例の件について。
ここ数日、期せずしてインターネットを騒がせてしまった。人生は何が起こるか分からないものだ。
発端は、この記事を書いたことだ。
いつもの有料マガジンのノリで、とある人物(というか、今となってはもう隠す意味がない。元QuizKnockのこうちゃんである)について好き勝手書いた。とても趣味が良いとは言えない記事であるが、5年続いているマガジンの平常運転だ。
しかし、これが本人の目に止まってしまった。
本人に届いてしまったことについて、本当に申し訳なく思っている。
マガジンで誰かの実名記事を書くとき、僕はいつも「本人に届かないようにしよう」と頑張っている。理由は2点で、「①書かれた本人が傷つくから」「②その結果、僕が怒られて困るから」だ。本人に届かないことは、Win-Winなのだ。書かれた側(こうちゃん)も書いた側(僕)も、届かないことでメリットを享受する。
だから、今回も「本人の目に触れることを避けたい」と思い、可能な限り努力をした。具体的には、前フリに具体性のあることを書かないように努めた。「YouTuber」という表現すらも避けて、「インターネット芸人」と表現することにした。なるべく「QuizKnock」や「こうちゃん」が想起されないような表現を選びたかったから。
しかし、結果として本人の目に触れてしまった。これは僕のコントロール能力不足であり、反省すべき点だ。落ち込ませてしまったこうちゃんに心からお詫びしたい。
仄暗い娯楽
この有料マガジンは「仄暗い娯楽」だ。クラスの片隅の陰キャの集団が、クラスの中心人物をひねくれた目線で見るような、そして放課後に陰口で盛り上がるような、そういう仄暗い娯楽なのだ。
悪趣味なのは当然分かっているけれど、そういう娯楽が排斥されるべきではないとも思っている。誰にだって大なり小なり、悪趣味な娯楽を求める欲望があるだろう。胸を張って自分が清廉潔白だと言い切れる人は多分いない。
僕は消費者としても、悪趣味な娯楽が好きだ。そういうものを好んで見て育った。ひねくれた視点で世の中を見て、それが笑えるエンタメに昇華されているものが大好きだった。
だから自然と、そういうものを作ろうと思った。インターネットで作品を公開し始めてからもう10年以上が経つ。ひねくれた視点をエンタメにすることを、考え続けたつもりだ。本を書き、イベントに出演し、動画を作り続けた。毎日毎日ひたすら創作をやった。誰よりも多く手を動かしたと胸を張れる。
創作には制約が多い。昨今のインターネットは不用意な発言がすぐ切り抜かれるし、クライアントワークはいつも大量の注文がつけられる。窮屈なクリエイター生活の中、僕が最も自由にできる場所が、このnote有料マガジンだった。
落合陽一先生をイジって、有料マガジンが始まった
マガジンを始めてもう5年近く経つから、最初から読んでいる最古参はごく一部になってしまった。
だから改めて説明しよう。本マガジンが始まったきっかけは、僕がこの記事を書いたことだ。
落合陽一さんがNewsPicksの番組で難しいことを喋り、周りは誰も理解できないのに「わかりません」の一言が言えずに「あ~、そういう見方ね」みたいな顔をしている滑稽さをイジったもの。バズりにバズって、数十万人が読んだ。
解像度が低い人はこの記事を「落合陽一が嫌いだからディスった」と捉えているのだけれど、そうではない。僕はむしろ彼のことが大好きだし、「これはエンタメとして再構成すると極上だ」と確信があって記事を書いた。ディスりたかったのではなく、おもしろいものを作りたかっただけだ。
その目論見は概ね達成されたと思う。もう5年以上経つのに、社交場に行くと今でもこの記事を褒められることが多い。「落合さんの記事、めちゃくちゃおもしろかったですね」と。
しかし、バズりすぎて面倒事が大量にやってきた。NewsPicksからは「消さないと訴訟起こしますよ」的なメールが来るし、落合陽一先生は「ゴキブリみてえなやつ」とブチギレてるし、そんなにイジられてない宇野常寛さんがなぜか一番ブチギレていた。
僕はNewsPicksのメールに「消さないですよ~」と返信したり、各所とのやり取りをアレコレ進めていた。
そして、気づいてしまった。「これ、面倒事が多いな」と。バズればバズるほど面倒事が増える。インターネットの大原則である。しかも、バズっても全然儲からない。
