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“気づいた瞬間”が勝負! 先延ばしと悪習慣を断つトリガー設計入門

「“気づいたら”やってしまう」悪習慣はなぜ変わらない?

先日、あるクライアントからこんな悩みを打ち明けられました。
「気がついたらSNSをダラダラ見てしまっていて、やめようと思ったのに何時間も経っていたんです。こんなはずじゃなかったのに……」

まさに“気づいたら”やってしまう悪習慣。
逆に、「やる気はあるはずなのに、気づいたら先延ばししていた」という状況も珍しくありません。私自身もかつては「明日からは朝型になるぞ!」と決心しても、気がつけば昼近くまでベッドにいて自己嫌悪する日々を過ごしていました。

こうした悪習慣や先延ばし癖の“決定的瞬間”を振り返ろうとすると、不思議なほど「どこでスイッチが入ったか」を思い出せない。気づいたときにはもう行動に移っている――そんな経験、きっと誰にでもあるのではないでしょうか。

今回は、「習慣を変える第一歩は、気づくことだ」というテーマを切り口に、人がなぜ自分の行動に無自覚になりやすいのか、そして習慣を変えるためには“行動のきっかけ(トリガー)”をどうやって掴めばいいのかを、ちょっぴり科学的かつワクワクする視点で解説していきます。私が東京大学で分子生物学の博士号を取得し、その後ITベンチャーへ転職、習慣形成のコンサルティングを行ってきた経験をもとに、「なるほど、自分にもできそうだ」「もっと知りたい!」と思える具体策をお届けできれば幸いです。

■「気づき」が最大のハードル? “無意識の仕組み”がすごすぎる

1. なぜ私たちは“無自覚”になりがちなのか

脳科学や認知心理学の世界では、「人間の脳はエネルギーを節約するためにできるだけ自動化を好む」という知見が広く共有されています。特定の行動が習慣化すると、脳の基底核(バサルギャングリア)という部位が効率よく“いつものパターン”を起動し、ほぼ無自覚のまま物事を進められるようにしてくれるのです。

例えば、朝起きたら歯を磨く、スマホをチェックする、コーヒーをいれる――これらの行動は意識的に「さあ歯ブラシを持って、歯磨き粉をつけて……」と考えなくても自然にできてしまう。この“省エネ自動化システム”のおかげで、私たちは日常生活を効率的にこなせるわけです。

しかし、この自動化が「変えたい習慣」を変えづらくする大きな壁にもなります。無自覚で動いているとき、私たちは「いま何をしているか」にそもそも気づきにくい。
「気がついたらYouTubeを見続けていた」「予定では勉強するつもりだったのに、いつのまにか部屋を片付け始めていた(しかもその片付けも中途半端)」……。こうした場面を思い出すと、“気づく前に行動”してしまうメカニズムが痛感できるはずです。

2. “自覚的になる”のは脳にとってとても疲れる

さらに、人間が「いま自分は何をしているのか?」と意識を向け続けるには、“前頭前野”という部位をフル活用します。これは計画や判断、自己制御を司る領域で、脳の中でもトップクラスにエネルギーを消費する部分。
意識的に行動を見張ろうとすればするほど疲弊してしまい、結果的に長続きしない。これが「行動のきっかけを掴むのが難しい」背景には潜んでいるのです。

■行動のトリガーを押さえれば、習慣は自動的に変わる

それでも「変えたい習慣」を変える方法はあります。それが、「行動のきっかけ(トリガー)を自覚し、先回りしてデザインする」というやり方です。

1. トリガーを可視化する──“あれ、私いつ始めたんだっけ?”をなくす

たとえばダラダラSNSを見てしまう人の場合、「スマホを触り始める前に、どんな状況だったのか?」を細かく思い出すことを試みましょう。
• 朝起きて、布団のなかでまだぼーっとしている瞬間だった?
• デスクに向かおうとしたけど、何か気が重くなってスマホを開いた?
• 友人からメッセージ通知が来て、それに反応してしまった?

