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コミュニティの構造・戦略・KPI・あるいはネットワークについて

これはコミュニティ運営についてまとめたnoteです。

まず理想的なコミュニティに観察される2つの特徴について解説し、コミュニティを成長させる戦略フレームワークと具体的な戦術を議論します。最後にKPI設定方法と分析手法についての私見をまとめています。
※Reproユーザーコミュニティの個別事例はありません。事例が気になる方は過去の登壇レポートをご覧頂けますと幸いです。

想定読者

  • すでにコミュニティ運営に携わり試行錯誤されている実践者

  • 「コミュニティマーケティング」等の書籍を一読された方

  • コミュニティの目的と提供価値がある程度明確になっている方

【追記】
本noteで記載しているのはあくまで戦略や戦術のフレームワークです。本質論に触れていません。コミュニティの本質論に踏み込んだ続編noteを公開しております。よろしければ併せてご覧くださいませ。

謝辞
この議論の基礎となる部分の多くは、小島さんのアウトプットから学ばせて頂きました。コミュニティ立ち上げ当時非常に助けられました。改めて感謝をお伝えしたいです。本noteはこの書籍の内容を前提知識として進めています。ぜひご一読ください。

また複雑ネットワーク(ネットワーク理論)についてはDeNAの鶴川さんにご教授頂き感謝しております。

最後に、私が最も尊敬し、信頼を寄せるコミュニティマネージャー孫さんからはコミュニティ運営の心構えや本質について本当に多くの事を学びました。心から感謝です。

それでは以下本題です。

1章:究極のコミュニティとは

「ユーザーコミュニティを立ち上げていこう!」と検討していたとき、そのその実態を掴むことができず困り果てていました。企業対ユーザーの1対1のマーケティングとは話が違うのです。「ユーザーとユーザー同士の関わり合いが発生するコミュニティって一体何なんだろう…?」解像度を高く保つことができませんでした。

そんなある日、散歩をしていたら、近所の小学校で子供たちが鬼ごっこをしていた姿が目に入ってきました。

Aくん「なぁ、鬼ごっこやろうぜー!」
Bくん「やろうやろう!」「みんなー!鬼ごっこやるって!」
その他大勢「やるやるー!」

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画像引用元:全校鬼ごっこを行いました

Aくんの呼びかけを発端に続々と仲間が集まり、集団が形成されていったのです。

はじめは数人で鬼ごっこをしていたのに、時間が経つにつれて仲間が増えていきました。鬼ごっこを終えた子供たちは疲れているはずなのに、なぜか目が輝いていました。なぜなら友達同士の絆が強固になったからです。いつの間にか初対面の他のクラスの子とも打ち解けていたのです。次の日も同じメンバーで鬼ごっこが開催され、強い絆の集団に成長していくようでした。

そうか!「小学校の友達の輪」それがコミュニティだったのか!目指すべき姿は小学校の放課後だったのか!

謎に包まれていたコミュニティ。その姿は意外なほど身近なところにありました。しかも「小学校の友達の輪」は強固で、持続可能性の高く、まさに理想系と言えるものだったのです。

2章:理想的なコミュニティが持つ2つの特徴

「小学校の友達の輪」に代表されるような強固なコミュニティには必ずと言っていいほど共通の構造、それも人間関係ネットワークの構造が2つ見られます。この2つのネットワーク特徴こそ強固なコミュニティの証と言えます。

1.ネットワーク密度の高いクラスタが数多く存在している点

4月の新学期といえばクラス替え。お互いの顔と名前を知らない子供たち同士が集まりクラスが誕生します。はじめはお互いの関係性がゼロです。

しかし「鬼ごっこ」という共通の関心事を基軸に人が集まります。そして何度か鬼ごっこを繰り返すことで、相手の名前を覚え、絆が芽生え、鬼ごっこ集団の人間関係が強固に成長していきます。そして強固な人間関係で結ばれれば、鬼ごっこがなくても集まるようになるのです。クラスルームで仲間と会話を楽しんだり、バカ騒ぎをしたり、ゲームをしたり。

