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9浪濱井さんに思うこと

※忙しい人はタイトルと太字だけ読めば大体OK

 皆さんは濱井正吾さんという方をご存知でしょうか?偏差値40台の高校から9浪して早稲田大学に入ったと自称される教育ライターのような方です.そんな自称9浪の濱井氏は,浪人を回避する方法や教育格差に関する執筆活動など幅広く活躍されているようです.また,現在は東大院を目指して浪人を再開されたとか.そんな彼の姿を見て,勇気づけられた浪人生も少なからずいることでしょう.筆者も濱井氏のことはそれなりに興味を持って見ている部分があるのですが,それと同時に彼の発信する情報を吸収する人に気をつけて欲しいこともいくつかあります
9浪の末に成功している人がいるのだから自分もまだまだ頑張って良い!みたいな思考に陥りそうな方は,ぜひご一読ください.
 ちなみに,彼は9浪などしていませんのでご注意ください.自分の立場を自由に解釈して9浪ブランドを確立しそれで仕事をとってくるという,これまで誰も思いつかなかったような手法を編み出しうまく人生を立ち回っている戦略家なのです.

9浪の実態

現役4大卒の社会人が再受験=9浪?

 9浪濱井さんの経歴であるが,まず現役で大阪の私大に行かれている.つまり,彼は大学に現役合格しているというわけだ.その後,2年で別の大学に編入し,無事に卒業している.卒業後はすぐに就職したようだが,再受験を決めていたようで最初の職場を10日程度で辞め,別の職場に再就職している.その後2年間は働きながら,受験費用が貯まったあとは退職して再受験を繰り返し,27歳で早稲田大学に受かられたとのことだ.つまり,社会人をやりながら勉強して早稲田に入った人,なのである.既に一般的な浪人生活を送っていたという認識が揺らいでいる人もいるだろうが,それでも甘く見て彼は5浪だろう.では濱井氏がどういった計算で9浪という数字を主張するのかという,現役で入った大学と途中で編入し卒業した2つの大学で過ごした4年間を仮面浪人カウントして+4年,トータル9浪だということを言っているようなのだ.それ自体は別に構わないのだが,濱井氏のエピソードを参考にしようとしている浪人生は次の点に注意が必要である.彼はストレートに大学を出た上で改めて早稲田を受験しているという点と,実際には9浪などしていないという点である.

気をつけるポイント

 上記の話を踏まえると,氏の主張を聞くにあたっていくつも気をつけるポイントが出てくる.彼の主張をいくつか拾ってきた:

  • 9浪したことに後悔はない

  • 人生何とかなる

  • 学歴コンプレックスを払拭する上で有名大学合格は効果的

まず,ご本人がよく言われている「9浪して全く後悔していない」が引っかかる.そもそも大学を出た上で働きながら勉強(後に退職)した人であり,高校を卒業してなんの資格もない不安な状態で浪人生活をしている人とは立場がかなり違う.次の「人生何とかなる」も,就職ー経験済みの大卒者の立場で勉強した人のセリフということになる.最後の学歴コンプレックスに関してはご本人の問題なのでとやかく言うこともないかもしれないが,これも既に4大を卒業した一段高いところからの言葉である点には注意が必要だろう.既に4大を卒業した人間がさらに難しい大学を目指すのと,高卒の若者が実力もないのに無茶な受験を続けるのでは状況が違う可能性が高い.その無茶な受験の理由が学歴コンプレックスの払拭で良いのかはよく考えて欲しいものである.
 強調するが,ご本人は非常にうまく自分のブランドイメージを構築されており,見事である.ただ,彼の戦略だということに気づかず浪人することを肯定されていると勘違いした若い人が路頭に迷うのに待ったをかけたいのだ.ちなみに大事なことだが,濱井氏は浪人を肯定しているわけではないとご自身でもおっしゃっている.できるだけ避けた方が良い,俺みたいになるな,的なことのようである.エクスキューズとしては及第点だろう.

濱井さんの言葉を都合よく解釈するのは危険

個人を否定したいわけではなく,聞く方が気をつける問題

 誤解無きよう書くのだが,別に9浪濱井氏のやっていることにケチをつける目的で記事を書いているわけでは「ない」.ただ,彼の意見を目にするであろう若い受験生,浪人生の中には,自分の価値観が定まっていない人も少なくないだろうと思っている.受験生に限らず,若い年代というのは色々な意見を吸収して自分の考え方を決めていくものだ.普通はそれで良いのだが,受験というのはその自分を固めている最中に乗り越える,しかも人生を左右する大きなイベントである.結構大変な試練を若い時に乗り越える必要があるのだ.そんな考え方も決まっていない若者が「9浪してもなんとかなる」のような一部の側面を都合の良いように解釈し,若い間という貴重な時間を失っていくような事態は,できるだけ避けた方が良い,ということが言いたいのである.ただ,情報を啄む(ついばむ)ような聞き方をしていると,そのように解釈してしまうので注意して欲しい.大事なことをまとめておいた:

  • 濱井氏は現役で大学に合格し4年で卒業している

  • 社会人として働きながら勉強し,退職後に早稲田を受験し合格

  • 高卒状態で浪人した年数は0年

  • 社会人状態で勉強した年数は5年,なので甘く見て5浪

  • 本人も避けられるなら浪人を避けるべきと発言している

こんなところである.濱井氏の情報を摂取する受験生諸氏は,浪人生活を長引かせることをまず回避するという心構えを持ってから彼の話を聞いて欲しい.

