コロナで変わる需要の急激な変化。変化に対応した急成長スタートアップについて語る。
今回ご登壇頂いたのは、HR Technology分野に出資を行っているPERSOL INNOVATION FUND合同会社でパートナーを務める石田真悟さんです。
石田さんは、HR Tech分野の出資だけでなく、株式会社ミツカル等の経営に従事されているなど、スタートアップに精通されています。
今回は、石田さんから、コロナ禍で伸びている・注目されているHR関連サービスについてお話頂きました。
※本記事は、2020年8月5日に開催されたHR Millennial Lounge#10」のイベントレポートとなります。(テーマは「HR Techの最前線」になります)
はじめに
初めまして、PERSOL INNOVATION FUNDでパートナーを務めている石田と申します。
まずは、簡単に私の紹介をさせていただきます。
3年ほど前にパーソルホールディングスに入社しまして現在はPERSOL INNOVATION FUNDにて日本・アメリカ・アジアパシフィック地域の40社弱ほどの企業への出資やグループ企業のM&Aや資本業務提携等も複数担当しています。
また、他にも2社ほど別の会社を兼務しておりまして、株式会社ミツカル等の経営も携わっているので、ご興味あればぜひご案内させていただきます(笑)
現在パーソルとしては、人事システム、労働力の獲得サービス、はたらく個人を支援するサービスという3点のHR Technology分野にフォーカスをして取り組みを行っています。
その分野の中で、現状弊社グループで投資、M&Aをしている企業25社ほどで、国内外問わず出資させていただいています。
例えば、モデレーターの土橋さんとお会いしたきっかけでもあるhachidoriが提供している「CAST」 、アメリカでFMSを提供する「Shortlist」、最近上場した「Lancers」、建設現場のオンデマンドのプラットホームをやっている「助太刀」など様々なスタートアップに出資させて頂いております。
そのような経験を踏まえて、本日は海外や、日本のスタートアップの話題共有ということで、「1.コロナで起こったHR周辺の変化」、「資金調達やM&Aの観点から見るコロナ禍で伸びている&注目のHR関連サービス」の2点についてお話ししたいと思っています。
コロナで起こったHR周辺の大きな変化-HR TechからWork Techへの転換-
ご存じの方も多いかもしれませんが、今まではHR Techと言われていたような人事管理・勤怠管理・給与管理から、最近は急激にチャット・Web会議・電子契約などのWork Techににプライオリティが移行してきている状況です。
それに伴い、コロナ禍では人事部の管掌領域が一時的に多面化・複雑化しているのではないかと考えていいます。
今まで対応しなくて良かった業務が一時的に増えているので、今後は人事部の管掌なのか?という議論も行われるだろうと思いますが、現状は人事部が対応せざるを得なく、WorkTechへの対応も必要に迫られている方も多いのではないかと思います。
パーソルの中でも、この辺りのサービスの提携や出資の話は多くなっています。
これらの現状から、やはりリモートワークはツールの導入だけでなく仕事のルールや企業文化の再構築をセットでしていかないとうまくいかない、と改めて考えさせられています。
EXの関心はマズローの欲求の上層から下層へ変化
個人的には、コロナになりスタートアップにおける、EX(Employee Experience:従業員の経験価値)領域での取り組みも大きく変わってきたと思っています。
もともと人事のEXの関心は、マズローの欲求でいうと上層の自己実現、自己欲求、承認欲求に寄っており、本領域に対応したHR Techを導入する企業が多かったと思っています。
ただ、コロナ禍においては、マズローの欲求の上層から下層に関心が広がっており、EXという観点で下層の領域の様々なシステムの導入を迫らている企業が多くなってきているように思えます。
具体的な事例として、USのスタートアップから聞いた話をお伝えします。
コロナ禍においては、安全性を担保するために管理すべき人事管理項目も増えたといいます。
例えば、"Attestation"という「働いても大丈夫な証明」など、これまでわざわざ人事管理項目として管理する必要がなかった項目まで、コロナでの安全性を担保する上で管理する必要がでてきたようです。