もはや鬼ごっこがあるから集まる集団ではありません。友達だから自然と集まるのです。

またこのような友達の絆は鬼ごっこだけではありません。クラスでトランプを楽しむ集団、お絵かきが好きな集団、サッカーやバスケを楽しむ集団。そのような小集団が自発的に発生し、その小集団で繰り返し顔合わせすることで、強固な人間関係で結ばれていきます。

複雑ネットワーク(ネットワーク理論)の世界では、鬼ごっこグループのような類似性を持った小集団を「クラスタ」と呼び、クラスタ内の関係性の強さを「ネットワーク密度」と呼びます。*1

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強固なコミュニティには、ネットワーク密度の高いクラスタが複数存在しています。

例えば病院の医療組織において、成果を上げる外科医組織と成果を上げない組織の決定的な違いは、チームメンバー同士の相互支援量であることが知られています。言い換えるとネットワーク密度です。*2

理想的なコミュニティでは、強い絆で結ばれたクラスタが数多く存在します。

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しかし現実的にはマーケティングを目的としたコミュニティがこのレベルに達することはほとんどありません。小学校のように参加者の100%が高密度クラスターに属している状況を作れたら奇跡的です。一般的にマーケティング目的のコミュニティの場合、高密度クラスターに属する参加者は20%も満たないでしょう。

ほとんどのコミュニティはここに深刻な課題を抱えています。

コミュニティマーケティングにおいて「オフラインファーストだ*3」「まず人からはじめよ。適切なリーダーと適切なメンバーを集めよ。*4」と叫ばれる所以はここにあります。

参加者同士の関係性がゼロでは何も始まらないのです。まずはメンバー同士の関係性をつくることが大切です。そのためには、クラスターを作りネットワークの密度を高める必要があります。このような関係性のネットワークができて初めて「コミュニティ」と呼べるのです。まずは関係性作りから始めましょう。

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図:関係性ネットワークが育つ過程のイメージ*5

2.クラスタ間を橋渡しする「弱い紐帯」が数多く存在している点

2つ目の特徴は、次のシチュエーションをイメージすることで見えてきます。

ある日、いつもの鬼ごっこメンバー内で大喧嘩が勃発しました。「もうBくんの事は嫌いだ!」と叫ぶAくん。それに歯向かうBくん。

主力メンバーの決裂です。その日以降、鬼ごっこは開催されることなく、鬼ごっこクラスタは解散してしまいました。これで小学校コミュニティは崩壊してお終い。。。になってしまうのでしょうか?

当然、否です。想像がつくように1つのクラスタが消滅した程度では小学校コミュニティは崩壊しません。

なぜなら鬼ごっこ以外にも集まり繋がれる場があるからです。鬼ごっこクラスタ以外にも、トランプクラスタ、ほかクラスメイトとのサッカー部クラスタ、クラス内の班グループ、そろばん教室クラスタ、と様々なクラスタに所属しているからです。

鬼ごっこ以外のクラスタの仲間とも繋がりを持っているため、鬼ごっこクラスタが消滅してもダメージは少ないです。

しかし、もし自分の居場所が鬼ごっこクラスタしかなかったらどうでしょう?きっとその人はコミュニティから抜けてしまいます。

コミュニティ内にネットワーク密度の高いクラスタが複数点在しているだけでは不十分です。そのクラスタ間を橋渡しする人間関係が多数結ばれている必要があるのです。

このようなクラスタ間を結ぶ関係性ネットワークを「弱い紐帯(よわいちゅうたい)」と呼びます。1973年にマーク・グラノヴェッターは一見弱そうに見えるこの弱いつながりこそ重要だということを発見しました。*6

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弱い紐帯が本当の意味でコミュニティの根底を支えるのです。

「クラスタ間を橋渡しする『弱い紐帯』が数多く存在する状態」これが強固なコミュニティに観察される2つ目の特徴です。

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会社組織においても、ある現場チーム内の人間が去ることで会社組織全体の崩壊につながるケースは稀です。部長レイヤーが揉めたり去ることのほうが遥かに致命傷です。なぜなら現場メンバーよりも部長レイヤーのほうが各組織(クラスタ)と弱い紐帯でつながり、情報の橋渡しをしているからです。

皆さんは、リーダークラスのユーザーさんがコミュニティを去り、コミュニティが一気に縮小・崩壊してしまった経験はありませんか?

