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電車
中学生の頃から、電車通学だった。29歳で、人生の、移動の大半は電車である。
電車に乗っていると、さまざまなドラマに出会う。目の前に座る20代女性が、スマホカバーを手鏡代わりに、口紅を塗る。器用だなと感心して、横に目線を移すと、隣の40代前半の男性がイヤホンをしながらスマホに夢中だ。映画でも観ているのだろう。さらに、その隣のオジサンは、横の男性のスマホの画面をじっと覗いている。40代男性は、ひとりで映画鑑賞のつもりだろうが、残念、オジサンとふたりでの映画鑑賞だ。恋愛映画でないことを祈る。そうして、祈っていると、先ほどの口紅の女性が、こちらにじっと視線を向けている。と、すぐに私は気づく。その視線は、私にではなく、後ろの車窓に映る自分を見ていたのだ。平日の、午前9時のことである。
電車での過ごし方を見ていると、そのほとんどがスマホとにらめっこだ。私も人のことを言えたものではない。この文章も、電車に乗りながら書いている。私の場合、こうしてスマホで文章を書いているか、本を読むことが多い。電車の揺れが心地よくて、本を読みながらウトウトする時間が、好きだったりもする。
目の前に座る20代女性は、口紅に満足したのか、ウトウトし始めた。これから仕事なのか、デートなのか、服装からは判断できない。と、ここにきて、私は、ハッとする。スマホを見ているのでも、本を読んでいるのでもない。私の電車の過ごし方のほとんどは、こうして、同じ車両の人たちを、延々と眺めては、妄想に耽ることだった。少しばかり、自分にあきれて、降りるべき駅を乗り過ごした。
ではまた。