「地雷女」の代替案は「道徳貯金が大赤字」-バチェロレッテを爽やかにバカにする方法について
先週、ずいぶんと話題になった記事がある。
「高貴なる地雷女・福田萌子に見る家と母親の呪縛」という記事だ。元記事自体は事実上閲覧不可能になっているが、概要や反応はインターネットのそこかしこに残っている。
ざっくり言うと、『バチェロレッテ・ジャパン』に出演していた主役女性の福田萌子さんは残念な地雷女であるという主張の記事であった。
これに対し、「地雷女なんてひどい!こんな記事を書く人間こそが地雷女だ!」などと怒っている人が散見される。「地雷女」という強烈なワードが独り歩きしてしまい、ネット民の怒りを買ってしまった形と言えよう。
さて、僕はこの記事を読みながら思っていた。「もっと爽やかにバカにしてあげて!」と。
「地雷女・福田萌子」というタイトルはあまりにも安直で直接的だし、記事の内容も福田萌子さんの家庭環境を推測して「きっとこういう家だったからこんな女になってしまったのだろう」というものであり、なんというかこう……ねっとりとした悪口だった。
『バチェロレッテ・ジャパン』を楽しく1シーズン見た者としては、こんなねっとりとした悪口じゃなく、もっと爽やかな悪口を言うべきだ、と思った。『バチェロレッテ・ジャパン』はバカにしがいがある良い番組なので、もっと爽やかな悪口も言えるはずだ。
例えば、倫理学・行動経済学の知識を活用して「道徳貯金が大赤字・福田萌子」とか、昆虫生態学の知識を活用して「あの男性、1つのアズキに卵をいっぱい産み付けられたタイプだ!」とか、いくらでも爽やかな悪口が言える。
幸い(?)、僕は人を小バカにすることで生計を立てているので、こういうのを考えるのが得意である。
だから、今日は「地雷女・福田萌子」に代わる代替悪口を書いてみる。バチェロレッテというコンテンツを爽やかに楽しくバカにするための代替案を7案ほど考えてみたい。もちろん、バチェロレッテを見ていない人でも読めるように適宜解説を挟む。
ちなみに、悪口を考えるための参考文献として書籍7冊と論文1本を用いた(末尾に一覧を記載)。「地雷女」などという安直でつまらない悪口の根絶を願い、なるべく爽やかでアカデミックな案を出していく。お付き合いいただければ幸いだ。
バチェロレッテの内容と、「地雷女」記事の解説
本題に入る前に、そもそも『バチェロレッテ・ジャパン』を見ていない人のために簡単に状況を解説しておこうと思う。ネタバレを多分に含むので、本編を見たい方はAmazonで見てから読んでほしい。
まず簡単に、『バチェロレッテ・ジャパン』自体のあらすじ。
・『バチェロレッテ・ジャパン』は、1人のハイスペック女性(バチェロレッテ)が、17人の男性の中から運命の相手を1人選び出す恋愛リアリティ・ショーである。
・バチェロレッテこと福田萌子さんは、スポーツトラベラー(世界各国で旅をしながらスポーツをする人)という聞いたことない職業をやっているセレブ。(それ仕事なの?誰にお金もらってるの?などという野暮なことを聞いてはいけない。セレブはそんな次元に生きていない)
・17人の男性は回を追うごとに脱落していき、最終回直前ではとうとう2人になり、「さあどちらを選ぶのか!?」というワクワク感で最終回に注目が集まった。
・しかし、最終回でまさかの2人ともフラれるという着地。2人とも違ったらしい。
この予想外の結末は物議を醸し、インターネットでは「茶番じゃねえか!見た時間返せ!」と怒る人が現れた。