盛り上がっていたコミュニティが収縮してしまうなら、それは弱い紐帯が途切れてしまったのかもしれません。

他部署との交流機会を提供する部活動制度。知らない人と知り合えるユーザーミートアップイベント。これらの施策がコミュニティの成長に有効なのはなぜでしょうか?その背景理由こそ「弱い紐帯」です。コミュニティを盤石で強固なものにするためには「弱い紐帯」に目を向けなければなりません。コミュニティ内の「弱い紐帯」の状態をモニタリングし健全に保ちましょう。

3章:成長戦略「コミュニティ・グロース・ピラミッド」

理想的なコミュニティは、

1.ネットワーク密度の高いクラスタが数多く存在している点
2.クラスタ間を橋渡しする「弱い紐帯」が数多く存在している点

という複雑ネットワークを形成している事がわかります。

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したがって理想的なコミュニティにするためには、この複雑ネットワークの形成を目指せば良いと言い換える事ができます。

目指すべき理想状態を具体的に定義するために、コミュニティに所属するユーザーを4パターンに分類していきます。コミュニティはこの4パターンのユーザーで構成されます。

1.Leader
何らかのイベントを企画したり、リーダーシップを発揮しクラスタをリードしてくれる人

2.Follower
リーダーの企画に賛同し、クラスタのメンバーと共に活動を行う人

3.Active Audience 
クラスターには所属していないが、コミュニティに所属し、クラスターの活動を見守っている人々

4.Non-active Audience 
コミュニティに所属しているが、全く活動していない人

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実際は上記のような複雑な図になりますが、このままだと考えにくいので、ピラミッド型に簡略化します。

コミュニティの成長を考えるためのフレームワークを「コミュニティ・グロース・ピラミッド」と名付けました。

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コミュニティ・グロース・ピラミッドを定義することができれば、コミュニティの理想的な状態を言語化し、定義することが可能になります。定義さえできればチームメンバーが正しい方向に進みやすくなります。

そしてコミュニティ・グロースピラミッドを定義するうえで最も重要なことは「コミュニティの目的」です。

コミュニティの目的は何ですか?マーケティング目的?セールス目的?それともカスタマーサクセス目的ですか?

コミュニティの目的から逆算してコミュニティ・グロース・ピラミッドの4階層での提供価値を明確にします。さらに各層にどのような顧客体験を提供するかを設計します。

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カスタマーサポートの効率を上げることを目的に、フォーラム型コミュニティを目指しますか?その場合「Active Audience」に、即疑問解消できる体験を提供する必要があるかもしれません。

それとも新規獲得マーケティングを目的に、お客様の口コミを拡散させることを目指しますか?その場合「Follower」に他のユーザーとの交流体験を提供する必要があるかもしれません。

それとも限られた地元の人たちだけが安心して集まれる場を提供したいですか?その場合、一見さんお断りにして「Leader」と「Follower」に全力を注ぐべきかもしれません。

あなたが作りたいコミュニティでは、何を目的に、どのような価値を提供することを目指しますか?そしてその結果として各階層のユーザー比率を何パーセントにしていきますか?目指すべき姿が高い解像度でイメージできるようになります。

もしもActive Audienceの情報収集価値に振り切った試聴型コミュニティを目指すのであれば、フォローワーが1%でも問題ないし、クラスタも弱い紐帯も無くて良いのです。(例:YouTube的なコミュニティ)

