けん玉の今と未来を語ろう
まず少しだけ私の自己紹介を。
日頃からけん玉を楽しみ、その魅力と楽しさを伝えるべく、ささやかながら活動をしている者です。
44歳でけん玉の潜在的な魅力にとりつかれ、けん玉に関わる資格やライセンスを片っ端から取得(※1)。茨城県を中心に関東近県で10代~高齢者向けのけん玉指導、リクリエーション利用、各種イベントブースでの体験会などをやらせていただいています。昨年末と一昨年末にはNHK紅白歌合戦での生放送中のけん玉ギネスチャレンジ(※2)にて、ギネス世界記録審査員としてお手伝いをさせていただきました。
そんな活動の中で、けん玉について知ってほしいことが年々増え、これを書き始めるに至りました。読んでいただけるかは別として、本当にけん玉についての誤解が多い現状に、いてもたってもいられない気持ちで筆を取った次第です。
私の文章中には団体名やメーカー名が出てきますが、あくまで私個人の知識の範疇のもので、評論については多分に私感も含みます。齟齬もあろうかと思いますがご容赦願います。
参考文献は後述しますが、明らかな誤りについてはコメントいただければ幸いです。
まず今回は、国内では子供の玩具として認知されているけん玉が、世界に広がった理由について、近年のけん玉事情も含めてご紹介したいと思います。一般的に知られている事情と少し視点が違うと思いますので、その辺も気にして読んでいただければ。
1.「子供の玩具」という呪縛
2.きっかけはYoutube
3.Youtubeで逆輸入
4.目指すのは「ジョギング」
1.「子供の玩具」という呪縛
アメリカを中心に世界各地にメーカーが点在し、スキルトイとして広まりつつある「けん玉」ですが、そうなったルーツをたどると、外国人プロスキーヤーが日本でけん玉を手にしたことがきっかけだそうです。
当時のけん玉は、日本けん玉協会(※3)が「公認けん玉」として認定しているかたちの物(16-2型)が競技用としては主流で、彼もそれを手にしたようです。現在も「協会認定けん玉」は量販店などで多く流通しています。
その認定けん玉を制定し、けん玉協会を設立した初代会長藤原一生さんは1970年代からジャージ姿で全国各地に赴き、けん玉教室や大会に臨み、率先してメディアに登場することで、けん玉に「スポーツ」という概念を加え、世界に広めようという意図がありました。長寿番組としてギネス記録を持つ「徹子の部屋」にも出演し、けん玉のスポーツ化について触れられています。
しかし、当時は昭和50年代。
昔ながらの子供向け玩具というイメージに引っ張られ、メディアには子供向けの大会やイベントに注目が集まり、当時、本当に伝えたい付加価値が世間に十分広まったとは言えない状況でした。
特にけん玉のスポーツとしての認知度は、残念ながら、今も無いに等しい状態だと思っています。そこが未来のけん玉を占うカギだと思っています。
2.きっかけはYoutube
日本けん玉協会は設立以来、スポーツ化と世界普及を推進すべく、アジアの国々にもけん玉指導をしていた過去があります。しかし、近年の世界への広がりを牽引したのはYoutubeでした。
まず、前述したプロスキーヤーのビデオに、付録としてけん玉を興じる姿が映し出され、アメリカに存在を伝えたけん玉は
①日本好きの若者が興味を持つ→ネットやSNSを通じてけん玉を入手
②Youtubeで日本の技を知る
③単発系の技に物足りなくなり、連続技や日本には無い高度な技が生まれる
④SNSを通じて知った者の中にビジネスチャンスを見いだす者が現れる
⑤アメリカにけん玉メーカー誕生。宣伝用に動画が配信される。
という流れで瞬く間にアメリカ国内に広がりを見せました。
Kendama USA Japan Tour 2012
これが2008年頃から2013年頃までにおこり、KENDAMAとして世界に広まるきっかけとなりました。
3.逆輸入も動画から
アメリカではスケートボードなどのストリートカルチャーと親和性が良かったようで、青年から大人向けのクールなスキルトイとして伝わりました。
日本国内で生産終了したけん玉に注目が集まり、国外からの購入で価格が高騰したり、Instagramへのけん玉投稿が増え、フォロワー間の交流が始まったりしたのもこの頃です。
当時、日本でもYoutubeやInstagramの利用者は激増していましたから、その動画は驚きと共に迎えられました。
驚く人はもとより、やってみたいと感じた一部の日本人は、新たに動画投稿の輪の中へ入っていきました。
かく言う私も、このタイミングでけん玉をはじめています。
動画を見た時の驚き、そして、その動画でけん玉をしている人に偶然出会い、技の披露を見た時の、雷に打たれたような衝撃は忘れられません。