このように、行動が始まる“引き金”を特定する作業を「トリガーの可視化」と呼びます。私がクライアントとセッションするときは、まず一週間ほど「何時頃、どんな場所で、どんなきっかけでその行動を取ったのか?」を記録してもらいます。すると、「朝は“目覚ましを止めるためにスマホを触った”ついでにSNSをチェックしている」「夜は“寝る前に電気を消したあと”の真っ暗な状態でもスマホを開いている」といった具体的な場面が浮き彫りになるのです。

このプロセスは地味ですが非常に重要。「行動の入り口」をしっかりと自覚できるようになると、その入り口自体に工夫を加えることが可能になります。

2. “事前に”行動をセットしておく仕組み化

たとえば朝に起きた瞬間、ついSNSを覗いてしまうなら、寝る前にスマホを別の部屋に置くとか、ベッドから出ないとスマホを手に取れない位置に仕掛けるなど、物理的にトリガーを遠ざける手段が考えられます。私も以前は、ベッドの枕元にスマホがあるせいで延々とニュースやSNSを追いかけ、気がついたら昼近くになっていたことがありました。そこで「スマホはリビングに置いて寝る」ルールを作るだけで、朝の“スマホを触り始める瞬間”を大幅に遅らせられたのです。

さらに、良い習慣を根付かせたい場合は、あえてトリガーを作る工夫をします。例えば「読書習慣をつけたい!」なら、いつも座るソファの上に読みたい本を開いたまま置いておくとか、デスクトップ画面のど真ん中にブックリストを貼り付けておくといった具合です。「視界に入ったら読むしかない状態」を作ると、自然と目が向かうようになります。

これは「自分の意志力でなんとかしよう」という考えとは逆の発想です。脳の自動化に任せつつ、トリガーを“勝手に”良い方向へ促す仕組みにする――これこそが私が提案する習慣設計の基本方針でもあります。

■トリガーの正体は「不快感」や「感情」かもしれない

ここでは一つだけ深く掘り下げたいテーマがあります。それは、「やりたくない行動に走る本当のトリガーが、“不安や退屈感などの感情”の場合が意外と多い」ということです。

1. 「イヤだから逃げてしまう」行動の裏側

多くの悪習慣、たとえばネットサーフィン、スマホゲーム、タバコなどをやりたくなる瞬間を振り返ると、「退屈」「緊張」「不安」「モヤモヤ」といった感情を抱えている自分に気づくことがあります。要するに、その感情を紛らわす手段として“悪習慣”が働いているのです。

私自身は大学院生の頃、「研究の進捗どうですか?」と教授に聞かれる不安やプレッシャーを紛らわすために、一時期やたらとソリティア(PCのカードゲーム)ばかりしていました。論文を書かなきゃ、でも進め方がわからない、どうしよう……というモヤモヤが湧きあがった瞬間、気づいたらカードを並べていたのです。

2. 感情に“気づく”だけでトリガーを抑制できる

興味深いのは、ここでもやはり「いま自分は何を感じているか」に気づくだけで、行動を少し先延ばしできる場合がある点です。「ああ、いま“研究が進まない不安”から逃れたいんだな」と自覚した瞬間、ソリティアを立ち上げかけた手が止まったりする。人間の脳は面白いもので、感情に名前をつけると、その感情に振り回される度合いがグッと下がることが実験的にも示唆されています。

実際、心理学の分野では「ラベリング理論」と呼ばれたり、マインドフルネスの一部として扱われたりするメソッドです。自覚できれば、トリガーを“気づいた状態”で扱えるため、ただ漫然と流されなくなるんですね。

■具体的アクションプラン:一歩目は「記録してみるだけ」でOK

「行動のトリガーを掴む」と言うと、なんだか難しそうに感じるかもしれません。しかし、ここでご紹介する方法はびっくりするほどシンプルです。
1. 一週間、特定の行動に関する“発端”をメモする
• 「何時に、どんな状況でその行動を始めたか」をざっくり書き留める。
• もしわかるなら、「どんな気分・感情だったか」も追加でメモ。
2. 振り返るとき、まとめて見直す
• 「朝が多い?夜が多い?」「何か作業が行き詰まっているときに起こってない?」など、共通点や法則が見えるまで待つ。
3. トリガーが判明したら、環境や仕掛けを改変する
• “悪いトリガー”を減らす(スマホを別部屋に、菓子類を目の届かない棚に、など)
• “良いトリガー”を増やす(机に参考書を開いたまま置いておく、運動用具を視界に入れる、など)