大切なことは目的から逆算してコミュニティをデザイン・設計する事です。

とは言えベンチマークがないと比率を想像することは難しいのも事実です。一般的にコミュニティの各層の比率は、リーダーが0~3%、フォロワーが5~20%、アクティブなオーディエンスが10~40%、非アクティブなオーディエンスが40~80%とされています*7

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図:比率のイメージ *8

4章:ピラミッドを活用した戦術

コミュニティ・グロース・ピラミッドが定義できたら、低階層から高階層への成長と各階層ユーザーの維持・活性化を考えます。論点は次の3つに集約されます。

・論点1.フォローワーからリーダーに転換し、維持活性化するためには何が必要か?
・論点2.アクティブオーディエンスからフォローワーに転換し、維持活性化するためには何が必要か?
・論点3.ノンアクティブオーディエンスからアクティブオーディエンスに転換し、維持活性化するためには何が必要か?

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様々なケースの事例を交えながら具体的に考えていきます。

論点1.フォローワーからリーダーに転換し、維持活性化するためには何が必要か?

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ここでは「興味の壁」「不安の壁」「継続の壁」という3つの壁を乗り越える必要があります。

1−1.興味の壁

コミュニティに参加したてのユーザーが「いきなりリーダーをやりたい!」と思うことは殆どありません。リーダーになることへの価値を認知してもらい、興味を持ってもらうことが必要です。

B2Bのコミュニティマーケティングでは何度かイベントを開催しリーダー候補のユーザーさんを発掘するアプローチが鉄板です。

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画像引用元:ファーストピンの見つけ方育て方*9

サムザップさんのゲーム、リンクスリングスではリーダー制度となるアンバサダープログラムを設計されています。アンバサダープログラムに協力するメリットを用意して応募をかけることで、積極的にコミュニティに貢献してくれるファン(リーダー候補)を集めています。

制度設計的なアプローチです。

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画像:#MarketingLIVE Vol.4より

1−2.不安の壁

リーダーになることに興味を持てても、一歩踏み出すにはとても勇気がいります。その心理的障壁を乗り越えて頂く必要があります。

「チャネルトーク」ではユーザーさんと共に「チャネルトークの活用記事」をテーマにしたアドベントカレンダーに取り組まれたそうです。このような素敵な共創型の企画があると興味がある方も一歩踏み出しやすくなりそうです。

ゲーム実況のコミュニティアプリ「Mirrativ」では、定期的にアプリ内でゲーム実況を投稿してもらうためのキャンペーンを行っています。「フォートナイトを配信しよう!」というキャンペーンを行いユーザーに言い訳を用意させているのです。このようなキャンペーンが行われると、ユーザーは「投稿するのは怖いけど、キャンペーン期間だからやってみようかな」という気持ちになります。

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ひとつ、重要だなと思っているのは「言い訳の提供」です。
観察していると「言い訳」ができることで配信に抵抗がなくなる人は多いんです。ミラティブの例で説明すると、まず配信を始めたい人って「わしの配信って需要ある?」とツイートしたりアンケートを取ったりするんですね。

つまり周りに「配信してほしい」と言ってもらいたいんです。そこで言い訳ができると「しゃあないな。ただし無言やぞ?」と配信をはじめます。すると、フォロワーとか友達とかが冷やかしにくるんだけど、「意外と何さんランク高いですね」みたいに褒めてくれたりもする。人が集まると人間って「もてなさなきゃ」って気持ちになるので、そうすると「次は声ありで配信します」って話になるわけです。それで、声ありで配信すると「イケボやん」と褒められたりする。気がつくと「今日もやっていくぞ!」と配信が習慣化されていく。

実はこうしたパターンが、典型的なミラティブ配信者への道のりなんです。

草の根から熱量を高めて配信者100万人。ミラティブが語る「灯火型」のコミュニティ立ち上げ論と、小さな配信の集合体が「視聴時間の80%」を支えてる話*10


1−3.継続の壁

せっかく勇気を持ってリーダーにトライしても「継続しない」という壁が待ち構えています。これを打破する鍵はフォローワーの存在です。なぜなら、リーダーがリーダーとして行動できるのは、フォロワーのフィードバックのおかげだからです。

