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「やっぱり自分には無理」を卒業する──“アイデンティティ”を丸ごと着替える脳科学

「何か新しいことを始めても、いつの間にか『自分には合わない』気がしてやめてしまう」──そんな経験はありませんか? あるいは、セミナーや成功者のストーリーを聞いて一時的にモチベーションが上がっても、気づけば元に戻ってしまう……。実は、こうした“習慣が続かない”悩みの裏には、私たちの“アイデンティティ(自己イメージ)”が密接に関わっているのです。

本記事では、「アイデンティティをどう捉えれば、習慣が続くようになるのか?」という謎を、私が歩んできた研究者からITベンチャー、そして独立コンサルタントに至る道のりを交えて解説します。さらに、科学的な視点も取り入れながら、「なるほど、自分もやってみようか」と思える具体的ステップをご紹介。読み終えるころには、「本当は面倒くさがりだと思っていたけど、意外とイケるかもしれない」と感じ、むしろワクワクが止まらなくなるかもしれません。

1. なぜ「習慣」より先に「アイデンティティ」が大事なのか?

1-1. 「モチベーションが続かない」の正体

人は、成功者の話やセミナー動画で一気に意欲が高まったとしても、翌日には「やっぱり自分には無理だ」と尻すぼみになりがちです。これは単に意志が弱いのではなく、「自分はこういう人間だ」というアイデンティティが変わっていないから。根っこにある自己イメージを変えないまま頑張っても、やがて元のイメージに引き戻されてしまうのです。

たとえば、私自身はもともと超が付くほどの“夜型人間”でした。東京大学の博士課程に在籍していたころは、朝11時に起きるのが当たり前。書類作業や実験データの整理は常にギリギリで、「自分はそういうタイプだから仕方ない」とあきらめていました。しかし、後述するある“仕掛け”を導入したことで、ベンチャー転職後には毎朝7時に起き、15ものルーティンをこなせるように。私自身が感じた変化は、「生活が変わった」以上に「アイデンティティが変わった」でした。

1-2. 自己イメージの“ポジション補正”

心理学では、自己知覚理論(Bem, 1972) が知られています。これらの研究は、人間が「自分はこんな人間だ」というメンタルモデルを、行動の根拠として無意識に参照することを示唆しています。いくら周囲が「あなたならできる」と言ってくれても、自分が「いや、私には無理」と思い込んでいれば、うまくいきそうな習慣を自ら遠ざけてしまうのです。

2. 「面倒くさがり」だって立派なアイデンティティ

2-1. “負のレッテル”が行動を制限する

よく耳にするのが「自分は夜型人間だから仕方ない」「私、面倒くさがりだから続かない」というフレーズ。こうしたセルフレッテルは、ある種の呪文のように行動範囲を狭めてしまいます。実際、私も博士課程時代、朝型への挑戦を何度試みても失敗。理由はシンプルで、「自分は夜型だから、これ以上頑張っても無駄だろう」と決めつけていたからです。

2-2. 実は、ほとんどの人が“面倒くさがり”

ただし冷静に考えてみると、「まったく面倒がらない人」などほとんど存在しません。むしろ、誰しも少しはズボラな面を持っているからこそ、そこに“独特のこだわり”が現れたりします。私がITベンチャーに転職した際も、当初は「面倒くさがりの自分が、厳しい就業時間に適応できるわけがない」と思っていたのですが、実際にやってみると面白いデータ分析や新規事業の開発に没頭する自分がいた。そのとき初めて、「あれ、意外とチャレンジが好きなのかも」と気づいたのです。

この「自分にもこんな一面がある」という発見がアイデンティティを書き換える第一歩。「自分は面倒くさがりだ」というレッテルが、実はそれほど強固でもなかったと分かると、行動のハードルが一気に下がります。

3. アイデンティティを“望む方向”へズラす方法

3-1. 新しい人格を仮設定してみる

『複利で伸びる一つの習慣(Atomic Habits)』のなかで著者ジェームズ・クリアは、「行動はなりたいタイプの人へ一票を投じる行為だ」と語っています。要するに、“果敢にチャレンジできる人”を目指すなら、まず“果敢にチャレンジする人がとりそうな行動”を、小さく実行してみる。その行動一つひとつが自分への“投票”となり、「自分はチャレンジできる人」という信念を強めるのです。

