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「かすれた文字モード」の実装が待たれますね【インテリ悪口本_期間限定公開⑧】


「クソリプ」という言葉がずいぶん定着した。「クソなリプライ(返信)」の略だ。

僕はTwitterのフォロワーが1万9000人くらいなのだけど、このくらいの人数になってくると1日1回はクソリプが送られてくるようになる。

たとえば先日、こんなツイートをした。

オリンピックで3位の人に渡されるの「銅メダル」って、よく考えたらかわいそうすぎんか……? 金と銀は「アクセサリー」とかに使われるヤツなのに、銅は「電気配線」とかに使われるヤツだよ……??? 差が大きすぎない……??? 貴金属と卑金属だよ……???

超どうでもいいツイートである。これぞTwitterの正しい使い方という感じだ。最近のTwitterは何かに怒っている人ばかりになってしまったが、僕は古式ゆかしい使い方を続けたい。

この日は確か「新型コロナウイルスが猛威を振るう中でオリンピックをやるなんて正気か!?」と怒っている人をたくさん見かけたので、僕はオリンピックに関してめちゃくちゃどうでもいいことを言おうと思ったのだ。

しかし、このツイートに対して返ってきたのがこれ。


銅がないと成り立たない産業もあるよ?


だろうね!!!!!!!!!!

そりゃそうだろうね! 銅めちゃくちゃ使うもんね! 電気配線とかに!!

僕、元のツイートに書いたよね……? 「銅は電気配線とかに使われる金属」って書いたよね……? なんで「銅は必要ない論者」だと思われたんだ……?

とまあこんな調子で、僕のTwitter ライフはクソリプを受け取るのが日常茶飯事になっている。「運動をすると頭が冴えるから素晴らしい」とつぶやいたら「それは個人の経験に過ぎないのでは?」と言われるし、「金がなくても散歩して図書館に行けばゼロ円で幸せになれるよ」とつぶやくと「そうじゃない人もいますけど?」と言われる。クソリプの魔窟を歩くような毎日だ。

そんな魔窟SNSの中で、「はいはい、クソリプ来ちゃった」と言うのはあまりにも普通の反応すぎる。そもそも「クソリプ」という言葉は美しくないし知的じゃない。もっと上品で知的な悪口を探そう。


そこで提案したいのが、これだ。

「かすれた文字モード」の実装が待たれますね。

である。どういうことか説明しよう。


まず、この問題を見てもらいたい。可能なら答えを出してほしい。

問1 14892×25673

これを見て、パッと答えた人は多分いないだろう。普通の人間は5桁×5桁の掛け算をパッとやることはできない。

ちなみに、「コンピュータの父」であるジョン・フォン・ノイマンは8桁×8桁の掛け算を暗算できたらしく、せっかく作ったコンピュータより速く暗算して周囲のスタッフをガッカリさせたという伝説があるけれど、我々はノイマンではない。あなたも多分答えられなかったはずだ。

パッと答えるのは不可能だけど、ゆっくり筆算をすれば必ず正解にたどり着ける。だから、この問題に対して誤答をする人は少ないと言っていい(計算ミスはあるかもしれないけれど)。

では、誤答をする人が多い問題とはどういうものか? こういうものだ。答えを考えてほしい。

問2 チョコとガムは合わせて110円だ。チョコはガムより100円高い。では、ガムはいくらだろう?

この問題は、直観的に即答できる気がする。あなたの頭にも答えが浮かんだのではないだろうか。

その答えは「10円」である。簡単に思える。

もちろん、実際にはそんなに簡単ではない。ガムが10円だとしたらチョコは110円となり、合計は120円になってしまう。設定に合わない。正解は「5円」だ。


どうだろう? 正しく答えられただろうか? この本を読んでるあなたは物事を斜めに見るクセがついているので、引っかからなかったかもしれない。でも引っかかる人の気持ちも分かるだろう。

実際、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学といった有名大学の学生も、50%以上はパッと即答して間違っているのだ。直観で即答したい欲求は強いし、人はそれでしばしば誤答する。


さて、ここで見てきた現象は興味深いものだ。「問1」と「問2」を比べると、より難しいのは問1であるように思われる。筆算には時間がかかるし注意力も必要なので、1分では解けない気がする。一方、問2は簡単だ。落ち着いて考えれば1分あれば必ず解ける。

つまり、問1の方が難しいのに、誤答する人は問2の方が多いのである。

この2つは何が違うのか、「パッと見てすぐ答えられるかどうか」が違う。
問1は取り組むのに苦戦するので安易に誤答しないけれど、問2は楽に答えが出せそうなので安易に誤答してしまう。皮肉なものだ。人間は簡単そうなものほど誤答する。


こんな人間の悲しい特性に打ち勝つ方法はないのだろうか?

実はある。問2のような問題の誤答を劇的に減らす方法があるのだ。それが、読みにくい問題用紙を渡すことだ。

小さくてかすれた文字で印刷された問題用紙でこの問題を読まされると、「楽にパッと答えられる」という感覚がなくなるので、ちゃんと考えるようになる

この実験は大いに示唆に富んでいる。これを応用すれば、クソリプを減らす機能が作れる。

それこそが、「かすれた文字モード」の実装である。

クソリプをしょっちゅうしている人は恐らく、脊髄反射でリプライをしていると思われる。「こいつ銅に対して否定的だな。銅がないと成り立たない産業もあるぞ」という風に。

ちょっと落ち着いて考えてもらえれば、「銅は電気配線に使われている」という僕のツイートの文言を見て「そんなことは言われなくても分かってるだろうな」と思うはずだし、「これはどうでもいい雑感ツイートであり、金属の価値を査定しているワケではない」ということに気づけるはずだ。

だから、こういう人に落ち着いてもらうために、ツイートをかすれた文字で読ませればいいのだ。そうすれば彼らはちゃんと考えるようになり、脊髄反射でクソリプを送ることがなくなる。

ということで、次にクソリプが来た時は「かすれた文字モードの実装が待たれますね」と言うことにしよう。人間の認知特性を確認する機会にもなって良い。

あと、Twitter社の皆様は、ぜひこの新機能の実装をご検討くださいませ。


使用例

「この店のカレー、めっちゃ美味しい。食べたら幸せになれるよ」
それは個人の経験に過ぎないのでは?
かすれた文字モードの実装が待たれますね


参考文献

『ファスト&スロー』


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