デレク・シヴァースのTED動画を見てみましょう。小島さんオススメの非常に有名なTED動画ですが、これを見るとフォローワーの支持のおかげでリーダーがリーダーとして存続できるのだと理解できます。

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クラスタのネットワーク密度を高めるにはリーダーの継続が不可欠です。しかしリーダーが継続するためには、逆説的ですがフォローワーの継続的な支持が必要です。だからこそ熱量の高いリーダーとフォローワー同士を集め少しずつ熱量を高める焚き火戦略が重要になるのです。

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画像引用元:草の根から熱量を高めて配信者100万人。ミラティブが語る「灯火型」のコミュニティ立ち上げ論と、小さな配信の集合体が「視聴時間の80%」を支えてる話

論点2.アクティブオーディエンスからフォローワーに転換し、維持活性化するためには何が必要か?

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見る専だった人が交流の輪の中に入る。輪の中で交流を継続する状態です。すなわち「一歩踏み出す」「安心できる環境がある」というステップをクリアすることを意味します。

2−1.一歩踏み出す

交流の輪の中に入ってもらうためには、その交流が楽しそうだと感じて貰う必要があります。リーダーやフォローワーの活動をイベントレポートにしてアクティブオーディエンスに届けるアプローチが効果的です。

またフィットネスバイクサービスのPelotonでは一歩踏み出すまでの動線が秀逸です。トレーナーによるトレーニングコンテンツに参加すると、他のユーザーも同時接続参加しているのです。サイクリング結果に他のユーザーの走行距離が表示されたり、SNSで連絡が取れるようになります。

このようなフィットネスは一人で継続するのは難しいもの。。自然とサイクリング仲間ができる導線になっているのです。

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画像引用元:Peloton公式HP

2−2.安心できる環境がある

熱量の高いコミュニティにするには「甲子園優勝するぞ!」というような熱いミッション・ビジョンが必要でしょうか?実は必ずしもそうではないところがコミュニティの奥深い点です。自分が自分のままで求められる空間がある。そんな安心できる環境整備が重要だったりします。

佐渡島
もっとも重要なのは、「安全・安心」を確保することです。「自分を認めてくれる人がいる」「発言することを歓迎される」「近い立場の人がいる」など、安全・安心の形は人それぞれですが、まずはその点を担保する必要があります。
僕は当初、「人々は熱狂によって動く」と考えていました。でも熱狂は、スタートダッシュには適しているけど、長くは続かない。それよりも安全・安心を確保してから、それぞれに適切な役割を与えると、人は自発的に動き始めます。箕輪
僕は2017年6月に箕輪編集室を立ち上げたんですが、もともとは「仕事が忙しいから手伝ってほしい」という動機でした。そのため「死ぬこと以外はかすり傷」というキャッチコピーを掲げて、全員に「走れ、走れ」とハッパをかけていた。
でもある時、佐渡島さんから今のような話を聞いた。
そこで、「別に走りたい人は走ればいいし、休みたい人は休んでもいい。参加している時点で貢献しているんだから、それぞれが自分なりのペースでやってほしい」というメッセージを発信したら、むしろ自ら手を挙げて動く人が増えたんです。【佐渡島×石川×箕輪】「1000年続く組織」の共通点*11

例えば「お互いの顔と名前を知らない」という状態では安心は生まれません。お互いに自己紹介できる掲示板がある。どうでもいい話ができる雑談スレがある。普段から何度も顔合わせをする場が提供され「いつものメンバー」ができる環境構築が重要かもしれません。

小学校ではクラス替えのタイミングでクラス写真アルバム名簿を配布したり、班を分けて常日頃から顔合わせる「いつものメンバー」ができる環境を用意したりと、素晴らしい取り組みが多数存在します。素晴らしいモデルケースです。


論点3.ノンアクティブオーディエンスからアクティブオーディエンスに転換し、維持活性化するためには何が必要か?