「ちょっと意地が悪くておもしろいコンテンツを作る人」がインターネットから消えていく理由はこれだ。バズると煩わしいことばかり増えるのに、儲からない。そうなるとインターネットでやるメリットがひとつもないので、「友だちとの飲み会でだけやろう」と思うようになる。
僕はこの問題に解決策を見出したかった。そこで、「有料にする」という選択をした。
いま振り返ってみても、この選択は正しかったと思う。書いた側(僕)は儲かるし、書かれた側は気づかないから幸福だし、読者は課金者のみなので、ノリが分かる人だけで仄暗い娯楽を共有してくれる。
平和で幸福な5年間だった。クラスの隅っこで、気の合う友人同士でこっそり、趣味の悪い遊びを静かに楽しむような。
だけど、平和で幸福な日々は突然終わりを告げる。気の合う友人たちが、クラス替えで散り散りになってしまうみたいに。
ノリが分からない人も買ってしまう
このマガジンも、僕自身も、大きくなりすぎた。ノリが分からない人にまで、届くようになってしまった。
昔は本当にごく一部の人だけが購読してくれていて、「底意地が悪く、賢く、日々を楽しく生きている」みたいな人だけが読んでいた。こういう人たちは僕とノリが合うので、とても仲良くなれた。この時期に得たかけがえのない友人たちがたくさんいる。
開始から5年が経ち、状況は変わってしまった。ずいぶん多くの人が読むようになってしまい、ノリが分からない人も増えてしまった。
今になって思えば、1年ほど前からその兆候はあった。何千人も読んでいると、ひとりぐらいは分別をわきまえない行動を取る人間がいる。note記事の存在までは言明しないものの、僕のnote経由でしか再生されないような動画に対して「これが話題の動画か~」などと書き込む読者などが現れた。僕や古参読者の間では「こういうキッズが入ってきちゃったか…」と悲しみと呆れが混じった諦観が生じた。
困ったキッズが出現するようになってから、以前よりも強めに注意喚起をするようになった。「この記事の内容を漏洩させないでね。させたら法的措置を取る可能性がありますよ」と。「外に漏らすなよ」を以前よりもずっと強くアピールするようにしたのだ。そんなことは分別のある仲間たちの間では当然のことだったのだけれど、キッズが参入してしまったからには対策を講じなければならない。
そういうワケで、最近の記事では警告が強めになっていた。「僕たちはアングラで仄暗い娯楽を楽しんでいるんだ。それはわざわざ外に言うようなことじゃない。分かるね?」と、キッズに向けてメッセージを発信していた。
これには一定の効果があり、ここ1年は危ういながらも均衡を保っていた。僕たちの「仄暗い娯楽」はなんとか守られそうだな、と思っていた。結果から言えば、それは間違った見積もりだったのだけれど。
瓦解
noteを読んだキッズが、こうちゃんのライブ配信中にわざわざ「こうちゃんをボロクソ書いたnoteがバズってるんだけど知ってます???」とコメントをした。やめろって言ってんだろ。該当コメントは既に削除されているが、痕跡はこちらに見ることができる。
その後、どういう経緯を辿ったのかは定かでないが、こうちゃん自身もこのnoteを発見して読むことになった。そして冒頭のツイートにつながる。
これをきっかけに、お怒りの声がわんさか届いた。そりゃそうだ。僕としてもこれは「悪かったなぁ」という感想しかないので、特に反論する気もない。「こうちゃんごめんね」と思うばかりだった。
「謝罪文でも出そうかな」と思ったが、ネットで怒っている大多数は元記事も読まずに条件反射で怒っているだけなので、謝罪文を出すと「やった~!こいつ叩いていいんだ!」と余計に暴れ始めることは必然だった。そうなるのも面倒なので、黙っていることにした。僕はこうちゃんには本当に申し訳ないと思っているが、「悪口なんて許せない!!」と読まずに怒るタイプの人には微塵も申し訳なく思ってないので、謝罪はこうちゃんに個人的にすればいい。あと、こういう「読まずに怒る人」は常時何かに怒っているので、どうせ1週間経ったら全部忘れるのである。
落合陽一、参戦!
で、2日も経つと案の定ボチボチ落ち着いてきたので、「よし、そろそろ通常運行だな」と思っていた。
しかしここで、ワケが分からない事件が発生する。落合陽一の参戦である。
こればかりは完全な予想外だったので、僕は思わず面食らってしまった。落合陽一先生がこの騒動に参戦したの???なんで!?!?
