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なぜ“やらなかった後悔”は一生消えない?──挑戦とカウンターファクチュアル思考

人生の後悔──「挑戦しなかったこと」がいちばん多いってホント?

「やってみたいことがあるのに、もし失敗したらどうしよう?」──こうした不安が頭をよぎり、なかなか一歩を踏み出せない。そんな経験はありませんか? あるいは「せっかくチャレンジして失敗したら、ずっと後悔するんじゃないか」と、想像だけで気持ちが萎えてしまう人も多いでしょう。
ところが、実際に“死の間際の人たち”や“人生の終盤で振り返る人たち”を対象にした数々の調査・インタビューによると、後悔として挙がるのは意外にも「挑戦しなかったこと」が圧倒的に多いと言われています。チャレンジして失敗したことを悔いる人は、驚くほど少ない。ここには、私たちの「今の感覚」と「あとから振り返ったとき」のギャップを生む、意外な心理的メカニズムが潜んでいるのです。

本記事では、なぜ私たちは“挑戦しなかった後悔”を大きく感じるのか、そしてそのギャップを埋めるために「10年後の自分はどう思うか?」と問いかける方法がなぜ有効なのか、科学的根拠と私自身のエピソードを交えながら紐解いていきます。読み終わった頃には、きっと「案外、挑戦するリスクって大したことないかも」「ちょっとやってみようかな」と思えるようになるかもしれません。

「失敗の後悔」より「行動しない後悔」が多い理由

挑戦を阻む“今の恐怖”と、振り返ったときの意外な結末

私自身、研究者のキャリアを捨ててITベンチャーに転職した経験があります。当時、「いったい何を目指しているんだ?」と周囲からは相当心配されましたし、私自身も「これで失敗したらどうなる?」と不安だらけでした。ところが、今振り返ってみると、「ああ、あのとき飛び込んで本当によかった!」という気持ちのほうが圧倒的に強いのです。

実は、“挑戦して失敗する恐怖”が大きく感じられるのは短期的な感情に過ぎないことが、心理学の研究からもわかっています。ハーバード大学の心理学者ダニエル・ギルバートは、私たちにはネガティブな感情を思ったより早く緩和する「心理的免疫システム」が備わっていると指摘します。仮に大失敗しても、「これで学べたかもしれない」「次につなげよう」という再解釈が自然に働き、思ったほど長引かないのです。

後を引く「もし挑戦していたら…」──カウンターファクチュアル思考

一方、「挑戦しなかった」場合は、何も起こらなかったがゆえに「もしあの時やっていたら成功していたかも」「やっぱり行動しておけばよかった」という、無限にポジティブな“想像”をし続けられます。これをカウンターファクチュアル思考と呼びますが、こうした“起こらなかったシナリオ”のほうが、長期的には強い後悔を生むと言われています。

私がITベンチャーへの転職を決断したときも、「やめておいたほうが無難じゃないか?」と何度も迷いました。もし踏み出せなかったら、今ごろ「研究室を飛び出していれば、もっと面白い人生があったかも」と、今以上に強く後悔した気がします。結局、“やってみる”ほうが後悔は少ない──これは私自身が痛感した真実です。

「10年後の自分は、今日の決断をどう思うだろう?」

短期的な恐怖が、長期的後悔を生む

どうしてこうしたギャップが起こるのか? それは私たちが短期的な損失を過大評価しがちだからです。
• 「失敗したら笑われるのでは?」
• 「家族や友人に迷惑をかけるかも」
• 「才能がないとバレてしまうのが怖い」

しかし、挑戦しなかった結果の“長期的損失”──つまり「できるはずだったのに、チャンスを逃した」ことの痛みは、未来から振り返ってみてようやく気づくケースが多い。「そのときはなぜやらなかったのだろう?」と振り返っても後の祭りです。

そこで有効なのが、「10年後の自分はどう思うか?」と自分に問いかけること。今の時点で「挑戦が怖い」という感覚はあっても、10年先の自分が同じ感覚を持ち続けているかは疑わしい。むしろ「なんであのとき行動しなかったんだろう」と後悔しているかもしれません。
• 「10年後の自分はきっと、『あのとき勇気を出して挑戦した自分』を誇りに思うはず」
• 「あるいは失敗していても、『やってみたから得られた経験がある』と納得しているはず」

こう想像することで、“先にある後悔”をあらかじめ視野に入れた意思決定ができるようになります。

私の習慣形成でも役立った「未来目線」の問いかけ

私は研究室時代、毎朝11時に起きては深夜まで作業をするような「夜型生活」を送っていました。それを「いや、朝型に切り替えたほうが絶対に人生の自由度が上がる。10年後の自分が後悔しないためにも変えよう」と考えて、ベンチャー転職を機に一気に生活リズムを変えました。朝7時に起きて、自分オリジナルのルーティンをこなし、出社後は新技術を活かした開発に没頭。その結果、「もっと早く切り替えればよかった」と思うほど、生産性もモチベーションも劇的に向上したのです。