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コミュニティ内の休眠ユーザーを参加させ、新規ユーザーをコミュニティに呼び込むことはとても重要です。

第一に、新しいメンバーの参加がないコミュニティは、限界集落のように消滅の危機に瀕してしまうからです。

第二に、人の興味は永続的ではなく、移り変わるため、いつかはコミュニティを卒業してしまう可能性があるからです。

DeNAさんのゲーム「メギド72」では、熱量の高いユーザーさんの声を発見し、その思いを発信しやすいようにハッシュタグを提供し、プロモーション出向と連動させる取り組みを行われています。プロモーション効果はもちろんですが、ユーザーさんにとっても「自分の好きなゲームがトレンド入りしてる!!」とテンションが上がる素晴らしい取り組みです。

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画像引用元:【セミナー】非効率な施策が効率的なゲーム運営に繋がる…グリー・DeNAが明かすコミュニティマーケティングの考え方とその効果とは*12

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以上のように、3つの論点を検討することで、コミュニティをグロースさせる戦術が見えてきます。

ピラミッドの各レベルで提供したい顧客体験を定義できれば、ユーザーは自分のニーズに合った体験を「選択」することができます。

交流に興味がなく、記事コンテンツからナレッジを得たいだけのユーザーにはナレッジを提供することが。知識だけでなく、他の参加者との交流を求めているユーザーには、交流の価値を提供することが。ユーザーは自分のニーズに合わせてコミュニティを活用できるようになります。

そして中には、各階層の価値を実感しながら上位の階層に成長していくユーザーもいるでしょう。ユーザーのコミュニティに対するコミットメントが徐々に上がっていきます。

このような理想的なコミュニティになると参加すればするほどコミットメントが上がっていく「コミットメントカーブ *4」が観測されるようになります。

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5章:コミュニティのKPIとビジネスインパクト

コミュニティ・グロース・ピラミッドに沿って各層のユーザーを活性化できると、ネットワーク密度の高いクラスタと弱い紐帯により構成される複雑ネットワークが形成され「理想的なコミュニティ」に近づきます。

つまり理想的なコミュニティに近づくということは、人間関係ネットワーク資産が形成される事に等しいのです。そしてそのようなネットワーク資産は一夜では完成されません。最低数ヶ月以上かかるケースが一般的です。

コミュニティにはこのように”資産的な特性”があるため、アセット化されるまではインパクトが出ません。その資産的特性を加味したKPI整理が必要です。先行指標と遅行指標を切り分けて3段階で把握していく手法が効果的です。

1.CX
施策単位の体験の評価指標。イベント参加率、満足度など、定性情報含む

2.CE
ピラミッドの各階層のアクティブユーザー数

3.Business Impact
コミュニティによって得られたビジネスインパクト(遅行指標)

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基本的には1.CXと2.CEのモニタリングをしながらコミュニティ運営をしていく事になります。

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画像引用元:カスタマーエクスペリエンス(CX)とカスタマーエンゲージメント(CE)の違いとは?定義・歴史的背景から考える。

ただ、3のビジネスインパクトが鬼門です。

ビジネスインパクトは遅行指標なのでこれの可視化は困難を極めるのです。Atlassianのように、ピラミッドのアクティブユーザー数に売上指標を掛け算して概算する方法が一般的です。

Atlassian Community Events (ACE) では、コミュニティイベントチームの重要なパフォーマンス指標として「総参加者数」を使用しています。ACE の参加者の行動を調べたところ、参加者の 81% が参加後 30 日以内に無料ライセンスをダウンロードし、34% が購入したことがわかりました。

アトラシアンの顧客 1 人当たりの平均収益は約 6,000 ドル、粗利益率は約 80% です。つまり、ACEの参加者1人あたり、0.34 x $6,000 x 80% = $1,632の増分収益が発生することになります。コミュニティメンバーの参加者1人を獲得するのに100ドルかかると仮定してみましょう。すると、CROIは次のように計算されます。

