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「大事なのは、愛と仲間」みたいな超つまらない話。あるいは、頭の中がチューリングでいっぱいになっている話
「やっぱりさ、好きな仕事を好きな人たちと一緒にやれるってのが、最高なんだよね!大事なのは、愛と仲間だよ」
みたいなことを言う大人を見て、「うわっ!うすっ!!」と思った経験は一度や二度ではない。
主張の内容はしごく真っ当なのだが、そんな常套句を堂々と発言するセンスを疑ってしまう。「言論のセンスが足りてないんとちゃいまっか」という気持ちになってしまう。つくづく意地の悪い人間だ。来世はもっと良いヤツになりたい。
さて、それはそれとして、僕が最近強く思っていることがある。「大事なのは、愛と仲間」ということだ。ええ常套句ですけど。そこに何か問題がありますか?
『イミテーション・ゲーム』を3倍楽しむ方法
いきなり話が変わって恐縮だが、映画『イミテーション・ゲーム』は、文句なしの傑作である。
コンピュータの父、アラン・チューリングを主人公にして、第二次世界大戦における暗号解読の物語を描き出した映画。
この映画、非の打ち所がない。チューリングという天才数学者の強烈なキャラクターが魅力的だし、息もつかせぬ展開で暗号解読のドラマチックさを十全に表現しているし、チューリングの論文を下敷きにしたオシャレで叙情的なセリフは痺れるほど美しい。
アカデミー賞の部門賞にも大量にノミネートされ、ずいぶん話題になった作品だ。この映画が封切りになったとき、僕はまだ学生で、コンピュータ・サイエンスを専攻し始めたばかりだった。コンピュータ科学徒としてスタートを切った僕にとって、チューリングが耳目を集めることはずいぶん誇らしいことに思えた。
……とまあ、ベタ褒めしているのだけれど、当時の僕が『イミテーション・ゲーム』にくだした評価は、86点だった。「良い映画だなぁ」と思いつつ、「最高の映画だ!!」みたいなテンションではない。
何なら、よく似た映画『ビューティフル・マインド』を直近で見ていたせいで、「こっちの方が面白かったな」と思っていた。
こちらは「ナッシュ均衡」で有名なジョン・ナッシュを主人公にした映画である。あらゆる点において『イミテーション・ゲーム』に似ている。天才数学者を主人公にしているのもそうだし、数学者が戦争に駆り出されて精神を疲弊させるのもそうだし、数学者の特殊な家庭や同性愛をテーマにしているのもそうだ。
あまりに良く似ているので、僕はこれらの映画について話すとき、どっちがどっちかしょっちゅう分からなくなっていた。数学者映画イップスである。
それでも、どちらかというと『ビューティフル・マインド』の方が面白かったという印象は揺らがない。こっちの方が派手な演出が多く、よりエンタメ作品としての色が強い。サスペンスを見ているようなドキドキも盛り込まれていて、とんでもない完成度だ。
学生時代に見た評価だと「イミテーション・ゲームは86点、ビューティフル・マインドは94点」といった感じだった。両方めちゃくちゃ面白い映画だが、どちらかというとビューティフル・マインドに軍配が上がる。
ところが、つい先日久しぶりにイミテーション・ゲームを見たら、この評価が逆転した。イミテーション・ゲームは96点に上がった。学期末のグリフィンドールもビックリの、突然の大幅加点である。
加点をもたらしたダンブルドアはなんだったのか。それは、僕がアラン・チューリングについて死ぬほどリサーチしたことである。
さり気ない描写すべてに、制作者の息遣いを感じる
今週末に収録するゆるコンピュータ科学ラジオでは、アラン・チューリングを題材にする予定だ。ここ一ヶ月ほど、「どう料理したら面白いだろう」と考えながら、ヒマさえあればチューリング関連本を読み漁っている。
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