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ミュージカル『この世界の片隅に』 水戸公演

『この世界の片隅に』が舞台化、主演は昆夏美・大原櫻子のダブルキャストというニュースを聞き、それだけも観に行くのが確定だが、これが自分の地元で上演されるという。たまらん。しかも全国ツアーなのに3公演もあり、ダブルキャストが両方参加するという贅沢さ。

というわけで7月13日、水戸市民会館へ。昨年夏に稼働したばかりだが、この大ホールのおかげでさまざまな舞台やコンサートが水戸で観られるようになった。物議をかもした山崎まさよしの「きょうは歌いたくない」発言もこの会場である。

ここが完成するまで、水戸市内最大規模のホールは長い間「県民文化センター(ザ・ヒロサワ・シティ会館)」だった。だがこのホールは舞台の奥行や舞台装置の搬入などに難があり、大規模な演劇公演は水戸市ではなくとなりのひたちなか市の「ひたちなか市文化会館」で行われることが多かった。実際、自分が水戸市民会館を訪れた翌日はひたちなか市文化会館で四季の「ジーザス=クライスト・スーパースター(エルサレムバージョン)」が上演されている。2008年の同作全国公演もここだった。実は1980年代に自分は県民文化センターでジーザスを観ているのだが、これはジャポネスクバージョンだった。つまり、大八車なら搬入可能なのである。

ハコもの行政、というのはよく批判にさらされるが、ハコがあればいいコンテンツを招聘できる。ハコを作ること自体は悪いことではない。この市民会館は例のスネークキューブみたいなシンボルタワーでおなじみ、水戸芸術館と隣接している。芸術館には演劇専用のACMシアターがあり、これがあることで良質の芝居に身近に接することができるようになった。大型のミュージカル公演も可能になったことで、水戸市の演劇キャパシティはさらに向上したと言える。何より俺が嬉しい。これほどの公演を歩いて観に行けるのだ。

そんなことを思いつつ市民会館へ。ダブルキャストが両方来ているので迷ったが、昆夏美・平野綾のエポニーヌコンビを観ることに。大原櫻子と桜井玲香のさくらコンビも実に捨てがたいところではあるが。海宝直人も観たかったし。

昆夏美を水戸で観るのは2020年の『星の王子様』以来である。

いつもながらの澄んだ、伸びのある、そして力強い歌声。そして本人もインタビューで「日本人を演じるのが久しぶり」と笑っていたが、彼女にしては珍しい「いたって普通の人」の役。しかしまわりの人がつい手をさしのべたくなる、キュートなすずさんに仕上がっていた。

平野綾を舞台で観るのも久しぶりだが、最近は声優というより舞台女優のイメージが強くなってきた。そのキャリアの積み重ねの成果だろう、妖艶さとやさしさを併せ持つリンの姿を、光と陰の輪郭を際立たせる演技で好演していた。

作品全体としては、もっとコンパクトな作品を予想していたのだが、舞台装置も大がかりで、生演奏もあり、なかなかのスケールである。

映画のように時系列を改変した導入部や、原作の漫画を生かしたプロジェクション演出、アンジェラ・アキによる繊細な音楽など、アグレッシブな要素が組み込まれた情報量の多い作品だ。自分の感性では、ちょっと消化しきれなかったところもある。

こうの史代による作品では、自分は『夕凪の街 桜の国』が大好きで、映画も何度も観ている。その流れで『この世界の片隅に』も読み、アニメ化された作品は「さらにいくつもの」も含めてこれも何度も観た。

そういう意味では、ちょっと原作の情報が頭の中に入りすぎて、素直にこの舞台の情報量を受け止めきれなかったのかもしれない。一度頭の中をリセットして、もう一度観劇してみたいと思った。

水戸市民会館の1階にはセイコーマートがあるので、幕間のおやつはこうなります

ミュージカル『この世界の片隅に』公式サイト


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