($1632 - $100) / $100 = 15.3倍のCROI

The Community Playbook for Founders*13

その上でコミュニティ参加者と非参加者を比較してデータを出します。しかしながら、このときに「コミュニティに参加したから購入につながったのか?もともと購入する人がコミュニティに参加していたのか?」と鶏卵問題に直面します。

それを回避するためには、スタート地点のアクティブ度合いが同様のユーザーを抽出して比較分析するアプローチが有効です。*14 (※ただし統計的に一定のボリュームが必要なのでB2Bの小規模コミュニティでは難易度が高い…。ゆえに海外先進事例でも定性的な熱量で経営判断するケースが多いようです。)

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参照元:ファンの価値は、どう計測できるのか【コミュニティマーケティングを成功に導く十カ条】 *14

とはいえ、コミュニティによりどのようインパクトが期待できるか考えるのは難しいものです。なぜならコミュニティはリーダー、フォローワー、アクティブオーディエンスの影響が相互に働く、複雑な系だからです。当然ながら影響は多岐に渡ります。その場合はどうしたらいいのでしょうか?

そんな時は、複雑な系をループシステムとして捉え直し、シミュレーションする手法「システムダイナミクス(SDモデル)」というアプローチを用いることがオススメです。いわゆるシステム思考です。各階層のユーザーの動きがどのように売上につながるのかシミュレーションできるだけでなく、「リーダーを増やすことによる全体への影響」「フォローワーを増やすことによる全体への影響」などを想定することが可能になります。*15

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画像:新規獲得マーケティング目的コミュニティにおける、システムダイナミクスのループ図一例

具体的な手法は割愛しますが、もしご興味ある方いらっしゃれば、以下記事の最終章でシミュレーション方法をご紹介しているのでご覧ください。

以上、長文にも関わらず読んでいただきありがとうございました。

自分もコミュニティ立ち上げ当時は様々な方に助けて頂きました。そんな自分のnoteが他の誰かのお役に立てたら幸いです。

余談:コミュニティの詳細分析手法

マクロな視点でピラミッドの階層アクティブユーザー数を眺めていても、残念ながら改善のインサイトは得られません。

そのため有効な1つのアプローチは対面で会ったりアンケートを取るなど定性的な情報を重視し、インサイトを得ることです。

もうひとつの有効なアプローチは、個々のネットワーク状況を見ていくことです。*1

例えばある1人のユーザーのネットワーク本数(ノード数や次数と呼ぶ)を見ましょう。そのユーザーさんが毎回イベント参加しているのに、直近アクティブなノードが1本しかなければ不思議ではありませんか?交流価値を感じていない証拠です。なぜノード本数が増えないのか深堀調査すればインサイトが得られるかもしれません。

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ノード数は時系列で変化していきます。

DeNAさんではネットワーク状況をアルゴリズムで自動抽出し、コミュニティの時系列変化の可視化に取り組まれているようです。成長するクラスタと縮小危機にあるクラスタがモニタリングできるのは素晴らしいですね。 *1

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画像引用元:ネットワーク科学で挑戦するゲームマーケティング改革


余談:コミュニティに携わる前に知っておきたかった心構え

最後にコミュニティに取り組む方向けに「もっと早く知っておけばよかった」と思う心構えについてまとめていきます。

1.コミュニティの意思決定はやり直し不可能な一方通行であること
企業文化を作り直すことができないように、コミュニティも作り直しが困難です。例えばコミュニティの運営プラットフォームの選定はやり直しが効かない意思決定の一つです。一度根付いていしまったプラットフォームから別のプラットフォームに引っ越しを目論見て失敗した話をいくつかお伺いしました。プラットフォーム選びでコミュニティの生死が決まります。例えばフォーラム型のプラットフォームを選ぶかチャット型のプラットフォームか、その選択だけでユーザーエンゲージメントは2〜6倍の差が生じます。*17 コミュニティの目的に沿っていれば良いですが、目的から外れたプラットフォームを選定してしまうと後戻り困難です。しかし右も左もわからないコミュニティ立ち上げ当時、その勘所はわかりません。外部からコミュニティの専門家を招き、何度も壁打ちしていればよかった。と強く思います。コミュニティの専門家にアドバイスを求めましょう。

