庵の人々_02_魚沼産コシヒカリ
2010年2月、小雨がパラつく中、カメラを持って私は浅草をほっつき歩いていた。
ホームレス、浮浪者と言うけれど、一番「浮浪」しているのは己れなんじゃないかとひとり思いながら。
(案の定、道すがら3人も手配師に声かけられた。)
隅田公園の道路脇に何件か並んでいる小屋が気になった。ホームレス支援のボランティアグループが訪ねていたので、彼らが去った後、それらの1つの小屋の扉をノックした。
2m四方もないほどのその中ではロウソクが2本灯されていて、ひっそりとした暖色の光景がふわっと広がり、それは外の小雨のグレー色と対比した。
中には2人いた。Hさん(69歳)が元々の住人で、Aさん(62か63歳)は今居候している。何とか2人で足を伸ばして寝ることができるらしい。この小屋自体は10年以上前からあるようで、入れ替わり立ち替わり、空室になったら新しい人が入り….となっているらしい。Hさんは「ヤドカリみたいだね。」と言った。
先ほどのボランティアグループから弁当をもらったのだが、もう食べられないと言ってまるまる1つを私に渡した。見ると何種類ものカレーが入ったそれなりに豪華なものだった。どこかの本格的なインド料理屋の余り弁当だろうか。
「俺は魚沼産コシヒカリしか食べない。」と体躯のいいHさんは言った。
米は自分で炊く。向かいのマンションの奥さんがよくおかずの差し入れを持って来てくれる。近隣の奥さんとの付き合いに驚いた。しかもHさんは子供を預かって散歩させたりもしている。さらには三輪車まで買い与えちゃっている始末。
聞けばHさんは年金をもらっている。アパートを借りて住むまでの水準にはいかないが、ここでこうして暮している分、家賃と光熱費が浮き、少し遊べる金が出てくる。貯金などはせず、全て使うと言った。友達や知り合いのホームレスに金を貸してあげることもあるらしく、それが戻ってこないことも多い。気前の良さと、後先考えない豪快さがうかがえる。
その挙げ句の果てには、なんと風俗に通っていると。鶯谷、80分2万5千円。20歳前後の韓国人の子が多くて良いと言う。あれやこれや、この文章では書けないことをしゃべってくる。最終的には1回も性病にはなっていないと。それを誇らしげに語られてもなぁ。
話盛ってない?
しかしその後何回か訪ねたが、つまらん見栄など張らない、周りに好かれ人間力のある人だった。少なくとも私にはそう見えた。
隅田公園で近所の子供を遊ばせているHさんは笑顔だった。
ショートホープもカートン買いストックしていたし、一体年金だけでこんな生活できるものなのか?
人間の一ヶ月の生活費とは。
指を折って色々数えてみる。
東京都台東区 2010
Hさん達、桜、建設中のスカイツリー
©KengoNoguchi