米国株マーケット考察 2021.2.27

マーケットサマリー

米国株式相場はまちまち。ダウ工業株30種平均は前日終値比469.64ドル安の3万0932.37ドルで、ナスダック総合指数は72.91ポイント高の1万3192.34で終了しました。ニューヨーク証券取引所の出来高は前日比4億2261万株増の17億5217万株。

前日の株式相場は、景気の早期回復への期待を背景にした長期金利が1.61%までの急上昇を嫌気し、割高感のあるハイテク株を中心に大きく売られました。

昨日は、長期金利の上昇には一服感がみられたものの、1.4%台前半から1.5%台前半の高い水準で大きく変動してました。ダウ平均は一時プラス圏に浮上した一方、約490ドル下落した場面もあり、神経質な展開となりました。

連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ指標の一つとして注目する個人消費支出(PCE)物価統計を発表しました。1月の個人消費支出(季節調整済み)は前月比2.4%増(市場予想:2.5%増)と、2020年6月以来、7カ月ぶりの大幅な伸びとなり、3カ月ぶりのプラスでした。

金融当局が公式にインフレ目標の基準としているPCE価格指数(変動の大きい食料品とエネルギーを除くコア指数)は、前年比で1.5%上昇。ほぼ1年ぶりの高い伸びとなりました。個人消費増加は今後の金利上昇を示唆する指標とも解釈できます。

ここ最近、ダウは長期金利上昇局面でも景気回復期待感に反応し株価は強含んでましたが、前日と昨日は金利上昇を背景に市場では嫌気売りが出ました。ハイテク株は、前日大きく下げた反動で押し目買いのオーダーが入り、買いが先行し相場を支えました。

米国株式市場を月ベースで見ますと、ダウ平均は+3.2%、S&Pは+2.6%、ナスダックは+0.9%という結果になりました。

来月も引き続き、長期金利動向が株式相場にどのような影響を与えるのかが焦点となります。

残念ながら、FRBパウエル議長やイエレン財務長官の発言だけで相場を安定させるのは当然の如く不可能です。

ワクチン絡みのニュースは今後も相場にポジティブなニュースとして報道されてくることが予測できますし、 GDP(経済成長率)はかなり大きめの数字の発表が予想されます。実際にGDPNowは本年第1・四半期のGDPを8.8%と予想しています。

この状況を打開するには、FRBが平均インフレ率目標からイールドカーブコントロールへ政策変更することではないかと思いますが、果たしてFRBが柔軟的な対応をするのかは今の所、不明です。

用語解説


#PCE 価格指数 (PCEデフレーター)ー商務省経済分析局が発表する、個人の消費支出の変動分のうち、物価変動によるものを除くための指数。名目個人消費支出をPCEデフレータで割ることで実質個人消費支出が算出されます。この指数は2009年の基準に基づいてベンチマークされています。

PCE指数の伸びは、通常、商品やサービスの価格の上昇に伴うため、この指数は米国のインフレ率の測定値に含まれています。

PCEは、あと1つの米国消費者物価指数CPIよりも、米国連邦準備制度理事会に好んで経済状況分析に利用されます。

これは、PCEの計算式では、消費者行動の短期的な変化の影響を考慮に入れ、品目を調整することができるのに対し、CPI計算での消費者品目及びその要素の加重は、2年ごとにのみ改訂されるからです。したがって、PCEはより完全にインフレを測定します。

指数の伸びは、米ドル相場にプラスの影響を与えることがあります。

米国のインフレターゲットの対象として利用され、年8回のFOMCのうち半分の4回で示されるFOMC参加メンバーによる経済見通し(プロジェクション)の際に、物価見通しの対象となっています。

変動の激しい食品とエネルギーを除いた数字をコアPCEデフレータとして同時に発表され、FOMCメンバーによる物価見通しでは、両方の数字が示されます。

一般的に重要視されるCPIに比べて、調査対象となる範囲が広いです。また、CPIが消費者調査によるデータを基にしているのに対して、PCE価格指数は企業調査によるデータを基に算出されます。

短期間に生じた消費行動の変化について、CPIでは調整が行われないですが、PCE価格指数は代替品などによる行動変化を調整します。雇用者や政府などが消費者のために支出した金額の変化について、CPIは対象としないですが、PCE価格指数は対象に含んでいます(医療費の政府支出分など)。

対象の広さ、算出式の違いなどから、CPIに比べて発表が遅くなります。また、水準はCPIのほうが高くなることがほとんどです。

毎月の個人支出・個人所得などと同時に月次データが発表されるほか、四半期GDP発表時に四半期ベースのデータが発表されます。

アトランタ連銀が公表しているGDPの予測ツールです。

#GDPNow ーGDPに関連するISM製造業景況指数、小売売上高、耐久消費財、個人所得・支出、国際貿易統計、住宅着工件数の6種類のデータが公表される度に速報値(予測値)が公表されます。

GDPは米商務省経済分析局が計測している指数で、FOMCにおいて経済予測に使われる4つの指標の1つです。

GDPは遅行指標で事実を確認するのにはいいのですが、これから先のことを考える上ではタイミングが遅く、4半期に1度しか発表されないということもあるため、GDPに影響を及ぼす経済指標などを用いてリアルタイムにGDPを予想するモデルを作って
アトランタ連銀がGDP Nowとして公表しています。

#平均インフレ率目標 ー「平均インフレ率目標」は、完全雇用と物価の安定性という議会からFRBへのデュアルマンデート(2つの使命)の観点から見ても適切な政策と言えます。

FRBが物価の安定性を維持しようとする場合、どの目標水準が安定的かを特定しなければならないことは明白だからです。

但し、米国は現在ゼロ金利制約に近い金利環境にありますから、景気を刺激するための金利の一段の低下が不可能である環境に居ますから、万が一景気後退が発生すれば、FRBにとってマンデートを達成することは困難になります。

#イールドカーブコントロール (YCC)とは長期金利と短期金利の誘導目標を操作し、イールドカーブを適切な水準に維持すること。「長短金利操作」とも呼ばれます。国債買い入れオペレーション(公開市場操作)などを通じて長期金利を誘導する一方、当座預金への付利を調整するなどして短期金利を誘導します。

FRBは単純に一定期間の平均インフレ率2%を目標とし、物価が弱かった時の分を相殺するため、成長率が高い期間にはインフレ率が目標を上回るのを許容すればよく、利上げを先送りできる仕組みになります。


立沢賢一とは


元HSBC証券社長。
会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資戦略、情報リテラシーの向上に貢献します。
・立沢賢一 世界の教養チャンネル
http://www.youtube.com/c/TatsuzawaKenichi

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