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トルストイ『復活』の起点は”ただし書きの書き忘れ”。だから僕も消した記事を蘇らせる。

世間の連中は、なんとでもこのおれを批判するがいい。連中ならあざむくことができる。しかし、自分をあざむくことはできないのだ。
(レフ・トルストイ『復活』より)


以前、こんな記事を書いた。

僕が今までに「法的措置を取ります」と言われてきた実例について書いた記事だ。5200万円請求されたけど2万6000円に値切ったというヨドバシカメラも真っ青なディスカウント話を中心に書き、これがたいへん好評だった。


”面白かったから他のエピソードも書いてくれ”という声が多かったので、今回も「法的措置を取ります」エピソードについて書いてみようと思う。


大人しく記事を消した事例

前回は「NewsPicksに記事を消せと言われたけど、消さなかったよ☆」とか「5200万請求されたけど、2万円しか払わなかったよ☆」とか、そういう「適当にあしらった話」を中心に書いた。いわば勝利したケースだけを取り上げた。

そして、「法的措置を取ります」はただの大人の挨拶なので適当にあしらっておけばよい、という主張をした。クロロ・ルシルフルばりの昼下りのコーヒーブレイク的な落ち着きを持て、と。


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『HUNTER×HUNTER』13巻より引用)


基本的にこの方針は正しく、大抵の場合はクロロ・ルシルフルをやっていればいい。だけど、たまにはそうじゃないこともある

僕もかつて「消さないと訴訟起こすぞ!」と言われて「しゃあねえ記事消すか……」となったことがある。いわば敗北のケースだ。今日はこれを扱いたい。


ちなみにその記事は、とある悪徳商売のターゲットになった友人に取材をし、その手口を克明に記したものだ。世間に明るみに出ていない手口を僕が初めて扱ったので記事は大変な注目を浴びてめちゃくちゃ拡散された。公開24時間で4万人くらいに読まれ、それ以降も相当拡散が続いていた。

僕は記事がバズったので牧歌的に喜んでいたのだが、バズったせいで商売の関係者にすぐバレて怒られてしまった。何が災いするか分からない、人間万事塞翁が馬とはよくいったものである。

というか、これだけテクノロジーが発展した世の中なんだから、いい加減「当事者にのみバレずにインターネットで大っぴらに悪口を言えるシステム」が開発されて欲しいものだ。そういうのがあれば僕も「有料部分でこっそり人の悪口を書くマガジン」という邪悪の福袋みたいなものを作らなくて済んだのに……。でも、この邪悪の福袋を売り始めたお陰で結構な収入を得られるようになったのだから、結果としてはよかったと言えるかもしれない。何が利益になるか分からない、人間万事塞翁が馬とはよくいったものである。


ともかく、今日はそんな「すみませんでした~!消します~!」と消した記事の話をしようと思う。

「話をしようと思う」というとちょっと不正確だ。ぶっちゃけ、消した記事をほとんど丸ごとリバイバル上映しようと思う。

禁断の消滅記事が、2年近い時を経ての復活である。

そんなことやっていいのかって?うん、よくないだろうね

でもほら、こういう見方もできるんじゃない?確かに僕は「消します」とは言ったけど、「未来永劫消しておきます」とは言ってない。だから、復活させることは約束に違反していない……ほら、そういうことでいいんじゃないかな。


ロシアの文豪トルストイの代表作『復活』では、殺人を犯したヒロインのカチューシャが、裁判で異常に重い罰の判決を言い渡されてしまうところからストーリーが転回する。

この異常な判決の理由は、「ただし、殺意はなかった」というただし書きを書き忘れる凡ミスである。

読者としては、そんな凡ミスある???裁判関係者ポンコツすぎない???と面食らうのだけれど、とにかくそれが契機になって物語が動き出す。

公爵である主人公は不当に重い罰を背負うことになったヒロイン・カチューシャを救うために奔走する。主人公は公爵という身分を犠牲にしながらも彼女を救おうとし、その過程で自分自身の魂も救われていく。

つまり、身分社会から抜け出し全てを失うことで人間性が”復活”する様子を描き出したのがトルストイの『復活』なのである。

そして、”復活”の原動力になったのは紛うことなく「ただし書きの書き忘れ」だった。


僕の記事もそうだ。「消さないと法的措置を取るぞ!消せば穏便に終わらせてやる!」と言ってきた先方は、僕の「消します」に納得して引き下がっていった。

だが、本来ならば先方は「消せば穏便に終わらせてやる(ただし、消した後も未来永劫同じ記事は載せてはいけない)」と言わなければならなかった。これは、ただし書きの書き忘れだ。

つまり、この記事の復活のしかたはまさに、トルストイ『復活』と同じ復活のしかたなのである。


だから、こうやって記事が復活するのは必然なのである





……何言ってるか分からないって?ごめん、僕も分からない

屁理屈の説得力を演出するためにトルストイとか持ち出してしまって本当に申し訳ない。僕は困ったときにすぐロシア文学で権威付けする悪癖がある。ロシア文学って威厳があっていいよね。皆内容知らないから適当なこと言ってもバレないし


とにかくまあ何が言いたかったかというと「せっかく取材して書いた記事だから有料マガジンに掲載しておこう。有料マガジンならバレないだろうし」ということである。

トルストイ『復活』の話は忘れて欲しい。『復活』については、ヒロインの名前「カチューシャ」がカチューシャの語源になっているという豆知識だけ覚えておけばよいと思う。明日使える豆知識だ。

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「カチューシャ」というかわいいイメージの言葉と裏腹に、『復活』は殺人犯であるカチューシャが地獄のような罰を言い渡されるハードな小説である。

それを知っておくだけで、「カチューシャ外しながら 君がふいに振り返って ♡」などと歌ったノンキなアイドルソングがジワジワ面白くなってくるので、この豆知識は抑えておくといいだろう。

(ちなみに殺人犯のカチューシャは極寒のシベリアで強制労働という判決を受ける。このMVは全体的にひたすら真逆を行っていてジワる)




さて、とにかくそういうことで、以下「消せと怒られてしまって消した記事」を再掲していく。

また、せっかくリバイバルするのだからということで、あちこち加筆修正した。内容を追加したり分かりにくかったところを編集したり、当時は自重して伏せ字にしていた部分を公開したりした。

また、「消せ!」と怒られた話や背景、後日談も最後に入れてある。リアルタイムで読んでいた方もぜひ改めて楽しんで頂ければ幸いだ。


もちろん、以下有料である。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。いつ入っても今月書かれた記事は全部読める。5月は5本更新なので定期購読の方が圧倒的にオトクだよ。


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