ゴリラ
ゴリラ。
ゴリラ。ゴリラ。
目の前を埋め尽くす、ゴリラ。
窓の外には神田川。
神田川を埋め尽くすゴリラ。
一団となって、水しぶきを上げながらこちらへと凄まじい勢いでやってくるゴリラ。
雄なのか雌なのかもわからない。
ただ、ひたすらに轟音をたてながら凄まじいパワーで大軍で押し寄せる。
あの一番前にある、アレはなんだ。
馬か。
いや、馬ではない。
羽が生えている。
ペガサスという奴なのだろうか。
いや、角も生えている。
ユニコーンという奴なのだろうか。
なんという生き物なのかがわからない。しかし、今まで僕が見たことのない生き物だということだけはわかる。
その、ユニコーン・ペガサスは背中にゴリラを乗っけている。
純銀の鎧をつけた、おそらくメスゴリラ。
まるで神からの託宣を受けたジャンヌ・ダルクのような神々しさ。
ゴリラ。
ゴリラ、ゴリラ。
彼らは一体どこへ向かうのだろうか。
水しぶきをあげて、轟音を響かせて。
きっと、奥底に凄まじい怒りを内包させている。
その怒りの意味を僕は知らない。
はっと僕は目を覚ました。
ゴリラなんていなかった。目を覚ました先、いつもの僕の部屋。
窓の外には神田川。
隣には彼女が寝ていて、僕が慌てて起き上がったせいでむにゃむにゃと目を覚ましたようだった。
「どうしたのよう…」と眠たげな彼女を横目に僕はコーヒーを準備する。コポコポと鳴るコーヒーメーカーの音はあまりにも静かであまりにもいつも通りだ。
コーヒーを二人分入れて彼女のもとへ持っていった。
そして、僕は夢のことを彼女に話す。
「ふうん」
と彼女は言った。
「馬鹿みたい」
そう言った。
ああ、たしかに自分でも馬鹿みたいな夢だと思っている。まるで現実的ではない馬鹿な夢だ。
でもそう言われてしまうのはなんとなく腹が立つ。
僕はふと彼女の顔を見上げた。
そして気付く。
彼女はあのユニコーン・ペガサスに乗っていたゴリラによく似ている。