『Funny Girl』(ファニーガール) これが女優の生きる道
12/28 14:00
August Wilson Theatre
【ニューヨーク2022④】
ラミン・カリムルーが出演しているということで、本作はこの年末に観る作品として早くから候補に挙がっていた。そこに、主役をリア・ミシェルが演じるというニュース。これで候補作から一気に当確へ。もたもたしていたらどんどんチケットが売れていく。慌てて手配し、1階席の最後列の端の席をようやく確保できた。
押しも押されぬブロードウェイの看板役者であるラミン・カリムルーは、日本にもひんぱんに来てくれて、コンサートだけでなく『エビータ』『チェス』などミュージカル公演にも出演してくれる有難い存在だ。その度に足を運んでいるのに、実はブロードウェイで観たことがなかった。
2014年の年末、彼が『レ・ミゼラブル』でバルジャンを演じるというので足を運んだのだが、念のため2回もチケットを抑えていたにもかかわらず両方ともスタンバイの出演だった。とはいえそのスタンバイもアーロン・ウォルポールだったから豪勢な話だ。ちなみにこの2人は2019年に東京で行われた『ジーザス・クライスト=スーパースター』コンサートで共演している。
そのラミン・カリムルーの雄姿をようやくブロードウェイで目にすることができるのだ。
そこに加えてリア・ミシェルの登板。ご存じ『glee』のレイチェル役だ。同作にはイディナ・メンゼルやクリスティン・チェノウェスら多くのブロードウェイ・スターが出演しているが、リア自身も『春のめざめ』などに出演経験のあるれっきとした舞台女優。そのリア・ミシェルがついにブロードウェイに凱旋だ。
わくわくしながらAugust Wilson Theatreへ。奇しくも2014年にラミンのバルジャンに逃げられ、それならば、と『ジャージー・ボーイズ』を観に来た劇場だ。
そんな記憶もあるので少しドキドキだったが、幸いラミン・カリムルーもリア・ミシェルも予定どおり出演でほっとした。
チケットの売れ行きから予想はできていたが、彼女が舞台に登場すると割れんばかりの大喝さい。前日のヒュー・ジャックマンや、2014年に観た『if/then』のイディナ・メンゼルに匹敵する熱狂ぶりだ。彼女自身の人気もあるが『glee』という作品がいまだアメリカ人の心をとらえて離さないことがよく分かる。
さて『ファニーガール』という作品はもともと1964年ブロードウェイ初演のミュージカルで、実在の女優ファニー・ブライスの半生を描いている。喜劇を武器にスターに駆け上がっていくサクセスストーリーと、ギャンブラーにして実業家のニック・アーンスティンとのほろ苦いラブストーリーが展開する。
1968年に映画にもなっているので、予習としてそれを観てから臨んだが、比較的分かりやすい物語なので英語が苦手でもあまり苦にならない。
ちょっと怪しげなところもある洒落男のニックを、余裕綽々で楽しそうに演じるラミン・カリムルー。一方、全力の体当たり演技で臨むリア・ミシェル。対照的な二人の演技を見ているうちに、どんどん舞台に引き込まれていく。
見せ場は何といってもラストシーンだ。数年ぶりに再会する2人が今後の関係にどう結論を出すのか。そしてそのあとにファニー・ブライスが切々と歌うナンバーが心を打つ。これまでの舞台人生とニックとの思い出を振り返りながら、新たな一歩を踏み出そうとする主人公の決意がひしひしと伝わってくる。
その姿に、リア・ミシェル自身の運命が重なる。
『glee』での成功後、華やかなスター街道を進むと思われていたが、交際していたgleeのフィン役・コリー・モンティスが急死。そしてシリーズ終了後は複数の共演者たちから人種差別的な行動があった、と告発され窮地に立たされることになる。
しかし彼女の帰還を舞台ファンたちは喝さいをもって受け入れた。自分はやはり舞台で生きていこう、と歌い上げるラストナンバーは、そのまま彼女自身の気持ちに思えて胸に迫るものがある。
この時期、この役者でなければ得られない感動を体験できた、貴重な観劇となった。これもニューヨークに足を運ぶ醍醐味だ。
『Funny Girl』公式サイト