(引用元ツイート:こちら )
(引用元ツイート:こちら)
「時間を返せ!」と言っているが、「Twitterでバチェロレッテの展開に怒る」というヒマでヒマでしょうがない人がやる行動を取っている時点で彼らが時間を持て余していることが分かる。ヒマな人というのはよく怒るものだ。
そういえば、アステカ人はトウモロコシを主食としていたため、他の民族より好戦的だったらしい。トウモロコシは米や小麦よりも簡単に作れるので、ヒマな時間が多いのだ。だからアステカ人はやたらと戦っていた。
今も昔も一緒だ。「バチェロレッテにがっかり!時間返せ!」と言っている人はトウモロコシを主食としているんだと思う。こうやって怒っているヒマな人を見る度に僕は「おっ、トウモロコシが主食なんだね!米とかパンも食べてみるのオススメだよ!」と思っている。皆さんも明日Twitterでこういう人を見かけたら「米とかパンもオススメですよ」とそっとリプライしてあげるといいと思う。
さて、このバチェロレッテの結末を受けて書かれたのが問題の記事「高貴なる地雷女・福田萌子に見る家と母親の呪縛」である。
ざっくり言うとこんなような内容だった。(断片情報と僕の記憶から構成したものなので間違ってるかもしれないが、多分大筋は合ってる)
・福田萌子はかなり「良い家」で理想の両親に育てられた。
・両親は「初恋で大恋愛。いきなり結婚。婚前交渉もなかった」らしい。この両親のストーリーを彼女も理想だと感じている。
・福田萌子は理想の両親の下でこの時代錯誤な価値観と異常に高い理想像を身に着けてしまった。
・彼女は結局、親離れもできていないし、膨れ上がった理想像を抱えていつまでも結婚できずに寂しい人生を歩むことになりそう。
勝手で辛辣な考察だが、まあ外野はこういうことを好き勝手言うものだろう。野球場でヤジを飛ばす人みたいなもんだ。
問題は、この記事がめちゃくちゃ拡散されてしまい、「地雷女・福田萌子」というトレンドが生まれてしまったことだ。
「地雷女・福田萌子」というトレンドはかなり下品だし、いくらなんでも福田萌子さんに可哀想だ。
そういうことでヒマなTwitter民はいつものように怒り、「地雷女・福田萌子なんてひどすぎる!」と怒りを表明することでトレンドが余計に盛り上がってしまった。コントみたいだなと思った。トウモロコシばかり食べているTwitter民には時間がたっぷりあるが、知力はほとんどない。悲しい話だ。
いい感じにバカにするための代替案
悪口全般に対して言えることだが、「地雷」とか「キモい」とか「メンヘラ」とか「アスペ」とか、使い古された表現を安易に振り回してしまうと面白くもなんともない。下品なだけだ。
今回の「地雷女・福田萌子」というトレンドもやはり、全然面白くない。(記事の考察自体は割と面白かったのだけれど)
もっとウィットに富んだ悪口ならば面白くポップに受け入れることができただろうに……。
……ということで、話は冒頭に戻る。もっと爽やかでポップな悪口を僕が考えようというワケだ。
まずはこちら。「地雷女・福田萌子」とほとんど同じことを言うために使えるポップな悪口が、「ビュリダンのロバ・福田萌子」だ。
①ビュリダンのロバ・福田萌子
二択まで絞った男性を結局どちらも選ばない福田萌子さんは、完全にビュリダンのロバである。
ビュリダンのロバというのは、意思決定の難しさを説明するときに使われる喩え話だ。