◆私の例:朝型シフト
理想像の設定:「朝型で時間管理が上手い人って、仕事でも効率的に成果を出すし、次々と新しいスキルを吸収しているはずだ」
行動の小分け:「まずは7時に目覚ましをセットし、起きられたら“5分間だけ”読書することにしよう」(読めなかったら即寝てもOK)
証拠の積み重ね:最初は半分意識が朦朧としていましたが、5分ほど本を開いたあと、「もう少しだけ読みたい」と自然に思え、結局15分、30分と延びていった。
こうして「5分だけ→もうちょいだけ」を繰り返すうちに、「自分はやればできるかも」という感覚が高まり、アイデンティティが“夜型→朝型”へ徐々にズレていったのです。

3-2. 現実から“肯定的エビデンス”を探す

「面倒くさがり」だと思い込んでいる人ほど、何かしら夢中になってやり遂げた経験があるはず。たとえば、映画には全集中で没頭できるのに、仕事は全然進まないという場合、「自分は飽きっぽい」と言うより「意外と“ハマると一気にやれる”タイプ」と再定義できるかもしれません。
この“再定義”こそが、アイデンティティを更新するカギ。ネガティブな思い込みを否定するのではなく、そこに秘められたポジティブな視点を発見することで、「あれ、もしかして自分はこういう人間かも」という可能性が広がるのです。

4. 「習慣化セッション」で起きる意外な化学反応

私は習慣形成のコンサルティングをするなかで、最初に「あなたが本当に大切にしている価値観は何ですか?」とじっくり対話の時間をとります。たとえば「健康な身体が欲しい」「やりたい仕事を思い切り楽しみたい」「将来、世界を股にかけて活躍したい」といった価値観が明確になると、そこへ向かうための習慣は驚くほど定着しやすいのです。

4-1. 価値観と結びついた習慣は“自分事”になる

たとえば「海外で働きたい」人にとっては、英語学習が“義務”ではなく“自分の夢へ直結する行動”に変わります。あるいは「体力がないと仕事で思い切り挑戦できない」と実感した瞬間から、運動が単なる苦行ではなく、“望む未来のための必要投資”に変わります。
こうして“自分のアイデンティティや価値観”と習慣が密接にリンクすると、「なぜ続けるのか」を自ら納得できるため、モチベーションの浮き沈みに左右されにくくなるわけです。

4-2. 私自身の体験──“成績の悪い学生”から“研究に没頭する人”へ

大学時代、私は決して優秀な学生ではありませんでした。成績が悪く、「自分は勉強に向いていない」というアイデンティティすら抱いていました。しかし、大学3年で研究に興味を持ち始め、実験を重ねるうちに「論理的に考えるのって面白い」「新発見をするってワクワクする」と感じた瞬間から、勉強への姿勢が180度変わりました。
結果的に東京大学の大学院へ進学し、分子生物学の博士号を取得。そして最先端のAIや実験技術を活かして論文を発表できるまでに至ったのは、“勉強は嫌いだけど仕方なくやる”から“研究はワクワクするから進んでやる”へ、アイデンティティが大きく書き換わったからだと思っています。

5. 「自分を変えたいなら、まず“どうなりたいか”を決める」

5-1. “真似”から始めても、行き着く先はオリジナル

「理想の人格」と聞くと、誰かの真似をするだけに思えるかもしれません。でも、他人とまったく同じ人間になることなど不可能です。私自身、博士号を取ったあとにITベンチャーへ行ったときは「優秀なエンジニアや経営者のマインドを学ぼう」と必死で真似しましたが、最終的には自分なりのワクワク感や好奇心を中心に仕事を組み立てるスタイルを作り上げています。

結局、“理想の自分”というのは誰かのコピーではなく、「自分にしかない価値観」を軸にしたオリジナルな人格なのです。そこに到達するまでの実験として、「あの人みたいにチャレンジできる自分になってみよう」と模倣することは大いに意味があります。

