変化に飛び込める自分をつくる──進化が示す挑戦者の思考回路
はじめに――どうしてあの人は挑戦し続けられるのか?
こんにちは。前回の記事では、不安と期待がどちらも似たような身体反応を引き起こす点や、認知ラベリング(リアプレイザル)で「ネガティブにもポジティブにもなる」可塑性のお話をしました。あの記事では特に、マインドフルネスやエクスポージャー法の観点から「怖さを上手に扱う」「不安を期待に変える」ヒントをご紹介しました。
今回の記事では、少し角度を変えて、「そもそも不確定な状況を楽しめる人とはいったいどんな人なのか?」そして「私たちがそのような人になるにはどうしたらいいのか?」を改めて深掘りしてみたいと思います。これからの時代、本当の身体的な危険が迫っていることは少ない一方で、変化のスピードが加速し、あえて“不確定”なチャレンジに飛び込むことで大きく成長できる可能性も増えています。
「不確定な状況」は怖いもの? いえ、どうやら“未知”へのワクワクを味わえる人たちもいるようです。私の分子生物学の研究やITベンチャーでの経験、そして現在コンサルタントとして習慣形成を支援している立場から、「不安」と「期待」がなぜ表裏一体なのか、その神経科学や進化論的な背景から読み解きつつ、「楽しめる人になる具体的な方法」までを、できるだけ楽しく解説していきます。
• 「不確定な状況をちょっと面白そうに感じてみたい」
• 「変化が怖いけど、新しい挑戦をしてみたい」
• 「自分にもできそうな実践方法が知りたい」
そんな思いを持つ方が、記事を読んだあとに「なるほど、自分にもできそうだ」「これは意外だった」「もっと知りたい」と思えるような内容を目指しています。ぜひ最後まで読んでみてください!
1. 「不確定な状況」にワクワクする人って、どんなタイプ?
そもそも「不確定な状況を楽しむ」とはどういう状態でしょうか? ここで言う“楽しむ”は「リスクを直視していない」「お気楽に考えている」わけではありません。むしろ、現実的なリスクはちゃんと計算に入れつつ、未知がもたらす新たな可能性に好奇心を刺激されている状態です。
1-1. 刺激追求傾向がある人
心理学で言うところの“Sensation Seeking”や“開放性(Openness to Experience)”が高い人は、新しいことや刺激的なことに好奇心をかき立てられやすいです。たとえば、
• 初めての街に行ったときに道に迷う可能性を“面倒”ではなく“冒険”と感じる
• 新しいプロジェクトに誘われた時に「失敗したらどうしよう」より「おもしろそう、どんな学びがあるだろう」と思える
こうした人は「未知だからこそ試してみよう」という行動が自然と先行します。これは“BAS(行動活性化系)”が強いとも言えます。
1-2. 不安耐性がある人
一方で、「不安や緊張がまったくない」わけではなく、多少の不安があってもそこまでダメージを受けず、行動を起こせる“レジリエンス”の強さを持った人がいます。自分の心配ごとを上手にマネジメントしたり、仮に失敗しても「まあ、やってみる価値はあった」と自己評価を乱されにくい、いわゆる“セルフエフィカシー(自己効力感)”の高い人ですね。
2. 同じ刺激に対する“裏表の反応”はなぜ起こる?
前回の記事でも触れたように、不安を感じるときも、楽しみでワクワクするときも、交感神経が高ぶり、心拍数や呼吸が上がり、筋肉が緊張する――こんな身体反応が起こります。では、なぜ同じような生理的変化が「行動抑制(逃げるor縮こまる)」と「行動促進(飛び込むorチャレンジ)」という真逆の行動を生むのでしょうか?