同じ距離に2つのエサを置かれた時、ロバは決め手がないのでどちらも選べずに、そのまま餓死してしまう
みたいなヤツ。「選ぶことにはエネルギーを要する」という文脈で使われることが多いのではないだろうか。
この喩え話、本を読んでいると時々目にするんだけど、あまりにもリアリティがなさすぎて毎回「喩えヘタかよ」と思ってしまう。ロバ、餓死する前にどっちかは食うだろ。
フランスの哲学者ビュリダンが言った話とされているんだけど、ビュリダンの喩えセンスは壊滅的だと思う。「選択が難しいもの」を考えて一番最初に「ロバのエサだ!」ってならんだろ。もっと良いのすぐ思いつくじゃん。「旅人が左右の分かれ道でどっちに進もうか悩んでいたら、日が暮れてしまってどちらに進めなくなった」とかでいいじゃん。「ビュリダンの旅人」っていう喩え話にすればよかったのに、なんでロバになったん???理解に苦しむ。
……ビュリダンへの積年の怒りが溢れてしまった。話を戻そう。
ともあれ、僕は「ビュリダンのロバ・福田萌子」という悪口を提案したい。これだと「結婚相手を選べない内に適齢期を逃してしまう」という主張、つまり「地雷女・福田萌子」記事とほぼ同じ主張ができる。
そして、よしんばこれがトレンドに入ったとしてもなんかかわいいし、福田萌子さんもショックは受けにくいと思う。あと、福田萌子さんよりもビュリダンの喩えセンスに対して批判が殺到するので、良い避雷針にもなる。オススメの語彙だ。
②食事する哲学者・福田萌子
「ビュリダンのロバ」に似てるが、もっといい感じに見えるのがこれ。「食事する哲学者・福田萌子」である。
悪口どころか、なんとなく褒めてるようにすら見えるんじゃないだろうか。皆さんも「食事する哲学者・○○」って呼ばれたら悪い気がしないだろう、多分。
これのネタ元は、計算機科学に出てくる「食事する哲学者の問題」というヤツである。
(Benjamin D. Esham / Wikimedia Commons )
円卓で食事をする5人の哲学者が餓死してしまうという喩え話だ。また餓死の喩え話だ。変な喩え話には餓死が登場しがち。
こんな内容である。
・スパゲティが出てきたのに、円卓の哲学者は哲学議論に夢中ですぐに食べなかった。
・哲学議論をする間に、スパゲティは冷えてガチガチに固まってしまい、これをほぐして食べるにはフォークが2本必要である。
・しかし、全員がまず右手側のフォークを手に取ったので、誰も2本のフォークを持つことはできなかった
・右手にフォークを持った哲学者たちは全員「隣のヤツが諦めて左手にフォークが置かれるのを待とう」と考え、右手にフォークを持ち続けて待機した
・全員待機しているのでいつまでもフォークが置かれることはなく、全員餓死した。
この喩え話を考えたヤツ、ビュリタンより喩えがヘタだ。
哲学者、コミュニケーション能力どうなってるの???「先オレ食うわ」「どうぞどうぞ」っていう意思疎通できないの???
というか、「冷えたスパゲティを食べるにはフォークが2本必要」がもうピンと来ない。食べにくくても1本で食えるだろ。冷えて固まってても絶対食えるって。ましてや餓死しそうならフォークとか甘っちょろいこと言ってないで素手でも食えや。
何なの???世の中の喩え話がヘタな人は全員、生物の餓死しやすさを過大に見積もってるの???そういう法則あんの???「三流の漫画家は夢オチに頼りがち」みたいなのは聞いたことあるけど、「三流の比喩家は餓死オチに頼りがち」みたいな法則あんの???
