説教臭すぎて見ていられなかった演劇と、説教臭さのかけらもない傑作SF。
「おもしろい」の対義語は何なのか?
一番分かりやすい答えは「つまらない」だろうけれど、僕はそうじゃないような気がする。スベリ芸という言葉に代表されるように、つまらなさは時として容易におもしろさに転化しうる。このふたつは対義語どころか、ごく近い隣接概念だ。
少し前まではおもしろかった人がバランス感覚をわずかに欠いた結果、すごくつまらなくなる現象もよく知られている。舌鋒鋭く本音を言っていた論客が、反マスクの困ったオジサンになってしまった事例などは、まさにその好例だろう。おもしろさとつまらなさを隔てる壁は存在しないから、すぐに入れ替わってしまう。サーカスの綱渡りみたいに、ギリギリのバランスの上を歩ける人だけがおもしろくいられるのだと思う。おもしろい人は、一歩踏み外したら、「つまらない」の宙空に放り出されるのだ。
では、「つまらない」以外の対義語を考えよう。僕は「説教臭い」だと思う。「うわっ、説教臭いな」という感覚は、おもしろさからかなり遠い。説教臭さがおもしろさに転化するのは、かなり大変な気がする。
「説教”臭い”」という表現は言い得て妙だ。他がどんなに良い匂いであっても、説教臭さが入ってきたら台無しになってしまう。どんなに良い匂いのステーキでも、隣に牛糞があったら台無しだ。食欲をそそられる人はいなくなるだろう。
だから、エンタメコンテンツを作るときはいつでも、説教臭くならないように気をつけるべきだ。気心の知れた人と酒を飲んでいるときは多少説教臭くても許されるけれど、エンタメコンテンツにおいて説教臭いことは許されない。牛糞添えステーキを出す飲食店が許されるワケがない。
今日はそんな話をしよう。説教臭くなっちゃったコンテンツの話。
舞台『マンザナ、わが町』
この舞台、見に行ったのだけれど、あまりおもしろくなかった。なんとなく全体を説教臭さが覆ってしまっていた記憶がある。
特にひどかったのがラストで、あまりの説教臭さで見ていられなかった。
かなり記憶があいまいだが、たしかこんなノリだった気がする。
僕はずっと「うおお~~!説教臭すぎて具合悪い!」と思っていた。押しも押されもせぬ、人生におけるナンバーワン説教臭いコンテンツである。説教臭さで具合悪くなったのは完全に初めての経験だった。
よっぽどイヤだったのか、見終わった後の僕はTwitterでとんでもなくボロクソに舞台を酷評している。
(5年前の僕、めちゃくちゃ感じ悪いな。「老人の娯楽だな」はひどすぎるって……。あと、そんなひどいフレーズをわざわざスミカッコにするなって……。)
5年前の僕はアホなので仮想敵を「芝居すべて」においてしまっており、なぜか「芝居は老人の娯楽だ」と吐き捨てている。当時はインターネット芸人としてポジションを得るために過激なことを言おうと必死だったのだと思う。許してほしい。
とはいえ、僕は今でも「こういう芝居やるんだけど見に来ない?」と言われると「うっ」と思ってしまう。芝居の類全般に対して苦手意識がある。もしかしたら、未だに「老人の娯楽だな」を引きずっているのかもしれない。もちろん、すべてがそうでないことは重々承知しているのだけれど。
あと、これに対して主演女優からリプライが来ていた。とても気まずかった。
僕はここで、学びを得た。
説教臭くなる原因
『マンザナ、わが町』で見たように、エンタメコンテンツが説教臭くなる黄金パターンは、「自明のことを長々と説明してしまう」ことにある。
「人種差別は良くない。フラットな目線で相手を見よう」という教えは、あまりにも自明である。義務教育レベルでも死ぬほど聞く内容なので、もうすっかり耳にタコができている。
つまり、それを聞いても全然おもしろくないし「うわぁ。校長先生の説教みたいだ」という気持ちになっていくだけなので、この内容は絶対に長々と説明してはいけない。やればやるほど観客の心は冷えていき、コンテンツのおもしろさは失われる。
『マンザナ、わが町』は、たしか15分ぐらい自明のこと説明フェイズが含まれていたので、説教臭さがマックスだった。そして僕の堪忍袋の緒が切れてしまい、「芝居は老人の娯楽」と無茶苦茶な主張を始めてしまった。
自明のことは長々と説明してはいけない。「人生、継続が肝心。すぐに諦めては何も成せない」みたいな話は、内容は実にその通りなのだが、どうしても説教臭くならざるを得ない。必要があるならほんの一瞬で終わらせよう。
僕もよく、説教臭くなってしまう
ここまで、他人事のように説教臭さを断罪してしまったけれど、決して他人事ではない。説教臭さを取り除くのは、口で言うほど容易なことではない。僕も何度も何度も「なんか説教臭くなってしまった……」と敗北に打ちひしがれたことがある。
たとえばこれ。恐らく、去年一番大きな失敗だった。
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