このように、コロナ禍では、GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)観点での人事管理項目が見直されており、新たに人事が管理すべき項目が増えてきていると感じています。
特に「ServiceNow」のリリースが早かったと思うのですが、USでは、従業員が安全に職場復帰するための手段を効率的に管理し、従業員の健康と安全をサポートする「ServiceNow Safe Workplace」というサービスが出てきています。
このように、コロナにおいて非常に特殊性のあるサービスが伸びてきているということがHR領域での大きな変化だと思います。
「いつでも」から「どこにいても」に変わるリアルタイムフィードバックの需要
続いて、資金調達やM&Aの観点からコロナ禍で伸びている、注目しているHR関連サービスについてお話していきます。
まずは、「Lattice」というリアルタイムフィードバックなどのPeople Management Platformを提供するUSのスタートアップについてです。
本企業は直近、400数十億円ぐらいの企業評価額で50億円ぐらいを調達しています。
これは、コロナでリモートワークが促進されたことで、よりリアルタイムでのフィードバックの需要が増えてきたことに起因していると考えられます。
実際に、顧客数が2019年10月時点で1,500社であったのに、この半年で1,900社に急増しているなど、かなり需要が伸びてきているのが分かります。
特に「Share feedback from wherever you work」とLaticeは打ち出しているのですが、今までであれば、「いつ働いても」と打ち出していたものが、「どこで働いていても」という打ち出しに変わってきたのが肝だと思います。
Latticeのメンバーからも今までお話したようなことが理由で問い合わせが増えているというお話を聞いておりますし、国内でも類似のサービスが出てきていると思います。
メンバーシップ型からジョブ型雇用に向けてスキルの可視化がカギに
続いてご紹介するのは、従業員のスキル向上など、Learning Experienceをワンストップで提供する、USの「Degreed」という会社です。
最近この会社は、社内&外部人材のスキルデータベースを活用して、自社で募集しているポジションとの適性を可視化するシステムを提供している、「Adepto」を買収しています。
これは、スキルの可視化技術・プロ人材データベース・EUの顧客獲得が狙いの買収となっているようです。
国内でも、リモートワークによりメンバーシップ型からジョブ型雇用への関心が高まり移行を始めている企業もあります。
ジョブ型雇用では、会社として求めているスキルに応じて人材要件を定義し、適切に獲得していくことが前提となると思うのですが、その上で本買収のようなスキルの可視化は非常に参考になると思います。
まだ、具体的なアナウンスは出ていないですが、私個人として興味深くこの分野を見ています。
フリーランス・非正規社員のマネジメント・採用への需要が高まる
続いて、VNDLYという会社についてです。
日本ではVMS(ベンダーマインドシステム)、FMS(フリーランスマネジメントシステム)を導入されてる企業はあまり多くないと思いますが、USではさらに伸びてきており、シリーズBで$35Mを調達しました。
個人的にはUSのHR周辺の管理系のSaaSを提供している会社の中で今一番伸びていると思いますが、その理由として、SAP Fieldglassのリプレイスができていることが大きいと思っています。
本企業はBattery Venturesという世界の次世代Workforce Managementのようなシステムにたくさん投資を行っているようなVCも参画してきているので、今後国内でVMS・FMSが流行ってきたときには、日本でも名前を聞かれるような一社になってくるのではないかと思います。
続いて、USのWorkstreamについてです。
最近は“deskless“ワーカーの定義も変わってきていると思いますが、Hourlyワーカーというブルーワーカー向けの採用支援ツールを提供している企業となっていて、最近約10数億円ほど資金を調達しています。
この企業の面白いところは、Facebookなどが出資をしたPiter Thielが率いるFoundders Fund(Spotify/Space・Lyftなどに出資)が珍しくこの領域に出資していたり、DoorDash(アメリカで2番目に大きいUber Eatsのような会社) CEOのTony XU、先ほどご紹介したLattice CEOのJack Altman等が出資をしています。