「食事する哲学者の問題」、要するに「お互いがお互いを待ってしまうと何にも進まなくなるし、複数のプログラムが同時に動く時にそうなっちゃうとまずいよね」という話であって、別に喩えなくても分かる。
喩えなくてもいいものを喩えてしまったせいで、「喩えがヘタすぎん?」と気が散ってしまって話を理解してもらえなくなる、典型的な蛇足比喩であると言えよう。
……また喩えのヘタさに怒ってしまった。話を戻そう。
とにかく、この「来ないものを待ち続けて死んでいく」という話は「地雷女・福田萌子」記事の論旨に一致しているので、「食事する哲学者・福田萌子」という語彙も使うことができそうだ。ぜひこっちでトレンド入りして欲しかった。そして皆で「食事する哲学者の問題」の喩えのヘタさで盛り上がりたかった。
③道徳貯金が大赤字・福田萌子
僕が個人的にバチェロレッテという番組を見ていて気になったのが、福田萌子さんの異常なまでに理性的な振る舞いである。
「真実の愛」とか「ひとりひとりとちゃんと向き合う」とか、やたらとキレイゴトがたくさん並んでいて、ちょっとむず痒く思えてしまったのだ。
最終話の収録後のセレモニーで、ナインティナイン岡村さんが「最後の2人のうち、ぶっちゃけどっちの方が好きでした?」と聞いた時も、彼女は「私の結論はお見せした通りですから、”もし”はありません」とメチャクチャ優等生の回答をしていた。最後のセレモニーですら鉄壁の理性的な振る舞いを崩さなかった。カメラが回っている時の彼女は徹頭徹尾、理性的であり続けた。
となるとちょっと気になるのが、彼女の「道徳貯金」である。
心理学者のブノワ・モナンは、2001年に発表された論文で、人間の道徳があたかも貯金のように目減りすると主張した。
めちゃくちゃ雑に抜き出すと、彼が行った実験はこんな感じ。
・白人の学生(被験者)に、企業の採用担当者になったつもりで面接をしてもらい、5人の内の1人だけを採用してもらう。
・面接の中には1人だけ、あからさまに優秀な人間(スター)が混ざっている。
・スターは白人の場合もあれば、黒人の場合もある。
・被験者たちは、人種差別をしなかった。適切にスターを採用した。白人でも黒人でも無関係に。
・しかし、黒人スターを採用した被験者は、この面接が終わった後のアンケートで、黒人に対して差別的な選択肢を選ぶ傾向にあった。
・一方、白人スターを採用した被験者は、黒人に対して差別的な選択肢を選ばなかった。
つまり、面接中に「黒人差別をしてはいけない」と意識した被験者の「道徳貯金」はそこで使い果たされてしまい、後で差別をしてしまったというワケだ。とてもおもしろい実験である。道徳は使うと減る。
この話を敷衍すると、外で「理性的な振る舞いをしよう!」と必死になっている人は、家の中ではとんでもない暴れん坊ということになる。
福田萌子さんもそうなのかもしれない。人前ではものすごく理性的な振る舞いをやっている分、裏では道徳赤字を解消するために罵詈雑言のオンパレードなのかもしれない。
そういうことで、「福田萌子さんのキレイゴト連発がちょっとキモいな~」と思っている方は「道徳貯金が大赤字・福田萌子」と言ってみるといいと思う。この悪口を言いながらブノワ・モナンの論文を思い出すことで、人間にはガス抜きが必要という黄金率を思い出すこともできる、とても有用な悪口だ。
余談だが、僕はここ1年間、この有料マガジンで悪口を書くことによって道徳貯金を貯めまくっている。
その結果、飲み会でとても理性的な振る舞いをするようになった。以前は飲み会といえば悪口のオンパレードだったが、最近は人の悪口を全然言わなくなった。
恐らく、この有料マガジンをいつも読んでくださっている皆さんも同様だ。僕と一緒にインターネットの地獄パーソンをバカにして道徳貯金を貯めることによって、皆さんはいつも仕事中に理性的な振る舞いができているのである。
そういうことで、この有料マガジンが理性的に振る舞いたい人のための最高の読み物であることは疑う余地がない。僕は皆さんの道徳貯金を貯めるために心を鬼にして一生懸命悪口を書いているのであって、これは社会貢献なのである。
……と、なんとなく話の流れで課金する意義を説明したところで、以下有料になる。
有料部分では、バチェロレッテという番組の制作サイドや、参加者男性をバカする悪口語彙を紹介したい。主に行動経済学や昆虫生態学を利用する。
あの男性に対しては「精液に毒が入っちゃってる」、あの男性に対しては「1つのアズキにいっぱい卵を産み付けられたタイプ」などの悪口が使える。バチェロレッテという番組に対してより高い視座のコメントをしたい人は必見の内容になっているので、ぜひ課金して読んで欲しい。
単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。11月は5本更新なので、定期購読の方が3倍お得。定期購読してもらい、一緒に道徳貯金を貯めていければ幸いだ。理性的な振る舞いをしたいあなたには特にオススメ。
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