当時、けん玉はオモチャだと思っていたのは私も同じでした。
子供のオモチャで大人向けの動画を作り、それが最高にカッコイイなんて、想像を完全に超えていました。
日本人のけん玉の概念を覆し、身体能力だけでなく想像力やスタイルも追求できる、新・けん玉とも言うべき自由さを私は感じました。
4.めざすのは「ジョギング」
当時の逆輸入の追い風は日本国内にもブームの兆しを生み、BANDAIがプラスチック製けん玉「ケンダマクロス(※4)」を発売するなど、けん玉をめぐる動きは目まぐるしく変化していきました。
2014年にはグローバルけん玉ネットワーク(※5以下GLOKEN)主催による、逆輸入の流れに沿った、過去のルールにこだわらない国際大会であるけん玉ワールドカップが開催され、いよいよスポーツ化も現実に、と期待されました。
しかし、現実には未だに国内では「子供の玩具」です。
前述のワールドカップは毎年開催され、けん玉の大会としては異例の参加及び観客動員を続けている(コロナ禍の今年は除く)にもかかわらずです。
なぜだか私もわかりません。でも思いあたるところはあります、
年齢制限の無いけん玉の大会では日本けん玉協会主催大会も、GLOKEN主催のワールドカップも、小学校高学年から中高生までの年齢が、トップアスリートです。他の年齢層を寄せ付けません。
WoodOne Kendama World Cup Hatsukaichi 2018 - GLOKEN - ウッドワンけん玉ワールドカップ廿日市2018
これについては様々な要因が考察されますが、長くなりますので今回は述べません。
結果的に大会の内容や、結果を報じるときの主役は若年層、つまり子供と言うことになります。マスコミに報じられるのは「子供=けん玉」としての内容が多く、これがけん玉=子供向けのイメージが抜けない要因かも知れません。
実際は高齢者でもけん玉はとても楽しく、運動やレクリエーションとして健康的に楽しめます。中年の私にも同様です。
けん玉は競技としてはフィギュアスケートに似ているといわれています。それならば、スポーツとしてのけん玉はジョギングと言えないでしょうか。
ジョギングも競技になればマラソンや駅伝がそれにあたるでしょう。
誰もがトップアスリートを目指すわけではありません。けん玉も同様です。
実はこれはGLOKENの代表窪田保さんの言葉です。けん玉ワールドカップは「マラソン」であり、大衆スポーツとしてのけん玉は「ジョギング」。
競技として大会が存在するものの、それが全てでは無く、楽しむことが最初にある。スポーツとは本来そういうものであり、それを忘れてはいけない気がします。
やっぱり、けん玉もスポーツなのです。
※1 けん玉の取得資格等
日本けん玉協会認定けん玉道六段(2級指導員)、GLOKENけん玉検定エキスパート1級(けん玉先生※指導資格)
※2 NHK紅白歌合戦けん玉ギネスチャレンジ
演歌歌手三山ひろしさんの歌唱中に、ステージ上で124人が順にけん玉の「大皿」を成功させるというもの。厳格に目視ならびにカメラによる審査を実施。
2017年124人中1名失敗で記録達成ならず。
2018年124人全員成功で記録達成。
2019年125人中1名失敗で記録達成ならず。
※3 日本けん玉協会
正式には公益社団法人日本けん玉協会。
1975年設立。初代会長は児童文学作家で「タロ・ジロは生きていた」の著者、藤原一生さん。
「けん玉道」という理念のもと、けん玉道の級段位認定、各種大会の運営、認定けん玉の制定監修、各県支部等の運営援助を実施。
大会で使用できるけん玉は前述の認定けん玉のみとしている(フリースタイル大会等を除く)。
※4 ケンダマクロス
通称KDX。2014年に発売したポリカーボネート材を使用したプラスチックけん玉。幼い子供にもやりやすくするため、大型の皿や巨大な穴、ドラゴンなどの柄などが特徴。現在BANDAIから発売中の「ラクラクけんだま」にその技術と経験が生かされている。
※5 グローバルけん玉ネットワーク(GLOKEN)
2012年設立。代表理事は窪田保さん。国際的なけん玉の普及、けん玉の世界大会「けん玉ワールドカップ」の運営、けん玉検定、けん玉先生(指導資格)の発行等を行っている。
尚、けん玉ワールドカップに使用可能なけん玉はサイズは定められているものの、加工やメーカーに指定は無く、協会認定けん玉に比べて各部が大きく、より技を成功させやすい形状のものを使用する選手が多い。
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