なぜ彼らがこの領域に出資しているのかというと、USでは非正規社員領域の採用支援ツールや人事システム、非正規社員の調達に劣っていることが大きいようです。
コロナ禍においては、このようなエッセンシャルワークといわれる需要が伸びてきているため、非正規社員の採用支援を行うことが需要とマッチしており、注目度も高いといわれています。
また、“Deskless“ワーカーや正社員以外向けのHRISを提供する、CanadaのWorkjamも伸びており、今年に入って50数億円調達しています。
今まで国内だとHourly ワーカーを調達するのはバイト系のジョブボードを使ったり、それを管理するのは別システムだったりするケースが多いと思います。
一方で、本サービスでは非正規雇用の方も含めてワンストップかつ給与の領域まで提供できるサービスとなっており、このようなサービスは中々存在しないので、コロナ禍において伸びてきているのだと思います。
今後日本に参入してくるかは分からないですが、非常に注目しています。
リモートワーク×グローバル人材のワンストップサービスが台頭
また、日本でなじみがあるか分かりませんが、海外ではリモートワーク×グローバルで業務を行っているスタートアップが多くなっています。
そのような中で、リモートワーク×グローバル人材の雇用契約から総務、労務などを、各国の法規制に従ってワンストップで提供するUSの「Deel」という会社が大きな調達をしています。
Andreessen Horowitzというアメリカでも有名VCで、普段はHRの領域に投資しないのですが本VCがDeelに投資を行っており、非常に興味深く思っています。
実際にDeelの方と話したこともあるのですが、やはりすごい伸び方をしていました。
スタートアップによるコロナ禍でニーズのある企業の買収も活発に
直近でいうと、Slackが企業の社員名簿を構築する、USのRimetoを買収して社内での人探し機能を高度化しようとしています。
Slackのケースは分かりやすいですが、スタートアップが大きくなって上場して、コロナ禍においてニーズがあるような企業・事業の買収を行っていくというのが、USでは多く活発になっていると思います。
国内でもリモートワーク需要に捉えたサービスが急成長に
ここからは2社ほどリモートワークにより急成長している日本の会社をご紹介します。
一つ目は「ACALL」いう会社で、ワークスペース・ハードウェア・ソフトウェアを統合・一元化することで、スマートなワークスタイルを実現できるプラットホーム「WorkstyleOS」を展開しています。
現在、コロナ禍において、三密を避ける必要がある中で、「今オフィスいる人数が分かり、今、自分が出社するとどれぐらい密になるかが分かる」ようなプラットフォームになっていて、非常にニーズがあって、5億円も調達をしています。
現在は導入が3600社まで伸びているようで、コロナ禍において、このような一元管理ができるプラットホームは日本においてもニーズがあると改めて再認識できたニュースとなっています。
最後に、Queueという企業を紹介します。
本企業は、テレワークや在宅ワークなどを行っている、リモートワーカーのパフォーマンスを可視化するチームマネジメントツール「Remonade(レモネード)」を正式にローンチしています。
驚いたことに本企業はコロナの前にサービスをローンチをしています。
もともとは企業の中でもマイノリティだったリモートワーカーのパフォーマンスの可視化を目指していました。
しかし、コロナにおいてはリモートワークをしている人が圧倒的に多いという会社も増えてきて、大多数の社員を管理するというツールとして非常に伸びているというお話をお伺いしています。
最後に
これまで、HR Techの動向の変化や、海外・国内で急成長しているスタートアップについてご紹介してきました。
これまでご紹介をしてきたように、Work Tech・リモートワーク・Desklessワーカーなど、いくつかの領域でコロナ禍で急激に需要が増えております。
そのような需要が変化している中で、需要にマッチしたツールを提供できている会社が、直近のHR Tech業界では買収や大型の調達を行うことができ、市場をにぎわせていると感じています。
他にも色々伸びているサービスがありますが、お時間になりましたので、今回の話題提供は以上となります。ありがとうございました。
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