2-1. 心理学の視点:BIS/BASと認知ラベリング
• BIS(Behavioral Inhibition System)
危険や不安を強く感じる抑制システム。失敗や他者からの批判を避けたい気持ちにつながる。
• BAS(Behavioral Activation System)
報酬や新しい体験を求める活性化システム。好奇心や行動力を高める。
未知のシチュエーションでは、多くの場合このBISとBASの両方が刺激されます。「怖いかも……いや、でも面白そう」と葛藤する瞬間ですね。このとき、私たちの脳が「これは脅威よりリターンが大きい」と判断しやすくなるほど、BASが優位に立ち、結果として行動が促進される――つまり不安のエネルギーが期待へシフトします。
さらに認知ラベリング(リアプレイザル)が関与し、同じ身体反応を「これは緊張。だから失敗する」と捉えるか、「これはワクワクのスイッチが入った」と捉えるかで、行動がガラッと変わってしまうわけです。
2-2. 神経科学の視点:ワクワクも不安も“覚醒モード”
脳内では、いざ未知に直面したときに
1. 扁桃体が「これは要注意かも!」とアラームを鳴らし
2. 交感神経を通じて身体の覚醒レベルを一気に高め
3. 前頭前野が「危険なだけ? いや、もしかすると面白いかも?」と評価を行い
4. ドーパミン系が「報酬の予感・探求の動機づけ」をブーストするかどうかを左右する
という流れがあると考えられます。結局のところ、“不安”と“期待”は共に「身体を動員して何かに備える」緊張状態をつくる点で同質です。そしてその“最終的なラベリング”がポジかネガかで行動結果が大きく変わるのです。
2-3. 進化生物学の視点:リスク回避とチャンス獲得の両立
私たちの祖先が自然界で生き延びてきた歴史を振り返れば、「これはヤバいぞ」といち早く回避行動をとる能力(BIS)は必須でした。しかし同時に、「新しいエリアに行けば獲物が多いかも」「もう一歩踏み込んでみよう」という好奇心(BAS)がなければ、食糧源やパートナーを獲得できず、生存繁栄にも不利になってしまいます。
つまり、未知に遭遇→身体は一旦フル覚醒→状況次第で回避モードか接近モードを発動、という仕組みを持つことは、進化的にみても極めて合理的だったのです。どちらにも振りやすい共通の“生理的準備状態”を一つ用意しておき、あとは認知評価で切り替えるほうがコストが低い。こう考えると、不確定な状況で起こる不安と期待が“裏表”になるのは、進化の長い旅路が生んだ効率性の表れといえそうです。
3. どうすれば「不確定を楽しめる人」に近づける?
ここまでは仕組みの話でした。では、どうやって「未知が怖いだけの状態」から抜け出し、「怖いけど何だか面白そう!」にシフトできるのでしょう? 私自身、博士課程で研究に没頭していた頃は変化を嫌うタイプでしたが、ITベンチャーへの転職や独立を経験するうちに、自分なりの方法が少しずつわかってきました。
3-1. 小さな“チャレンジ習慣”を積み上げる
• 段階的にリスクをとる
いきなり大きな“不確定”に飛び込むと、BIS(回避システム)が強烈に働きます。そこで、たとえば「まだ安全な範囲だけど少しドキドキする」レベルから徐々にステップアップすると、“怖い→少し慣れた→意外と大丈夫→もうちょっとやってみよう”というサイクルが作れます。
• 小さな未知を日常に組み込む
たとえば、新しい料理レシピを試す、行ったことがないカフェに入る、普段読まない分野の本を一冊読んでみる――こうした些細なチャレンジでも「未知に対する“慣れ”」は積み上がるのです。
3-2. 「心拍数上昇=よし、出番だ」と再定義する
不確定な状況を前にしたとき、ドキドキと心拍が上がるのは「危険のサイン」というより「エネルギーがブーストされているサイン」と捉え直す癖をつけましょう。実際、アスリートも緊張感を「パフォーマンスを最大化するための燃料」と呼ぶことがあります。
• 前回の記事でもご紹介した認知ラベリング(リアプレイザル)をさらに発展させ、「キタキタ、スイッチ入ってる!」と肯定的に受け止めるのです。これだけでも不安と期待が紙一重であることを実感できるはず。
3-3. マインドフルネス+リアプレイザルのハイブリッド活用
私自身が強くお勧めしているのは、身体感覚を観察するマインドフルネスと思考や感情を再定義するリアプレイザルを組み合わせることです。
1. マインドフルネス
「今、心拍数が上がっているな」「胃のあたりがソワソワするな」とありのままを観察する。否定もしないし、急いでポジティブ変換もしない。ただ「身体はこういうふうに反応しているんだな」と気づくだけ。
2. リアプレイザル
それから「これは自分が本気になっているサインだ」「エンジンのアイドリングがかかった状態だ」と柔らかく言葉で再解釈する。
この順番を意識すると、無理にポジティブ思考だけを押しつけるのではなく、身体感覚を認めたうえで“使えるエネルギー”に変えていく流れがつくりやすいです。
3-4. 自己効力感を育む:成功記録と“失敗の安全化”
• 成功体験を記録する
「こんなにドキドキしたけど案外うまくいった!」という体験は、どんなに小さくても書き留めておきましょう。脳はすぐに危険のほうばかり記憶しがちなので、「大丈夫だった」データを意識的に積み重ねることが重要です。
• 失敗を安全化する
