウントは「野球部のフォロワーさんと待ち合わせなう♡」のように、ツイートの中に部活名を入れまくる傾向がある。意味不明の行動だ。
これ、女性本人の属性として「サッカー部のマネージャー」とかを書くのはまだ分からないでもない(なんとなく容姿が良い女性が想起されるから)けれど、男性の属性として部活を書くのは意味不明である。
恐らく、ツイート自動化AIツール的なものが「~~部を入れるとインプレッションが良くなるぞ!」と学習した結果、それが暴走してやたらと部活名を名乗るアカウントが誕生したのだと思う。
その極地がこれである。
エロ動画をリプライで貼ることを要求するアカウント(通称「選手権」アカウント)だが、彼らはなぜかやたらと「元バスケ部でゴルフ好きの俺のアソコがバキバキになるやつちょうだい」と、まったく無意味な情報をツイートしている。興奮してるオッサンの部活気になるやつおるんか???
昨今、「AIがおかしな挙動をしている」という事例が死ぬほど報告されているが、Twitterエロアカウント界隈で起きている現象である「なぜかオッサンが自分の部活を言う」はくだらなすぎて誰も記録していない気がするので、僕が代わりに記録しておいた。以上、余談終わり。
本気を出したエロアカウント
さて、「るな」は2023年の間、ずっと同じ調子で「使い回した画像」「工夫のない文面」を投稿し続ける退屈なエロアカウントだったのだが、2024年に入って早々、覚醒する。
さて、上記のツイートも、今までと変わらない凡庸なものに見える。「サッカー部の部室で撮られた」だの「この後やりまくりました♡」だの、何の工夫もないツイートだ。
だが、この翌日、事態は急転直下を迎える。
「別の先輩にバレて終わった」という投稿とともに、LINEのログが貼られるようになったのだ。すごい。突然ストーリー性を持たせてきた。
今までの創意工夫のなさが何だったのかと思うような、驚きのドラマ展開である。これまではしょうもない単発の画像ツイートばかりしていたのに、「部室での性行為が目撃されていた」と、ストーリーを紡ぎ始めたのだ。
正月は、心機一転して新しいことを始めたくなる時期である。恐らくこの「るな」アカウントの運営者もそうだったのではないか。「今まではテキトウにやってたけど、ちょっと本気出してエロアカウントをやってみるか!」と思ったのではないか。明らかに2024年に入ったのをきっかけにして、クオリティが急上昇している。
さらに、彼女(中身はおっさんかもしれないが、便宜上「彼女」としよう)は続ける。
部室で性行為をしていたことを知られ、弱みを握られた彼女は全裸の画像を送る。
しかもLINEのタイムスタンプが妙にリアルである。17:16に「全裸送って」と言われ、14分だけ躊躇した後に画像を送信している。芸が細かい。凡百のエロアカウントだった「るな」が、飛翔し始めた瞬間だ。
そして、全裸画像を受け取った先輩は「明日練習前に部室集合ね。来なかったらバラすから」と言う。これはエッチなシチュエーションとして鉄板のものである。「るな」は当然エッチな目に遭うに違いない……。
そう思って翌日を見ると、やはり案の定、事後のツイートがあった。
すごい。ストーリーがちゃんとある。「カラオケの個室でフ◯ラした」みたいなことをツイートしていただけのアカウントと、明らかに別物になっている。彼女は、ひとつながりのストーリーを紡いでいるのだ。
そして、翌日のツイートがこれ。
「学校内ではトラブルがあったから、これからはフォロワーさんだけ♡」という発言。どうだろう。エロアカウントとして実に模範的な動きではないだろうか。単に「女子高生だけど、フォロワーさんとエッチなことがしたいです♡」と言われても「いやなんでだよ」となりそうだが、今回のストーリーは一定の納得感を演出している。この物語を見せた上で「これからはフォロワーさんだけ♡」と言われると、アホな人は引っかかってしまいそうだ。
実際、リプ欄にはそういう人がいっぱい出現している。
恐らくその夢は叶うことはないが、夢を持つのは素晴らしいことだと思う。いつか彼らも幸せになればいい。
あと、なぜかこのリプ欄ですら卑屈な人がいた。
「一度お会いしたいですでも駄目だろうな」。悲しすぎる。リプライ送ってる途中で「でも駄目だろうな」ってなってしまったようだ。