「書くほどのことでもないかも……」と思うぐらい些細な行動でもいいのです。記録をつけた後に改めて振り返ると、「意外とこういうパターンだったのか!」と驚く瞬間がほぼ必ずあります。私のコンサルでも、クライアントさんが自分の行動トリガーを初めて整理したとき、「え……こんなに“始まり”が偏っていたなんて」と声を上げることが少なくありません。

■私の実体験:朝型人間になれた理由は“きっかけ”を変えただけ

実は私、博士課程在籍中は毎朝11時過ぎまで寝ている生活を送っていました。「研究者なのに大丈夫?」と周りから言われながらも、夜に作業がはかどる気がしていたんですね。しかし、ITベンチャーに転職するタイミングで「生活リズムを整えないと仕事に差し支える!」と痛感。そこで試したのが、「朝起きた瞬間にスタートする行動のトリガーを変える」ことでした。

具体的には、ベッド脇の棚に水入りのペットボトルを置いておき、「起きた瞬間に水を飲む」ようにしたんです。これが私にとっては「朝だ!もう布団から出よう」という合図になりました。いわば、水を飲む行為そのものを“起き上がるためのトリガー”にしたわけですね。

その後は、気分が乗ってきたところで散歩に出る、あるいは本を数ページ読む、というミニ習慣をつなげていきました。いつのまにか朝7時起床が当たり前になり、今では15の朝ルーティンをこなしたうえで一日を始められるまでに変わったのです(昔の自分だったら信じられない!)。

■「気づいて行動を変えたい」人への提案:トリガーにフォーカスしてみる

ここまで読んでくださった方の中には、「なるほど、まずは『自分が行動を始める瞬間』を明確にするって大事なんだな」と感じていただけたのではないでしょうか。実は、このステップだけで習慣作りの7~8割が決まる、という専門家もいるほどです。

私の博士課程での研究経験や、AI・心理学を使ったコンサルティングの実践を通じても、「トリガーを見誤るとどんなに頑張っても習慣は変わらない」という現実を何度も見てきました。逆に言えば、トリガーさえ掴めれば、あとは“そこをどう書き換えるか”を考えるだけ。環境の変更や小さな仕掛けづくりで、自動的に行動が変わるルートが意外と見つかります。
参考・関連情報
• Kahneman, D. (2011). Thinking, Fast and Slow. Farrar, Straus and Giroux.
• Duhigg, C. (2012). The Power of Habit. Random House.
• Lally, P., Jaarsveld, C. H., Potts, H. W., & Wardle, J. (2010). “How are habits formed: Modelling habit formation in the real world.” European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009.

■おわりに──まずは“自分の行動を実況中継してみる”感覚から

人間は、自分の行動を自覚的に把握するのが驚くほど苦手です。それも、脳がエネルギーを節約するために“自動化”を基本設定にしているからこそ。とはいえ、「いま何をしているか」に意識を向けることこそが、習慣を変える最初の一歩であり、それこそが最も強力な武器になるのです。
• 「いつのまにかやってしまう」行動の“きっかけ”をとにかく探ってみる
• メモやアプリを使って記録し、客観的にパターンを見つけ出す
• その後、環境をちょっと変えてトリガーを先回りで対処する

こうしたシンプルな作業から、あなたの生活や習慣は驚くほどスムーズに変化し始めます。私自身、かつては「研究のストレスで動けない」「先延ばし癖がある」と思い込んでいましたが、いま振り返れば多くは“行動のきっかけに無自覚だった”ことが原因でした。そして一度トリガーを把握し始めた途端、朝型人間へシフトしたり、苦手だった読書を月に10冊も読む習慣に変えられたりと、世界の見え方が大きく変わったのです。

最後に、この一言を贈らせてください。

「トリガーを掴めば、習慣はあとからついてくる。」

もしこの記事が少しでも「なるほど、自分にもできそう」「これは意外だった」「もっと知りたい!」と思っていただけたなら、ぜひ一度、自分の行動を一週間だけ記録してみてください。それが次の“気づき”への扉になるはずです。行動の変化を積み上げながら、いつのまにか理想の習慣に近づいている――そんな未来を一緒にめざしていきましょう!

(もしこの記事が面白いと思っていただけたら、“いいね”やコメントをいただけると嬉しいです。あなたの「気づき」が、新しい習慣への第一歩になりますように。
明日の記事は、「サボらない自分になるための、極小タスクによるネクストステップ戦略」についてです。興味のある方は、フォローしてお見逃しのないように!お楽しみに。)

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