もちろん、チャレンジには失敗のリスクがつきもの。でも、現代では本当に“物理的な死”につながるような失敗はレアです。「失敗したらこうしよう」というセーフティーネットを設計しておけば、失敗のダメージを適切な範囲でコントロールできます。するとBISを過剰に働かせなくても済むのです。
4. 私の体験談:博士課程からITベンチャー経由で独立へ――変化を楽しんだプロセス
ここで少し、私自身の経験をお話しさせてください。私は東京大学で分子生物学の博士号を取得したあと、研究の道を進むのが“安牌”だと思われるなかで、あえてITベンチャーに転職してみました。
• 当初の不安
「研究のキャリアを捨てるなんて、もったいない」「自分はベンチャーで通用するのか?」と周囲から言われるたびに、心臓がドキドキ。
• 不確定に飛び込んでみた結果
想像以上にリサーチやプログラミングのスキルが活かせたり、自分が思ってもみなかった領域で成長できたりしました。「未知の環境だからこそ、新鮮な学びや人脈が得られる」と気づけたのは大きな収穫でした。
• さらに独立へ
ベンチャーで事業づくりを経験したあと、今度は自分でコンサルタントとして独立。ここでも「もし受注が来なかったらどうしよう」という不安はありましたが、「新しいクライアントやプロジェクトとの出会いが楽しみ」とBASを刺激して、行動を起こしました。
この過程で何度も不安は湧きましたが、それを“ワクワクの呼び水”と捉える練習を繰り返したおかげで、未知に対して昔ほど怖がらなくなりました。失敗しても、まだ身体は無事だし(笑)、得られる学びも大きいと実感できたからです。
5. 不確定を楽しむコツを“仕組み化”する
5-1. AIツールとのコラボで自己探求する
私は習慣コンサルティング×AIというアプローチを試しています。たとえば、
• チャットボットに“不安の理由”を質問してみる
自分が感じている不安や未知への抵抗感を文章化し、AIに投げかけてみると、思いがけない視点や再解釈のヒントが得られることがあります。
• 日々のデータをトラッキング
スマートウォッチの心拍数や睡眠パターンをモニタリングして、「興奮度が高まるトリガーは何か?」をAIに分析させる。自分では気づかなかった“小さなストレス源”や“ワクワクのきっかけ”を客観的に見つけられます。
技術的にはまだ発展途上の部分も多いですが、こうしたAIツールを使った自己探求によって、“未知”を自分なりにハックする視点が増えます。行動実験のようなものですね。
5-2. 日常に“未知ポイント”を設計する
• “1週間に1つ、新しいこと”ルール
例えば毎週火曜日は、行ったことのないお店でランチする、読んだことのないジャンルの本を読む、普段と違うルートで帰宅する、など。些細なことに思えますが、こうした“小さな未知”を繰り返し体験するうちに、脳が「新しいことは面白い」と学習します。
• “逆張り行動”を試す
「いつもなら断ってしまう誘いに、あえて乗ってみる」「普段なら二次会には行かないけど、ちょっとだけ参加してみる」など、習慣の逆を意識的に選んでみると、意外な出会いやアイデアが転がり込むことが多いのです。
6. まとめ:不安と期待はいつでも行ったり来たり。ならば、使いこなせばいい
不確定な状況に置かれたとき、「不安だ……」と感じるのは普通です。むしろ大切なのは、「その不安を使って自分を成長させるか、それとも縮こまって終わりにするか」の選択です。怖さとワクワクは“表裏一体”なだけに、認知ラベリングを少し変えてみるだけで、行動は大きく変わってきます。
• どんな人が“不確定”を楽しめる?
→ 開放性や刺激追求傾向が高く、自分の失敗を“安全化”しながら行動できる人。
• どうして同じ刺激が不安にもワクワクにもなる?
→ 生理的にはどちらも覚醒状態。脳が最終的に「危険vs.チャンス」を天秤にかけて評価を下すため。
• その人になるための方法は?
1. 段階的チャレンジ:小さな未知の積み重ねで脳に“安全学習”をさせる
2. 認知ラベリング:「これは緊張じゃなくてエネルギー充填」と意味づけを変える
3. マインドフルネス活用:身体感覚を客観視してから再定義する
4. 自己効力感を育てる:成功体験と失敗の“安全化”を記録して、「やってみれば大丈夫」と脳に教える
5. 仕組み化:AIや行動トラッキングを使って日常に“未知ポイント”を埋め込む
私たちの脳は、変化を恐れながらも変化にワクワクする性質を同時に持っています。どちらに振れるかは、日々の行動と認知の工夫次第。
「本当の身体的な危険が少ない現代だからこそ、不安を使う力が大事」というのは、私自身がいろいろ遠回りをしながらたどり着いた実感でもあります。博士号取得やITベンチャー、コンサルタントへの道は“不確定”だらけでしたが、そのおかげで得られた学びやつながりは本当に大きかったです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
「なるほど、自分にもできそう」「これって意外な視点だな」「もっと知りたい」と少しでも思っていただけたなら幸いです。
もし「やってみようかな?」という気持ちがわいてきたら、小さなチャレンジからでOK。ぜひぜひ日常にひと味違う“未知”を加えてみてください。きっと、不安とワクワクの“表裏一体”を上手に使いこなす楽しさを感じられるはずです。
もしこの記事がお役に立てれば、“いいね”やSNSでのシェアをしていただけると嬉しいです! そして気になることや感想がありましたら、ぜひコメント欄で教えてください。あなたの「もっと知りたい!」が、私自身のさらに新しい挑戦につながります。