5-2. 習慣は「理想の自分」を実現するための手段

新しいスキルや資格を得る、あるいは「痩せる」「筋肉をつける」といった成果はわかりやすい目標です。しかし、さらに一歩踏み込むなら、「その成果によって自分はどんな人間になりたいのか?」を問うのが大事。自分の価値観にフィットした姿が見えれば、そこへ向かう習慣は自ずと継続しやすくなります。
私の場合は「新しい仕組みやアイデアを生み出して、人に“面白い”と思ってもらえる人間でありたい」という価値観が根っこにあります。だからこそ、読書や運動、研究や執筆の習慣が苦にならず、むしろ楽しく続けられる。それが私にとっての“理想の自分”へ通じるからです。

6. 今すぐ始める具体的ステップ

1. 自分を決めつける言葉をやめる
「自分は飽きっぽいから」「夜型人間だから無理」という思い込みを、まずは断定しないように意識してみましょう。実はそれが習慣を変える“最大のブレーキ”かもしれません。
2. なりたい自分を描く
「果敢にチャレンジできる人」「新しいスキルを学び続ける人」など、誰でもいいので“こうなりたい”像を具体的にイメージ。最終的には自分独自の理想像へと発展させるための、最初のヒントに過ぎません。
3. 小さな行動をして“証拠”を集める
その理想的なイメージを持つ人が“週に1冊は本を読む”なら、1日10ページでもいい。運動なら“1回のスクワット”からでもOK。「自分がやった行動=理想の自分に投票した証拠」と捉えましょう。
4. 価値観と関連付ける
行動が続く人は、そこに「何のためにやるのか?」という目的がはっきりしています。英語の勉強にしろ筋トレにしろ、「自分が大事にしている価値観とどう結びつくのか?」を意識的に言語化してみると、突然スッと腑に落ちるはず。
• Bem, D. J. (1972). Self-perception theory. Advances in Experimental Social Psychology, 6, 1–62.
• Bandura, A. (1997). Self-efficacy: The exercise of control. W.H. Freeman.
• Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation. American Psychologist, 57(9), 705-717.
• Clear, J. (2018). Atomic Habits: An Easy & Proven Way to Build Good Habits & Break Bad Ones. Avery.

7. まとめ──“アイデンティティを育む”習慣で、未来を自由に設計する

「三日坊主は意志が弱いから」という説は、一面しか捉えていません。本当の理由は、「アイデンティティがついてこない」から。なりたい自分像を設定し、小さな習慣を通じて“自分への証拠”を積み重ねれば、やがて“自分はこういう人間だ”という確信へと変わっていきます。

そして、そのアイデンティティが「自分の価値観」に深く結びついていればいるほど、習慣は長続きしやすく、日々がどんどんワクワクしたものに感じられるようになるのです。私自身、面倒くさがりで成績も悪かった学生時代から、博士号取得、ITベンチャー、そして習慣形成のコンサルタントとキャリアを切り拓いてきたのは、“習慣を通してアイデンティティを育む”プロセスそのものだったと言えます。

もしあなたが、新しい習慣を始めようとして「なんとなく自分に合わない気がする」と立ち止まっているのなら、まずは自分が「どんな人間になりたいのか?」をじっくり考えてみませんか? 私の習慣化セッションでも、まずは価値観や信念を掘り下げる時間を取ります。そこがしっかり見えてくると、行動の“なぜ”が腹落ちし、「この習慣には意味がある」と納得できる。すると驚くほど自然に定着していくのです。

新しい習慣に挑戦するとき、「自分の理想像を描き、そこに一票を投じ続ける」という姿勢を一度試してみてください。いつか振り返ったとき、「あの時始めた小さな一歩が、今の自分を作ったんだ」と誇れる日がきっと来るはず。
“自分らしいアイデンティティを手に入れ、ワクワクを感じながら習慣を続ける”──そんな未来を、ぜひ一緒に築いていきましょう。

もし本記事を読んで「意外と簡単かも」「自分にだってできそうだ」と思えたら、ぜひ“いいね”やコメントをお寄せください。あなたの一歩が、次の発見と成長への扉を開くかもしれません。読んでくださって、ありがとうございました。

次回は、「習慣化こそが、あなたを自由にする魔法。」について深掘りする予定です。興味のある方はフォローしてお待ちくださいね。

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