落合陽一といえば、研究者としてもメディアアーティストとしても論客としても活躍を続ける忙しい人物で、その活動量は目を見張るものがある。ほとんど寝ないで大車輪の活躍をしていることでおなじみだ。ブロックされてるから僕はあんまり見えないけど。
そんな彼がなぜか参戦してしまった。忙しいだろうに。こんなどうでもいい騒動に首を突っ込んでないで仕事をした方がいい。っていうか、6年前から根に持っていた怒りを騒動に乗じてぶちまける落合陽一は小物に見えちゃうから、こんなしょうもない人は放っておいた方がいいって!あんたカリスマなんだから!俺のnoteを300円で買ってる場合じゃないって!
あと、落合陽一さんのこのツイートの文章、落合陽一すぎる。
言いたいことはシンプルで「この堀元ってヤツ、最悪だからみんなで軽蔑しようぜ」ということなんだろうけど、ムダにゴチャゴチャした修辞技法で喋るせいで意味が伝わりづらくなっている。
特にすごいのは太字部分だ。「人類のアテンションエコノミーに当人が寄生した人類の悪意や老廃物のようなコンテンツに生きる人類」。落合先生、「人類」って言葉が好きだね。
しかも、このツイート内では僕の名前も出さず、note記事のURLも貼っていないため、誰を軽蔑すればいいのかよく分からない。パッと見た人はスクショだけを見て「このこうちゃんって人を軽蔑すればいいのかな…?」ってなると思う。こうちゃん、これで軽蔑されてたらかわいそうすぎる。頼むからちゃんと僕を軽蔑するように誘導してあげてほしい。落合先生、よろしくお願いします!
「落合陽一が怖すぎる」と話題に
で、上のツイートまではまだ「落合陽一さんっぽいなぁ」で済むのだけれど、さらに彼は大暴れを続ける。AIみたいな文面で、AIみたいな行動を取りまくるのだ。
(※落合先生は翌日に大量にツイ消ししてしまったので、以下、手元にあるスクショなどの断片から構成する。リンクは貼れないけどお許しください)
こんな調子で、大量の人に片っ端からメンションを送りまくっていた。
怖すぎる。
さらに、何らかの反応があった人たち全員に、「あなたは誹謗中傷が好きな反社会勢力ですか.」と送りつけていた。生成AIみたいな喋り方で怖い。
あと、落合陽一先生は僕のイジり記事に対して「許さない」らしく、「常にそれを考えて生きている」らしい。それって……恋……?
落合さんはわずか数時間のうちに大暴れし、僕が見ただけでも100件単位の「あなたは誹謗中傷が好きな反社会勢力ですか.」というリプライを送りつけていた。どうやらDMもかなり送っていたらしい。「落合さんからDMが来ました」という報告をいくつも目にした。その文面ややり取りも全部AIみたいでなんか怖かった。
僕は、「落合さん、AIのこと考えすぎてAIに乗っ取られちゃったのかしら……」という気持ちになった。
この夜の落合さんの動きは「おかしくなっちゃった人」みたいな感じがして、やたら怖かった。彼を尊敬しているから、心配せずにはいられない。
落ち着く落合。そして、今後どうするのか?
そんな落合さんだが、一晩明けたら落ち着いたらしく、大暴れしたツイート群はあらかた全部消されていた。良かった。彼は正気だったのだ。
僕は昨晩のことが真実だと思えなかったので「もしかして夢だったのかな?」と考えた。でもスマホを見たらスクショが保存されていたので「あ、夢じゃなかったんだ」と気づいた。落語の「芝浜」みたいな展開。
今回の騒動は予想だにしない顛末を迎えた。「こうちゃんの悪口を書いていたら、落合陽一の正気を心配することになる」という予想外の着地。「風が吹けば桶屋が儲かる」も真っ青な意味不明っぷりだ。人生は意外性に満ちている。
ともあれ、「落合陽一さんは正気でした。めでたしめでたし」で大筋ハッピーエンドなのだけれど、僕は今回の件でふたつ大きな課題を背負い込むことになった。「①こうちゃんにどうやって謝ろうかな?」「②今後、この有料マガジンどうしようかな?」である。
①こうちゃんにどうやって謝ろうかな?