×:人や環境のせいにする ○:人や環境のせいだと気づく

 濱井氏がよく言われる言葉に「勉強ができないのは環境のせい」というものがある.地元が勉強するとバカにされるような場所だった,社会人時代に通っていた塾の講師の教え方が悪かったとか,聞けば聞くほど気の毒になりそうな話が並ぶ.ただ,若い(若くなくても)受験生の方々に気をつけてほしいこともある.それは,うまくいかない原因を探すことが重要なのであって人や環境のせいにしても仕方ない,ということである.人や環境のせいであるというのは「見つける,気づく」ことなのであって,自分を慰める言い訳に使っても時間が勿体無いということもできるだろうか.とにかく,彼の話はとっ散らかっていてまとまりがない割には,妙に鼻が効き適宜エクスキューズが入るので,もしかしたらこの辺りの話題にも「できない自分が悪い」などと顔を立てているかもしれない.それはそれで良いのだが,この記事を読んでくださっている方には,せっかくなので強調しておきたいと思った次第である.氏の言われる浪人中のセンター数学で6点/100点は,ちょっと人や環境のせいにはできないと思う.厳しいようだが.

偏差値が100を超え得ることを理解しているか

 濱井氏は学力の物差しとしてよく偏差値を持ち出す.確かに重要な概念なのだが,気をつけてほしい部分も当然ある.というのも,偏差値と100点満点のテストの得点率の差がよく分かっていない人が多いように感じるからである.まず,偏差値は普通にマイナスになり得るし100を超え得る.この時点で「そうなの??」と思った人は特に注意して欲しい.偏差値とは平均からの散らばりを表す概念であり,その裏には分布関数というものが仮定されている.例えば偏差値50というのはそのまま平均点ということになるのだが,同時に平均点付近の点数を取る人が最も多いということが仮定されている.そして,50から値が離れるに従ってそこに分布している人数が減っていく.例えば偏差値30と偏差値70はともに50から20ずつ離れているという共通点を持つので,レア度でいえば同じ価値なのだ.ただ,勉強ができない方にレアか賢い方にレアかという違いがあるのである.
 さて,偏差値を理解していない人のよくやる発言に「偏差値が15伸びた!」みたいなものがある.想像がついた人がいるかもしれないが,偏差値の絶対値の変化は,それ単体では意味を持たない.つまり,どこから15伸びたのかまで含めて話さないと,何のことだか情報を持っていないということになるのである.50から15であれば65となるが,30から45だと話が変わってくる.偏差値30というのはほとんどいない=そこに止まっている方が難しいので,勉強しているのに偏差値30を保つ方が数学的には奇妙で珍しいということになるからだ.濱井氏がこの偏差値の差分だけの発言をしているのを何度か見ているので(大好きやん),筆者は氏が偏差値を理解しているのかちょっと疑っている.皆さんも,偏差値というものを何となく使ってしまっているとしたら,話を聞く時には気をつけてほしい.

さいごに

受験というのは,その人の人生を左右する非常に重要なイベントである.現役生なら足並みが揃っているのでまだ良いが,浪人してしまうと若い貴重な時間を1年ずつ失って大学を目指すことになる.そして,その時間は2度と取り戻すことができない.9浪して早稲田に入った,というタイトルにはパンチがあり,ついつい惹きつけられてしまうものである.しかし,かけるものはあなたの貴重な時間なので,話を参考にする際には気をつけてほしい.しかも,9浪を謳う本人は大学に現役合格し4年で卒業し就職している,というカラクリもある.
筆者は2年間宅浪し,京大に合格した.2浪を多浪に入れることは少ないかもしれないが,それでも2年間使ったという事実は残るのである(もちろん後悔はしていないが).働き出しても周りより2つ歳をとっているので,出世のタイミングも自ずと周りより2年早く求められる.それだけ早く成果を出さないといけないという意味であり,准教授に上がるのも結構苦労した.皆さんがどのような人生を計画しておられるかはわからないのだが,受験や浪人というジャンルにおいて,甘言につられて時間を消費することがないように願うものである.

K. HISAKAWA

擁護:お節介な批判はやめなはれ

 濱井氏については上のようなことを思っているわけだが,彼について気の毒に思っていることもあるので,言い訳ではないがその点について追記しておく.

例えば彼は学費などを親に出してもらったそうだ.Xで何か発信しようものならそこに引っ掛けて「働いて親に金返せ」などと暇な人に絡まれていてかなり気の毒なのである.
家の事情を暇な人に叱られるというのは本当に気の毒なので,その辺は優しい目で見てあげてほしい.

※暇な人は更生しないので注意とかしてはいけない

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