2.言語化された論理よりも、言語化不可能な想いを大切にすること

これはコミュニティの運営に携わる中で気づいた大きな発見でした。ここまでコミュニティのフレームワークやらさんざん論理的な整理を述べてきたのですが本質的に重要ではありません。コミュニティの運営にとってロジックドリブンに取り組むことは全く本質的でないどころか、時に筋が悪くなるシーンがあります。

例えば「ユーザー継続率を上げる為には?」という論理逆算の議論から生まれたアイデアは筋が悪く、反対にエモーショナルな想いから生まれたアイデアは筋が良い。そんな経験を何度もしました。

「コミュニティをどんな場所にしていきたいか」「どうしたらユーザーさんに喜んでもらえるか」「どんな社会を作っていきたいか」「愛とはなにか」という議論を当時コミュニティマネージャーと何度も重ねました。それこそがコミュニティの本質であったと確信を持って言えます。

なぜ何故ならコミュニティは「複雑な系の問題」だからです。

フレームワークはただの補助線を引く定規、程度に考えて利用するのが良いかもしれません。

注釈および参考文献

*1:ネットワーク分析―何が行為を決定するか (ワードマップ)   安田 雪 
「クラスター・ネットワーク密度」より

*2:人を助けるとはどういうことか――本当の「協力関係」をつくる7つの原則   エドガー・H・シャイン
「成果を上げる外科医チームの特徴」より

*3:withコロナ時代のコミュニティマーケティング考 ver1
「オフラインファースト・トラストファースト」より

*4:The 7P’s of Community — A Simple Framework for Building Belonging
「People: Choose right members and leaders. 」および「Participation: Take your members on a journey.」より

*5:Understanding your Connections graph

*6:Granovetter, M. S. (1973). “The Strength of Weak Ties”

*7:コミュニティ担当者への独自のヒアリング調査より算出。参考までにコミュニティ・オブ・プラクティスによれば、以下のような比率が一般的とのこと

1.イベントを企画し、メンバー一人ひとりと密なコミュニケーションをとることで結び付けていく「コーディネーター」
2.積極的にコミュニティに参加し、コーディネーターを助ける「コア・グループ」(10~15%程度)
3.定期的にコミュニティに参加したり時折参加する「アクティブ・グループ」(15〜20%程度)
4.傍観者に徹し、自分たちなりに多くの学びを得ている「周辺メンバー」(60〜70%程度)
5.メンバーではないがコミュニティに関心を持つ人達「アウトサイダー」

*8:Understanding your Engagement Levels

*9:ファーストピンの見つけ方、育て方
「P.25 1stピン獲得プロセス」より

*10:草の根から熱量を高めて配信者100万人。ミラティブが語る「灯火型」のコミュニティ立ち上げ論と、小さな配信の集合体が「視聴時間の80%」を支えてる話

*11:【佐渡島×石川×箕輪】「1000年続く組織」の共通点

*12:【セミナー】非効率な施策が効率的なゲーム運営に繋がる…グリー・DeNAが明かすコミュニティマーケティングの考え方とその効果とは

*13:The Community Playbook for Founders
「Measuring Community ROI」より

*14:ファンの価値は、どう計測できるのか【コミュニティマーケティングを成功に導く十カ条】

*15:システム思考―複雑な問題の解決技法 (BEST SOLUTION)
ところで海外ではシステムダイナミクスでコミュニティを分析する手法が「Community Based System Dynamics」として体系化されているようです。先進的です。

*16:ネットワーク科学で挑戦するゲームマーケティング改革

*17:Choosing Slack: Our Top Priorities for Opening Uncommon's First Owned Community Channel

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