「弱者男性」という言葉が頭をよぎる。この手のエロアカウントを熱心に見ている人は恐らく筋金入りの弱者男性が多いだろう。それでもみな一時の夢を見て「僕も会いたい!」と送っているのに、彼は夢の中でさえ卑屈になってしまった。「弱者男性の悲哀」というタイトルの現代アートとして飾りたくなる逸品だ。
止まらない呼び出し、止まらないドラマ
その後も、「るな」は同じ先輩に呼び出され続ける。だんだんエスカレートして、授業中にすら呼び出されるようになった。
悩んだ彼女は、先輩に対し、「先生に言うか悩んでます」と返答。
物語がスピーディですごい。毎日のように新しい展開がある。
惜しむらくは、「先生に言うか悩んでいる」という大変な境遇の彼女が、なぜか自身の性行為動画をフォロワーに配布しようとしているところである。ここがエロアカウントの限界かもしれない。お金を得るためにはフォロワーに動画を売りつけないといけないので、リアリティのない言動になってしまう。コンテンツを自然にお金に結びつけるのは、いつだって難しい。YouTuberの普遍的な悩みを、彼女も体現していた。
多少のリアリティの欠如を飲み込みながら、彼女の物語は先に進んでいく。
近年、チャットのログを読み進めていくことで物語を楽しむ「チャット小説」と呼ばれるジャンルがあるが、「るな」もそれに近い。彼女の場合は「チャットのログ」を多用したTwitterアカウントとしての物語なので、一段入れ子が深いけれど。
その後、今度は相談した先生に「僕の力で、停学をなしにしてあげようか?」と呼び出されたりもする。
当然だが、彼女は先生ともエッチな関係になる。
「先生、AVを壁にプロジェクターで投影するタイプの人なんだ」という発見がある。
で、その翌日のツイートがこれ。
意外にも、担任の先生は「相性が良くて」、本人も気に入ったらしい。
僕はこれを見たときに思った。「おいちゃんと設定を固めろや」と。
彼女の設定は
だったはずである。にもかかわらずなぜか先生に弱みを握られて性行為をするのはすごくよかったらしい。うーん、やや一貫性の欠如を感じる。
ここで、少し嫌な予感がよぎる。「こいつ、飽きてきたんじゃないか…?」と。本気でフォロワーを騙すウソをつくのに飽きてきて、設定をなあなあにしつつあるのではないだろうか。
その予感は、的中することになる。
突然手抜きになる投稿群
翌日の投稿がこれ。
この投稿はまさに、凡百のエロアカウントのそれである。
全然おもしろくない。「先週この子と2人でおじさんとやりました」は唐突であり、何のストーリー性も必然性もなく、彼女が綴っている物語から乖離している。
僕は「あーあ、中の人、完全に飽きちゃった」とガッカリした。考えてみれば、新年に「やるぞ!」と決意したことは、たいていの場合は3日で飽きてしまう。そこを凌いだとしても、1ヶ月もあれば飽きてしまうことがほとんどだろう。
「るな」が覚醒してから20日ほどが経つ。だから多分、中の人は20日で飽きてしまったのだ。熱いストーリーが紡がれたのはたった20日間で、ここからは凡百のエロアカウントに戻ってしまうのだ。
そんな僕の直観を裏付けるように、彼女はどんどんしょうもない投稿を繰り返すようになった。写真もかつての凡百のアカウント時代のものを使い回すようになり、「ああ、本当にただのエロアカウントに戻ったんだな…」そう思った。
「もうこのアカウントも終わりか…」。僕は自分のウォッチリストから彼女のアカウントを外そうと思った。そして多分、外してしまえば二度と見ることはないだろう。別れの予感だ。
だが翌日、驚きの投稿がなされる。
なんと、あの「LINEのログ貼り付け芸」がパワーアップして帰ってきた。今度はグループLINEである。
僕は「ひゅう!!これこれ!!」ってなった。凡百のエロアカウントに興味はない。僕は彼女に、ストーリーを紡いでほしいのだ。
パワーアップして急加速
「凡百のエロアカウントに戻った」と判断したのは早計だった。手抜きになっていた1週間は彼女の休息期間だったのだ。帰ってきた彼女は、今までとはまったく違うパワフルさで、ストーリーを加速させていく。
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