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AI時代、あえて「無駄」を味方につけろ

──指示ひとつで激変する未来と、“サボり”が生む大きな価値

「効率化しよう!」「ムダを徹底的になくせ!」そんな声が、ビジネスシーンで飛び交うのは当たり前になりました。とりわけAIツールの発達がめざましい今、単純作業はどんどん自動化され、私たち人間が“他のこと”に時間を使えるようになってきています。

けれど、ここでひとつ疑問が浮かびませんか?

「じゃあ、私たち人間がやることって、一体なんだろう?」

作業効率を上げるだけならAIが引き受けてくれます。私は東京大学で分子生物学の博士号を取得し、最先端のAIツールも導入してきましたから、その恩恵をとことん感じています。博士時代からITベンチャーを経て、今は独立コンサルタントとして活動し、さらに自分自身の習慣づくり・行動設計のコンサルもしています。AIをうまく使うのは得意ですが、それ以上に大切だと私が信じているのが、あえて“無駄”を取り込むことだと思うんです。

「え、逆行してるじゃん?」と思われるかもしれません。でも、この“無駄”こそ、AI時代を生きる上で大いなる武器になる──ここではそんな話をしていきたいと思います。以前の記事ではファクトフルネスの視点から「AI時代だからこそ未来が面白くなる」という話を書きましたが、今回はその続きのような形で、「効率化が加速する今こそ、“無駄”が意外な武器になる」という視点をお届けしたいと思います。

■ 労働集約から“指示力”へ

AIの導入によって、労働集約的な仕事の価値が下がる、というのはある意味当然の流れです。今までは時間さえ費やせば結果が出たような仕事が、次々と自動化されていく。私自身、研究室でマシンを使った実験の自動化を見てきましたが、あまりに正確でスピーディーなので感動しました。一方で、そこで生まれた疑問は「じゃあ、人間は何をするの?」ということ。

その答えのひとつが、「指示ひとつで勝負が決まる世界観」です。AIは言われた通りに仕事を進めるのは超得意。でも、言われた“通り”を超えた創造的な思考や、“予定外”の組み合わせ、そもそも何を目的とするか、何を目指すか、といったビジョンは人間にしか見出せません。そのためには、
AIに与える指示の正確さや面白さ
出力された結果をどう活用するか
そもそも何をやりたいのか(軸)

こうしたポイントをガッチリ押さえる必要があります。つまり、人間にとって本当に重要なのは、「戦略デザイン力」や「アイデア編集力」なのです。

■ “無駄こそ価値になる”メカニズム

ところが、皆さん忙しいですよね? 仕事山積みだし、帰るころにはヘトヘト。AIに任せてラクになったはずが、なぜかマルチタスクでタスク量が増えていたり……。こうなると、ちょっとした空き時間すら“罪悪感”を感じてしまうこともあります。

でも実は、“無駄な時間”があなたの最強の武器になる、というのが私の持論です。なぜなら、こうした「意図的にぼーっとする」「意図的に散歩に出る」というような“生産性のない時間”が、新たなアイデアを生むためのゆるみをつくってくれるから。

▼ 認知科学的には

ある程度脳が散漫になっているとき、私たちは潜在意識のなかで情報を整理し、思いがけない関連づけを作り出すと言われています。研究論文を書くなかで、朝の4時に突然「実験の統計手法をこう組み替えたらいいかも!」と閃く──そんな体験を何度もしてきました。

▼ ビジネス視点でも

次のアクションや戦略を考えるとき、“効率化脳”だけだと新規性が生まれにくい。AIをただ使い倒すだけでなく、そこから出てきた提案を眺めながら「あれ? こういう応用もできるかも?」と発想を飛ばすには少しダラッとした余白が必要です。

こうした「創造的余白」を生む無駄時間こそが、人間らしさの源泉。AIが仕事を奪うんじゃなくて、AIが“単純作業”を代替してくれるからこそ、私たちはより深い思索や新しい価値創造に時間を使えるのです。

■ “恥”を忍べば、ぐんぐん成長する

とはいえ、新しいことを試すとき、人は恥をかきたくないと感じるもの。特に日本社会や多くの組織文化では、失敗や変わったことへの挑戦に対して厳しい視線が向きがちです。でも、この「恥を恐れず試行回数を増やす」って行為こそが、AI時代に求められる最大のマインドセットだと私は考えています。