あの頃は「夜型を直すのはしんどい」「体に合わないかも」と恐れていましたが、いざ変えてしまうと得るものが想像以上に多かった。まさに「先にある後悔を回避するため」に、小さな一歩を踏み出した好例でした。

意外と簡単! 後悔を減らす3つのステップ

「失敗の恐怖より、挑戦しなかった後悔のほうが大きい」と頭でわかっても、いざ行動しようと思うと怖さは消えません。ここでは、私が習慣形成のコンサルティングや自身の経験で効果を感じたステップを、3つにまとめてご紹介します。

1. 「10年後の自分へのインタビュー」を試す

まずは紙やメモアプリを用意し、“10年後の自分”が今の自分に語りかけている様子を想像して書き出します。
10年後のあなたは、いま抱えている挑戦への不安をどう見るでしょう?
• 仮に失敗したとしても、10年後のあなたはどんなふうに振り返るでしょう?

文字に起こすと、漠然とした恐怖が意外と小さいことに気づきます。成功・失敗を超えた“経験の財産”を認識しやすくなり、「やってみる価値、ありそうだな」と思えるはずです。

2. 自分の“心理的免疫”を信じる

「失敗したらずっと落ち込むかも」と思い込むのは、心理学で言う“影響の過大視”と呼ばれる現象。実際は私たちの心には失敗を乗り越える“免疫システム”があり、時が経てば意外と立ち直っている可能性が高い。だからこそ、「本当に一生引きずるの?」と自分に疑問を投げかけましょう。
• かつて私も「論文が採択されなかったら人生終わりじゃないか」と大げさに落ち込みましたが、実際には数週間後には“次の実験”に集中し、すっかり前向きになっていました。
• むしろ、「やらずに終わった後悔」のほうが長引きやすいという事実を思い出すことが大切です。

3. 小さく始めて、成功体験を積む

「挑戦」といっても、いきなり大きなリスクを背負う必要はありません。たとえば「新しいスキルを学んでみたい」なら、先に関連する入門書を一冊読んでみるだけでもいい。
• ビジネス転身に不安なら、週末だけ副業で“小さく試す”のも手段です。
• 私もベンチャー転職の前、まずは夜間や休日にプログラミングを独学で学び、使えそうだとわかった時点で本格的にジョブチェンジしました。

ほんの少しの行動でも「やってみた」実績が自信になり、さらに次の一歩が踏みやすくなります。小さな挑戦を積み重ねているうちに、「挑戦すること自体への抵抗感」がどんどん薄れていくのです。

参考文献・関連研究
• Gilbert, D. T. (2007). Stumbling on Happiness. Knopf.(心理的免疫システムの概念)
• Gilovich, T., & Medvec, V. H. (1995). The Temporal Pattern to the Experience of Regret. Psychological Review.(挑戦しなかった後悔が長く尾を引く研究)
• Zeelenberg, M., & Pieters, R. (2007). A theory of regret regulation 1.0. Journal of Consumer Psychology.(後悔とカウンターファクチュアル思考の関連)

まとめ──「やらないで後悔」は一番もったいない

1. なぜ挑戦しなかった後悔が多いのか?
→ 失敗のダメージは意外と長く続かない一方、“やれば成功していたかもしれない”という想像が生々しく残るから。
2. どう対処すればいいのか?
→ 「10年後の自分なら、いまの恐怖をどう見るか?」と考えてみる。失敗しても心理的免疫システムが働くし、やらなかった後悔は時間とともに膨らむことを意識する。
3. 具体的アクション
→ 「小さく試す」ことで“挑戦への耐性”を育てる。副業や週末プロジェクト、勉強会への参加など、最初の一歩のハードルをできるだけ低く設定する。

「挑戦して失敗するのが怖い」と思うのは自然なことです。失敗に対して痛みを想像してしまうのは人間の防衛本能でもあります。でも、そこに「10年後の自分ならこの感情をどう見るか?」という視点を加えた瞬間、私たちの行動は大きく変わります。
• 失敗の傷は思ったほど深く残らない。
• 何より“やらずに終わった未来”を想像するほうが、よほど大きな後悔につながる。

まずは小さな一歩を踏み出してみる。それだけで、あなたの世界は意外とあっさり広がるかもしれません。「それでもやっぱり怖い」と思うなら、どうか“10年後のあなた”に聞いてみてください。怖くても前に進もうとしているいまのあなたを、きっと誇らしげに見るはずです。そして「人生の最後にいちばん多い後悔」を、上書きする行動が今まさに目の前にあることを、そっと教えてくれるでしょう。

本記事が「えっ、意外と挑戦のダメージって少ないのかも」「今の感覚だけで決めると将来の後悔が増えるかもしれない」と感じるきっかけになれたら嬉しいです。
もし「ちょっとだけチャレンジしてみようかな」と思った方は、ぜひコメントや“いいね”で教えてください。あなたの新しい一歩が、次の学びとワクワクにきっとつながっていきます。

挑戦の先で得た経験──成功でも失敗でも、それらは今のあなたを超えた“成長の種”になります。私も、そうした種を見逃さないように日々挑戦していきたい。ともに“やりたいこと”を見つけて、一歩ずつ自分の人生をアップデートしていきましょう。

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