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『アリージャンス~忠誠~』 多様性とは強くあること

待望の「アリージャンス」日本公演を観てきた。自分にとっても特別な思いのある作品だ。

今回の日本公演ではあまりその名がクレジットされていないが(契約の関係か?)、この作品は「スター・トレック」のスールー(日本ではミスター・カトーといったほうが馴染み深い)役で有名なジョージ・タケイが執念で実現させたものだ。自らの体験である、太平洋戦争時の日系人強制収容の歴史を、ミュージカルとして世に届けたいというその思いに、ブロードウェイの大スターであるレア・サロンガも呼応し、準備が進んでいるというニュースが伝わったときからぜひ観たいものだと心待ちにしていた。2015年、ついにブロードウェイで開幕。いそいそとニューヨークへ足を運んだ。

気合が入りすぎて、最前列を確保してしまった。間近で聴くレア・サロンガの圧倒的な歌声、そしてひょうひょうとしながらも強烈なオーラを放つジョージ・タケイ。いやあ、これぞブロードウェイ。エンターテインメントの粋がそこにある。

客席を見渡すと、他の演目に比べアジア系の観客が多い。そして、ジョージ・タケイがゲイであることを公言し、LGBTのオピニオンリーダーとなっていることからか、男性客が多いように感じた。

約3カ月という短い公演だったこともあり、これを目撃できたことはミュージカル好きとしては自分にとって自慢のひとつでもある。

そしてその映像を映画館で上映するイベントがあったのが2017年の11月。当然参加した。撮影OKだったのでそのときの動画をちょっと紹介。

正直、現地で観たときは英語がよくわからない点も多かったので、ここでおさらい。この作品をより深く理解することができた。

そしてそして、そのDVDが2020年に発売される。当初はさまざまなオマケのついたDVD-BOX仕様のみだったが、これもすぐに予約。ちょうどコロナ禍が始まっており、出荷も遅れがちだったがぶじアメリカから届いた。

これをステイホーム期間中、何度も見返して、そして今年の日本公演に至る。以上が「わたしとアリージャンス」の作文だ。

今回の日本公演のみどころは、何といっても濱田めぐみにつきる(他の俳優のファンの皆様すみません)。あのレア・サロンガのポジションを日本でこなせるのは、これはもうめぐ様しかいないわけで。

納得のキャスティングで、その期待にきちんと応えてくれるのだから、さすがはめぐ様というしかない。ソロナンバーは震えが来るほど体中に響いた。

作品的には、多少演出の変更はあるものの、基本オリジナルのまま。だから作品のテーマについては、これまで舞台やDVDで感じてきたものとさほど変わるものではない。

この作品にとって、日本人強制収容所の歴史を伝えることは重要な意義のひとつだ。それは「日本人の苦難」というよりも、「アメリカが公然と差別を行った恥ずべき歴史」として描かれている。

しかし作品のテーマは、そうした現実の歴史を踏まえたうえで、その先にある。それをあえて一般的な言葉で言えば「多様性」だ。

多様性、ダイバーシティというのは、いわゆるリベラル派の旗印のようになっているが、そこには様々な意味が含まれており、必ずしもリベラルだ保守だ左だ右だといったカテゴライズに収まるものではない。

少なくとも、この作品に登場する人物たちが体現する多様性とは、

・自らの意思によって価値を判断し、生きる道を選ぶ

・自らと異なる存在(考え方を含む)を認め、受け入れる

という2点に集約される。

多様性を重んじることは、別に国家や民族を否定しようというのではない。「自ら決め、自ら生きる」という姿勢の前では、国籍や主義・主張といったものは相対化されてしまうだけの話だ。

だがこれは決して容易な道ではない。だからこの舞台に登場する人たちはみな苦しむ。苦しみながらも、凛々しく、力強く生きることで、長い年月をかけて幸せをつかみ、苦悩から解放されていく。

多様性、というと、何となくまったりとした、理想主義的な考え方というイメージを持つ人も多いかもしれない。実際は違う。むしろ自ら価値判断をしない世界のほうが、ユートピアに近い。多様性とは、他者を認めながら他者に依存せず、自らの強い意志によって生きる道のことだ。そこには大いなる困難がつきまとう。

ジョージ・タケイの生きざまは、まさにそれを体現している。この作品には、彼の生きる姿勢がにじみ出ている。「アリージャンス」という作品に興味を持ったら、ぜひ彼のtwitterをフォローしてみてほしい。今なおその生きる姿勢を貫くために、抗い、戦い続ける彼の姿を見ることができる。

いま、アメリカではアジア系住民に対するヘイトクライムが公然と行われ、大きな問題となっている。それを否定するコメントを多くの舞台関係者やプロダクションが公表している。そうした中でこの「アリージャンス」という、あらゆる差別を否定し、強く生きようとした人々の物語が日本で上演されていることに思いをめぐらせたい。

アリージャンス~忠誠~ 公式サイト

https://horipro-stage.jp/stage/allegiance2021/

ジョージ・タケイ氏のtwitter



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