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#11「方舟」読んだ *ネタバレ有り

先月に文庫本が発売され、今注目のミステリー小説「方舟」を読んだ。
一言で言うと「してやられた」と言う感想だった。
ネタバレ有りで感想を書いていくので、読まれる方は自己責任でお願いします。普段からミステリー小説を読むと言う訳ではないので、稚拙な考察や推理になってしまっているのはご容赦ください。
とても面白く、あまりにも作者にしてやられたので感想を記していきたい。

「方舟」は週刊文春ミステリーベスト10とMRC大賞2022を受賞した夕木春央著のミステリー小説。あらすじは以下。

9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?

大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。

タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000369228

率直な感想

まずはとても面白かった。
エピローグでのどんでん返しが衝撃的かつ、犯人の動機が余にも人間の本質過ぎて納得するしか無かった。更にはどんでん返しも読み返すと丁寧に伏線は貼られており無理矢理感も微塵も感じなかった。

自分の命とその他の命、どっちが大事かと聞かれれば多くの人はの命と答えるだろう。更に犯罪の証拠が外に漏れる事もないという状況であれば麻衣の様に友人に手をかけ、自分が助かる道を選ぶのは至極当たり前の様に思えた。そこに深い因縁などはいらないのだ。「生きたい」この理由だけで方舟での殺人の動機は成立してしまう。

作者に「してやられた」

作者にしてやられたと思った点は2点ある。
1つ目のは犯人の動機だ。私は最後まで犯人が分からなかった。正確には麻衣なのだろうと薄々思っていたが、殺人の動機が分からず確信を持つことができなかった。だが動機は誰もが当たり前に持つ「生きたい」という理由だけであった。
「方舟という舞台を犯人は殺人の場所に選んだ」という推察が根底から間違えていた。なぜ、私がこの推理に囚われてしまっていたのか考えると、物語の序盤に方舟と名付けた施設に関しての様々な考察(新興宗教や過激派のアジト)や拷問部屋の存在から、私の深層に「殺人に適した場所」という認識が刷り込まれていた。
今、思い返すと作者の思う壺としか思えない笑

二つ目の「してやられた」

二つ目の「してやられた」は「監視映像が入れ替わっている」事だ。
最初のふたり「裕也」と「さやか」の殺害に関しては方舟の写真を持っている事が理由だと推察出来たが、なぜその写真が殺人の動機になりうるのかが分からなかった。
ここは正直悔しい。裕也が送ったとされる写真を思い出す描写を読み返すと明確に、「出入り口と非常口などの写真」とさやかは言っている。
出入り口と非常口を見られたく無い→監視映像に何か怪しい点がある。
という推理は普通に成立する。更には閉じ込められている皆は交代で外の監視映像を見に行っている事を丁寧に描写されているのだ。

ここまで丁寧に幾つもの伏線が張られながら、犯人の本当の動機に気づく事ができなかったのは、私が自分でも気付かぬうちに「フーダニット」から「ホワイダニット」になってしまっていた点である。
麻衣からすると、自分が生きるためには殺人をするしか無かったのであり、ホワイダニットは「生きたい」である。
人間誰しも当たり前に持つ本能でありあの極限状態なら仕方のない事とも言える。

最後に

それなのに私は「方舟」という舞台装置からこの場所を選んだ様に感じてしまった。もしくはこの混乱に乗じて憎い相手を殺そうとしたのかとも考えてしまった。今考えると方舟ができた理由や拷問部屋は全てミスリードであり、殺人には何も関係がないのだ。
私自身、更には登場人物たちもこの方舟に踊らされてしまったのかもしれない。

つらつら書いてきたが、結論私は作者の手のひらで転がされていたのである!

自分なら麻衣と同じ行動を取るのか、私は頭ではこれが一番合理的だと分かっていても実行できる自信はない。もし1人目を殺せたとしても平静でいられる自信もない。でもやっぱり死にたくないからやるかもしれないど堂々巡りになってしまっている。
作品を読まれた皆さんはどうでしょうか?

という様に誰かと話したくなる。(それもあって記事にしたのもある、、)更には麻衣視点で2週目も読みたくなる作品であり、とても面白かった。
是非、一度読まれた方も2週目、3週目と読んでみてほしい。

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