AIを使った戦略策定やアイデア出しをしていると、「そのやり方はちょっと奇抜じゃない?」「やりすぎじゃない?」と周囲に言われることもあるでしょう。でも、一発目から絶対的な正解なんてありません。むしろ私は、「何度もトライして微調整するうちに、自分でも想像していなかった可能性が拓ける」瞬間を何度も経験してきました。

最初は“恥”と“違和感”だらけ。でもそこを突破すると、思いもしなかった未来が見えてきました。

■ “雪だるま式”に拡大する成功──だから最初の一手が大事

SNSやオンラインプラットフォームが当たり前になったいま、口コミや拡散、ユーザーベースの拡大速度は凄まじいものがあります。そしてそこにはネットワーク効果が働き、最初の一手や初期の方向性がハマると、一気に雪だるま式に成長できる可能性がある。

AIがその初期戦略の検証やターゲティングを高精度でサポートしてくれるのは、ものすごい強みです。たとえば、顧客データやキーワード分析をAIにやらせて、仮説を何十パターンも出してみる。だけど、どの仮説を“面白い”と思うか、どの切り口を“やってみたい”と思うかは、最終的に人間が決めます。

そう、“やりたい”とか“面白そう”という直感こそ、前例のない世界を切り拓く起爆剤です。AIはあくまで可能性を示すレンズでしかありません。もしあなたが「これはワクワクするぞ」と背中が震えるようなアイデアに出会ったら、たとえ失敗を恐れても、その方向で走ってみる価値があるはずです。

■ 実践:計画的サボりとAIの“共闘”プラン

そこで私が提案したいのは、「戦略的にサボる(=創造的な無駄を設計する)」×「AIをフル活用する」という両輪です。私自身がやってきた方法を、ざっくりと紹介します。
1. 自動化できるタスクを一括でリスト化
• まずはルーチンワークや定型業務をあぶり出し。リサーチ、文章の下書き、定量的な集計……AIに任せられるものは全部任せる。
2. “散漫タイム”を手帳に予定として書く
• 人は“用事”って書いてあると実行しちゃう。逆に「暇な時間」って勝手にできないんですよ。だから、あえてスケジュールとして確保!
3. AI×妄想でアイデアを拡散
• 散漫タイムやふとした瞬間に、AIに軽い質問を投げてみる。「このサービス、もし別業界に適用するとしたら?」とか「逆張りで成功する事例ある?」とか。そこから出たヒントをノートに書き留めて妄想を膨らませる。
4. 小さくテスト、即ダメなら次
• アイデアや戦略をすぐ試せる環境を用意する。ブログでもSNSでも社内ミーティングでもいい。「なんかイケそう」と思ったら実行 → ダメだったら次へ。恥を忍ぶほどチャレンジ回数が増え、成功の芽を拾いやすくなる。

こうすることで、“AIの賢さ”と“人間の無駄な創造力”がうまく掛け合わさり、化学反応を起こしやすくなります。効率的なだけじゃなく、「へー、こんな突拍子もない面白アイデアが出てくるんだ」という瞬間を増やせるわけです。

■ 結論:AIを使いつつも「無駄」を捨てないで

AIは働き方を根本から変えていきます。でも、その変化の先にあるのは「人間がやることゼロのユートピア」ではありません。むしろ、あなた自身の価値観や好奇心、そして“やってみたい”“面白い”という情熱が、より鮮明に輝くチャンスだと私は感じています。
• 「何がワクワクするか」
• 「何が面白いのか」
• 「どうしたら自分だけの価値を出せるのか」

こうした問いに真正面から取り組める余地が、AIのおかげで増える。そのときに必要なのは、余白を生み出す無駄の計画であり、失敗を恐れず試す姿勢、そしてAIの力を借りて最初の一手を見極める頭の柔らかさです。

効率化はAIに任せちゃう。結果として生まれた時間をどう使うか。その答えが、“人間にしかできないトンチキな発想”や、“あなたならではのアイデア”につながるはずです。そして、その“遊び心”が巡り巡ってビジネスでも人生でも思わぬ成果を連れてくる。

これからの時代を「つまらない」と嘆くのか、「めちゃくちゃ面白い」と捉えるのかは、私たち次第です。どうかあなたも、意識的に“無駄”を作ってみてください。その無駄が、AI時代の大事な宝に変わる瞬間がきっと訪れます。

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