人種、民族等のあれこれ

人類史・人体史に関する書籍を結構読んできたが、遺物の発見、何より分子考古学の発展により時を経るに連れ説が変わって行くことを感じる。尚、今回は国立科学博物館長である篠田謙一氏(2021)『人類の起源』中央公論者社を読んだのを機に書いている。


 

サル、次に類人猿から分岐し、更に2足歩行を初めた人類の起源は数百万年前と言われているが、発見された最古の化石に依存するので必ずしも時期は定まってはいない。つまり、見つかっている最古の化石でしか議論ができないので限界がある。現世人類の発生の地は東アフリカであることは今のところ学会での共通認識のようである。然し乍ら、その起源も同じく明確ではない。一応、20万年前~15万年前という説が主流であろうか?一方、「出アフリカ」という用語は一般化していると思う。この時期も諸説があるが、何回かに分けて行われていると想定されており、本格な出アフリカは6万年位前であろうというのが最新の研究らしい。

 

それら人類史のことではなく、そのベースとなっているDNA分析を主とする分子考古学/遺伝子考古学から考えるべき現代の人種等が述べたい事柄である。最初に結論じみたことをいうならば、人類の拡散・移動・交流は複雑で、現代の国家の括り、或いは人種・民族では到底別けられるものではないということである。逆説的に言えば(門・網・目などの上位分類は省略)、科・属・種の分類において現世人類はヒト科・ヒト属・ヒト亜属・ホモサピエンス種という一つの種でだけで取り立てての重要な差異はないということである。少し古い本だが話題になったブライアン・サイクス(2001)『イブと七人の娘たち』ソニー・マガジンズに「遺伝子的に見れば人類を分類する生物的な根拠は全くない。日本人も同じである」と趣旨のことが書いてあった。従って、人種差別や民族間紛争(宗教戦争は違うかも知れない)は生物学的には同士討ちということである。最も人類間の闘争、戦闘は人類誕生以来の宿痾ではある。これで終わっては少しもの足りない?ので、以下つらつらと書き述べる。

 

人種、民族と別に語族、民族、「(部)族」「人」という呼称もある。人種別けの代表はネグロイド、コーカソイド、モンゴロイド、オーストラロイドであろう。語族はどの単位で括るか/上位系統・下位系統があって複雑だが、大きな括りとして印欧語族、アフロ・アジア語族、シナ・チベット語族などがある。民族は更にややこしい。辞書に「出自・歴史・文化・言語・生活様式を共有し同族意識を持つ集団」と書いてはあるものの、曖昧な概念であるのは否めない。世界史ではゲルマン民族がお馴染み。現代で使っているのはスラヴ系民族位?で余り使われていないかも知れない。族と人も使い方がマチマチである。例えば、クルド人と言ったり、クルド族と言ったり。一般的に語族、民族の下位概念のように見えるがそうでもない。ウクライナ問題/ロシア侵略において、ウクライナ人、ロシア人といっても、ウクライナ語とロシア語の違いがあるにせよ、明確な境界はないと思う。

 

因みに「ロシア人」もよく分からないのではないか。ロシア語を喋るからロシア人とは誰も思わないであろう。では、多数の内部共和国からなるロシアにおいて、狭義のロシア共和国に住む人がロシア人かと言えばこれも違う。少し話がそれるが、オリンピック女子フィギュアスケートで金メダルを取ったザギトワはウドムルト共和国出身でタタール系ムスリム人だそうだ。この共和国はロシア人が半数以上居ることになっている。金メダル確実と言われながらドーピング問題で沈んだワリエワはタタールスタン共和国出身のタタール人だ。

 

日本に目を向けると、縄文人・弥生人という言い方がよく出る。実際は、縄文人といっても大陸や島々から多様なルートで流入していて単一ではないし、弥生人の流入ルートも一様でなく、ルーツは中国の長江だとか朝鮮半島だとかどれか一つに決まるものでもない。また、渡来人という呼称が日本史である件は、そもそも全てが日本列島に渡来したのではという極論は抜きにしても、どの時期から渡来人というかの定義はしようもない(意図的、政治的になら決められる?)。

 

オマケ1:セム族・ハム族(セム語属・ハム語族)

嘗て世界史の教科書に載っていた。現在、ハム語は否定されセム語はアフロ・アジア語族の一つとして括られている。


 

オマケ2:ケルト人・ガリア人・ゲルマン民族

ケルト人はゲルマン民族居住地の西方、欧西欧全体に広がっていたと言われている。ケルトは古代ギリシャ人が付けたもので古代ローマ人はそれをガリア人と呼んだと書いてある書籍もある。但し、ケルト人⊃ガリア人、つまりガリア人はケルトの一部で、ガリア地方に住むケルト人という説もある。

ガリア人は内部にまた多くの族があり、その一つにベルギー国名になったベルガエ族がいる。数十年前にブラッセルで買ったレース編みにも書いてある(写真添付)。

フランスの国名はゲルマン民族のフランク族から来ているのは大方が知っているであろう。ドイツ語でフランスのことをFrankreich(フランクの国)という。

 

オマケ3:日本は何語族?

嘗て日本語や朝鮮語はウラル・アルタイ語族という説明があった。今はどの語族にも括られていない。因みにウラル語とアルタイ語は、現在は別系統として分離されている。

 

オマケ4:蝦夷(えみし)とアイヌ

ヤマト王権で北方の人々を蝦夷と読んでいたのは、要は「異国」の夷狄ということで自分達の国とは思っていなかった。蝦夷は東北だけか北海道を含むか定説はない模様(個人的には当時は北海道が見えていなかったと思っている)。尚、蘇我蝦夷もいたよう、蝦夷は必ずしも蔑称ではない、当然ながら蝦夷とアイヌとはカテゴリーが異なる。アイヌを論じる場合は樺太、カムチャッカ半島なども含める必要がある。アイヌと沖縄は平均的日本人より縄文人の遺伝子がかなり多いが、同じ人々が北方からと南から流入したということを意味しない。

 

オマケ5:遺伝子考古学を理解する要素

考古学に限ったことではなく現代人分析でも同じで、以下の意味を最低理解する必要がある。

DNA、遺伝子、ゲノム、ミトコンドリアDNA、Y染色体、ハプロタイプ(グループ)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?