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坊っちゃん劇場「ジョンマイラブ」 久々に劇場で泣く

何か月ぶりか分からない、劇場での観劇。愛媛の「坊っちゃん劇場」へやってきた。

坊っちゃん劇場は2012年の『幕末ガール』以来。あのときは劇団四季の『マンマ・ミーア!』のソフィやリサでキレッキレのダンスを見せていた五十嵐可絵ちゃんが主演ということで足を運んだのだった。

その時のブログ
http://kingdom.cocolog-nifty.com/dokimemo/2012/11/post-0c46.html

今回の作品は『ジョンマイラブ』。ジョン万次郎の妻・鉄を主役にした物語だ。作・演出は『幕末ガール』と同じ横内謙介。その信任が厚いのだろう、五十嵐可絵もキャスティングされた。主演はAKB48 チーム8のメンバーがローテーションで演じる。そういえば横内謙介は、明治座・博多座のHKT48指原莉乃座長公演を手掛けていた。何となくこれは俺が観なくてはいけない作品のような気がした。

しかし、なかなか愛媛に行くタイミングが掴めず、そのうちに五十嵐可絵は抜けてしまった。とはいえ、観劇できない期間も続き、もろもろストレスが溜まっていたので、温泉旅行を兼ねて行ってみようじゃないか、とチケット確保。主演はチーム8埼玉代表の高橋彩音ちゃんの日を選んだ。チーム8の中では小栗有以や地元茨城代表の岡部麟と並んで好きなメンバー。3人とも舞台版『マジムリ学園』で観ている。

そんなわけで10年ぶりの坊っちゃん劇場。松山中心部から遠いのが難点だが、伊予鉄で行けば20~30分で最寄り駅に付き、そこから徒歩で10分足らずなので、時間的にはそれほどでもない。タイミングが合えばシャトルバスもある。

『ジョンマイラブ』は、ジョン万次郎が漂流・米国生活から帰国して、咸臨丸で再びアメリカへ赴くまでの期間を中心に、その妻・鉄との出会いと心の交流を暖かいタッチで描きつつ、歴史の激流と社会に深く根差す差別などの問題を浮かび上がらせた作品。鉄も万次郎も、そして万次郎に学ぶ若者たちも、見守る大人たちも、みな前向きで明るい、観ていて気持ちのいい青春群像劇となっている。

ジョン万次郎の波乱の生涯の中では、ある意味もっとも非・劇的な期間にスポットを当てているのは逆に実に演劇的とも言える。その脚本も見事だし、ケレン味あふれる数々のミュージカルシーンは掛け値なしに楽しい。役者たちの演技もそれぞれ実力と個性を発揮していて、「演劇を観ている」幸福感に包まれる。そして高橋彩音がホントに可愛い。鉄が可愛ければ可愛いほど、この作品への愛着が増幅される。ラストシーン、何年かぶりに劇場で涙を流した。そして翌日、帰宅してから配信を観てしまった。そのぐらい魅力的な一作である。

それにしても坊っちゃん劇場という取り組みは本当に素晴らしいプロジェクトだ。四国・瀬戸内にちなんだ物語をオリジナルのミュージカルとして毎年創り出し、ロングラン公演を続ける、そんな無茶なことを15年も続けている。他の地域でも「ハコものだけでなくコンテンツも」という掛け声で様々な試みが行われているが、成功確率は極めて低い。

坊っちゃん劇場の成功要因は多数あるだろうが、作品のクオリティーが高い、ということはやはり大きいのではないか。地域おこしだから品質は二の次、といった妥協はそこにはない(その妥協が常に悪いものだと言うつもりはない)。だからこそ地元の固定ファンも育つし、安心して県外、遠方からも足を運ぶことができる。

自分はだいぶ前から、その地域ならではのエンターテイメント、ローカルエンターテイメントに強く心惹かれている。演劇に限らず、ご当地プロレスやご当地アイドル、いわゆる聖地巡礼と連携したイベントや、個人的にはB級ご当地グルメもエンターテイメントだと認識している。

ライブ型のエンターテイメントは、ライブである以上本質的にその「場」の空気が反映されるものだと思う。『キャッツ』や『ライオンキング』が上演する土地によって舞台装置やセリフ回しを変えるのは、単なる地元サービス以上の意味があると自分は考えている。

地域おこしのための取り組み、というと、エンターテイメントの力を借りて地域を振興する、という発想になりがちだ。それは間違いではないけれど、地域の力を借りて完成するエンターテイメントもあるのだ。そうして創り出された熱量の高いエンターテイメントこそ、結果的に地域をおこすまでの力を持ちうるのではないか。

しかしローカルエンターテイメントは、なかなか持続しない。自分が好きだった沖縄プロレスはだいぶ前に終了してしまったし、ご当地アイドルは一時期在京キー局がこぞってイベントを主催するぐらい盛り上がっていたが、この数年でだいぶ減ってしまった。

そこにコロナ禍である。坊っちゃん劇場の創設にかかわったわらび座が民事再生を目指すことになったのは象徴的だ。逆風は尋常ではないが、坊っちゃん劇場はローカルエンターテイメントの希望であり未来である。自分ももっと観に行こう。

と言っている間に、五十嵐可絵ちゃんの「ジョンマイラブ」復帰が発表された。女中さんの役、と聞いていたが、実はこのおクニという役はかなり動きのある役だ。そうなれば、彼女のリサやソフィを知るものとしては観に行かねばならんだろう。命をかけて漂流中~

坊っちゃん劇場のウェブサイト

http://www.botchan.co.jp/


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