まずは目先の問題の「①こうちゃんにどうやって謝ろうかな?」について。
こうちゃんには何らかの形で謝罪したいと思っているのだが、これだけネットを騒がせてしまったので、できればオープンな場で謝罪しつつ、それをエンタメにしたい気持ちがある。それに、今回の件で僕は思いのほか儲かってしまったので、こうちゃんにも儲けて欲しい。僕は底意地が悪いがフェアネスを重んじる人間なので、自分だけ儲かっていると気持ち悪いのだ。
まだ打診していないけれど、一番ありそうなのは「ベテランち司会・堀元&こうちゃん対談」という座組だ。ロフトプラスワンとかでやれそう。高学歴YouTuberで知られるベテランち氏が圧倒的に高い解像度で今回の件を解説していたし、こうちゃんともつながりがあるし、こういう厄介事に首を突っ込むのを厭わない精神性を持っているようにお見受けする。
中立の司会としてベテランち氏が来てくれれば良いトークイベントになりそうだし、それなら三方よしになるかもしれない。僕はノーギャラでいいので、儲かった分をこうちゃんとベテランち氏に還元したい。
対談イベントをやるなら企画はどうなるだろうか。「徹底討論!こうちゃんはおもんないのか?」みたいな感じだろうか。うーん、悪くないが、僕が「こうちゃんおもんない派」になるなら、こうちゃんが自分で自分を擁護することになってしまって見栄えが悪い。この形なら擁護派にもうひとり欲しいところだ。
もしくは、「エラそうにこうちゃんをおもんないって言ってるけど、お前の方がおもんないだろ! こうちゃんVS堀元、おもしろさ5番勝負」だろうか。漫談とか大喜利とかそういう色んなことをやって、どっちの方がオモロの能力が高いかを競う。うーん、これも悪くないが、この座組にするなら絶対に僕が負けないとダメだ。これで「本当にこうちゃんがおもしろくなかった」となってしまうと後味が悪い。僕が負ければ「本当におもんないのは僕でしたごめんなさい!」でハッピーエンドなのだが、万が一僕が勝ってしまった場合が地獄である。かといって出来レースはやりたくないし、これは避けた方がいいかもしれない。
あるいは、「僕がクイズでこうちゃんにケンカを売る」という展開もある。思い上がった堀元が「お前なんかクイズでも俺より下じゃい!」とケンカを売って、イベントでボコボコにされる、という形。こうちゃんが僕にクイズで負けることは万に一つもなさそうなので、これなら安心して「すみません調子乗ってました」と僕が謝って終わることができる。ただ、いくらなんでも茶番っぽすぎるという欠点がある。僕は道化を演じることに抵抗がないが、ここまで道化すぎると見ている人も白けてしまう。道化は道化だと思われない範囲で演じないといけない。
それから、もしこうちゃんサイドがOKなら「こうちゃんが堀元に悪口を言い返すイベント」とかにしたいのだが、彼のブランディング的に絶対に実現しないだろう。
ということで、「こうちゃんへの良い謝り方」をここ数日ずっと考えているのだが、今のところ名案が浮かんでいない。せっかくなので、もう少し考えてみたいと思う。
②今後、この有料マガジンどうしようかな?
もうひとつ、大きな課題として残っているのが「②今後、この有料マガジンどうしようかな?」である。
「僕が制御できずに直接本人に伝わってしまう」という経験をした以上、今までと同じように運営することはできない。こうちゃんのように落ち込む人が出現するのも僕の本意ではないし、炎上して各方面に迷惑をかけるのも避けたい。
したがって、「今後このマガジンどうしようかな~」ということも数日悩んでいる。明確な回答は今のところ出ていないが、大まかには「noteじゃないプラットフォームに移動し、値上げしつつ付加価値もつける」という方向を考えている。noteというプラットフォーム上で低価格でやっていると、どうしても「何かすごそう!俺も見たい!」というキッズの流入を防げない。賢明な大人だけが発見できて、賢明な大人だけが楽しめる静かな空間を探す方がいいと思う。仄暗い娯楽をやるためには、noteは明るくなりすぎた。
続報はまた追ってお伝えするけれど、意思決定には少々時間がかかりそうだ。その間、このマガジンの更新は続ける。今回のように特定人物を扱った記事は当マガジンのメインコンテンツではなくむしろ少数なので、いつも通りに更新は続けられる見込みだ。
そんなワケで、僕は「こうちゃんマジごめん」と反省しつつ、仄暗い娯楽の健全な運営方法を探していきたいと思っている。
趣味が悪いというそしりは甘んじて受けたいと思っているので、僕のことはそう罵ってくれて構わない。そういう仄暗い娯楽が存在する世界が好きなので、生産も消費も続けていきたいと思っている。ステークホルダーの皆さまにもなるべく迷惑をかけない形で。それはすごくワガママなことなのだけれど、できるところまではこのワガママを貫き通してみたいのだ。
今日書きたいことは大体終わりです。あとは購読者向けのおまけ。
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