神楽坂の社屋、似合わない応接室、作家として売れること。
神楽坂の、新潮社のオフィスに行った。
巨大な灰色のレンガ造りの建物には、整然と四角い窓が並んでいる。新潮社らしい重厚さと歴史を感じさせる質実剛健な建築だ。「いかにも文芸の出版社って感じで、サスガだなぁ」と思った。消費者として押し付けた勝手なイメージに、応えてくれる社屋だ。
倉庫の入口には、その時一番プッシュしている本の垂れ幕がかかっているようだ。今は『ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー 2』。
垂れ幕を眺めて歩きながら、「社屋に掲げるにふさわしい良い本だよな。やるじゃん」などと上から目線で論評してしまう。消費者はいつだってエラそうな評論家だ。
場違いな応接室で、軽口を叩く
新潮社に訪れた理由は、拙著を読んでくれた新潮社の方から、「ぜひ一緒にお仕事をしたいので、ざっくばらんにお話をさせてください」というボンヤリしたオファーをもらったからである。
ボンヤリしたオファーだったのだけれど、僕は快諾した。新潮社の役員である中瀬ゆかりさんも僕の本を読んでくれたらしく、「ぜひ一緒に仕事を」と言ってくれているらしいからだ。
中瀬ゆかりさんといえばマスメディアにも露出している有名編集者である。そういえば、彼女が木曜レギュラーを務める『5時に夢中!』でも、拙著を紹介してくれていた。僕はうっかり忘れていてオンエアを見られなかったけれど。
(画像引用元:TOKYO MXプラス)
地上波で紹介してくださった恩もあるので、「ぜひお会いしましょう」と返した。僕は恩義に報いる人間なのである。断じて、俗物だからビッグネームに弱いとかそういう話ではない。いやもう断じて、そういう話ではないのである。
新潮社の受付には、出版社の受付嬢のイデアみたいな女性が座っていた。生真面目で几帳面そうな、長い黒髪の、ハキハキと喋る女性。イメージに合致しすぎていて逆にリアリティがない。僕が監督する映画にこの人が出てたら、「いやステレオタイプすぎるだろ。もうちょい崩そうぜ」と演技指導するだろう。
少し待ってから、ありえないほど豪華でカッコいい応接室に通された。革張りのソファが置かれていて、重厚な書棚には歴史を感じさせる人文系の古書が並んでいる。
芸術品も色々あった。壁には日本画風のタッチで描かれた少女の絵が飾られているし、ガラス棚には格式高そうな陶芸品が置かれている。
僕は紫色のパーカーを着て行ったので、「ものすごく場違いだな……」といたたまれなくなった。スーツとは言わないが、せめて襟付きのシャツで来ればよかった。こんな立派な応接室に通されるとわかっていれば襟付きで来たのに……。新潮社の人、事前にメールのやり取りで教えてくれればいいのに。「弊社の応接室は激ヤバです」とか教えてくれればいいのに。
しかたないので、「いやあ、こんな豪華な応接室、初めて入ったのでビビってますよ(ヘラヘラ)」と、ヘラヘラしながら乗り切った。僕は29年間の人生をいつもヘラヘラしながら乗り切ってきた。これからも一生ヘラヘラしていく気がする。
さて、新潮社の方々はそんなヘラヘラした僕を温かく迎えてくださり、面白がって色々と話してくれた。僕はうっかりダンゴムシの性病と性行為の話を長尺で披露してしまったのだが、「堀元さんめちゃくちゃ面白いね~!」と大いに褒めてくれた。忙しい中で僕のたわ言に付き合ってくれたばかりか、めちゃくちゃ褒めてくれる。立派な大人である。
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