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民法総則 代理(99-118)

第三節 代理

第99条(代理行為の要件及び効果)
 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。

第100条(本人のためにすることを示さない意思表示)
 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。
 ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、本人に対して直接にその効力を生ずる。

第101条(代理行為の瑕疵)
1 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
2 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。

第102条(代理人の行為能力)
 制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。

第103条(権限の定めのない代理人の権限)
 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物・権利の性質を変えない範囲内で、その利用・改良を目的とする行為

第104条(任意代理人による復代理人の選任)
 委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。

第105条(法定代理人による復代理人の選任)
 法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

第106条(復代理人の権限等)
1 復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。
2 復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。

第107条(代理権の濫用)
 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

(自己契約及び双方代理等)
第百八条 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
(代理権授与の表示による表見代理等)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
(権限外の行為の表見代理)
第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

第111条(代理権の消滅事由)
 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
 ① 本人の死亡
 ② 代理人の死亡
 ③ 代理人が破産手続開始の決定を受けたこと
 ④ 代理人の後見開始の審判を受けたこと
2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。


(代理権消滅後の表見代理等)
第百十二条 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
(無権代理)
第百十三条 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。
(無権代理の相手方の催告権)
第百十四条 前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。
(無権代理の相手方の取消権)
第百十五条 代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。
(無権代理行為の追認)
第百十六条 追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
(無権代理人の責任)
第百十七条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
(単独行為の無権代理)
第百十八条 単独行為については、その行為の時において、相手方が、代理人と称する者が代理権を有しないで行為をすることに同意し、又はその代理権を争わなかったときに限り、第百十三条から前条までの規定を準用する。代理権を有しない者に対しその同意を得て単独行為をしたときも、同様とする。


1 代理行為の要件及び効果(第99条・第100条) 

代理が成立する3つの要件
代理人による意思表示
代理にが本人を代理して、相手方に意思表示をする。または相手方の意思表示を受領すること
顕名
代理人が権限内において「代理人として本人のために意思表示をしている」と相手方に明らかにすること
意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
代理人が顕名をしなかった場合は、代理人は自己のために意思表示をしたものとみなす。 ただし、相手方が悪意・有過失のときは、本人に対して直接にその効力を生ずる。
代理権の存在
代理を行うには代理権が必要であること

2 代理行為の瑕疵(第101条) 

 代理行為の瑕疵とは、代理人が相手方に対して「意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫、悪意、有過失」を行った場合や、「意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫、悪意、有過失」を受けた場合をいいます。
 このような場合、「意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫、悪意、有過失」は、代理人の主観で判断する。
 特定の法律行為をすることを委託された代理人が「意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫、悪意、有過失」をした場合、本人は事情を知っていたり、事情を知らなかったことに過失がある場合は、代理人が善意無過失でも、取消しや無効を主張することができない。

3 代理人の行為能力(第102条) 

 制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限を理由に取り消すことができない。
ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。

第104条・第105条(復代理人の選任)
委任による代理人
下記以外の場合は、復代理人を選任することができない。
①本人の許諾を得たとき
②やむを得ない事由があるとき
法定代理人
自己の責任で復代理人を選任できる。
やむを得ない事由がある場合、本人に対してその選任・監督の責任のみを負う。

第106条(復代理人の権限等) 
① 復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。
② 復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。

第107条(代理権の濫用) 
 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

第108条(自己契約及び双方代理等) 
自己契約
同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為
無権代理行為とみなす。
①債務の履行
②本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
利益相反行為
代理人と本人との利益が相反する行為
本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

★ 表見代理の類型・要件(第109条・第110条・第112条)

表見代理とは、本人と無権代理人との間に、外観的に、相手方をして代理権の存在を信じさせるだけの特別な事情がある場合に、有権代理と同様の効果を生じさせる制度である。

※ 転得者は第110条で保護される第三者に含まれない

第113条(無権代理) 
① 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
② 追認又は追認の拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。
 ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。
    → したがって、無権代理人に対して追認したとしても、相手方が追認の事実を知らないときは、
      追認の事実を対抗できないので、「当然に」本件契約が有効になるわけではない。
第114条(無権代理の相手方の催告権) 
 無権代理行為の相手方は本人に対し、相当の期間を定めてその期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。
第115条(無権代理の相手方の取消権)
 代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。
ただし、契約の時に相手方が悪意のときは、この限りでない。

第116条(無権代理行為の追認) 
 追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

第117条(無権代理人の責任) 
① 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
② 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
1 無権代理人であることを相手方が知っていたとき。
2 無権代理人であることを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
3 無権代理人が行為能力の制限を受けていたとき。

第118条(単独行為の無権代理) 
 単独行為については、その行為の時において、相手方が、代理人と称する者が代理権を有しないで行為をすることに同意し、又はその代理権を争わなかったときに限り、第113条から前条までの規定を準用する。代理権を有しない者に対しその同意を得て単独行為をしたときも、同様とする。

無権代理と相続

1 無権代理人が本人を単独相続する場合

【設例①】(最判昭40.6.18)
 Aが所有する土地をその子Bが無権代理によってCに売却した。その後、Aは死亡し、BがAを単独で相続した。この場合にCはBに対して、購入した土地の引渡しを請求することができるか。

【結論】
 無権代理人が本人を単独相続した場合において、本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じる

2 無権代理人が本人を共同相続する場合

【設例②】(最判平5.1.21)
 設例①のケースで、Bの単独相続ではなく、BとDの共同相続であったとした場合において、Bは追認を拒絶することができるか。とくにDに追認の意思があるときはどうか。

【結論】
無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属し、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないから、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。

 これを設例②にあてはめると、共同相続人Dが追認しないかぎり無権代理行為は有効とならないが、Dが追認している場合には、無権代理人Bは追認を拒絶することができず、無権代理行為は有効とみなされる。

3 本人が生前に追認拒絶した場合

【設例③】(最判平10.7.17)
Aの子Bが無権代理によってA所有の不動産をCに処分したが、Aがその追認を拒絶した。
その後、Aが死亡してBが単独相続した。Bは、Cに対して追認拒絶の効果を主張できるか。

【結論】
本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではない。

4 本人が無権代理人を相続する場合

【設例④】(最判昭37.4.20)
 A所有の土地をその親であるBが勝手にAの代理人としてCに譲渡する契約を締結したが、その後、B死亡によりAがBを相続した。この場合において、CはAに対してどのような請求をすることができるか。

【結論】
 本人が無権代理人を相続した場合、無権代理行為は当然に有効となるものではなく、本人は被相続人のした無権代理行為の追認を拒絶できる。相続人である本人はもとから追認拒絶権を有しており、無権代理人を相続した後に本人の資格で追認拒絶権を行使したとしても、なんら信義則に反しないからである。

5 無権代理人を相続した本人に対する責任追及の可否

【設例⑤】(最判昭48.7.3)
 本人Aが無権代理人Bの責任を相続すると考えると、無権代理について善意無過失の相手方CはAに対して無権代理人の責任(損害賠償責任または履行責任)を追及できるか。

本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあったからといって無権代理人の責任を免れることはできない。。

※ 本人が負う責任の内容 
相手方Cが損害賠償責任を選択→本人Aが責任を負うという結論にとくに問題はない。
相手方Cが履行責任を選択  →相続前には本人は追認を拒絶して相手方の履行請求を拒めたのに、相続という偶然の事情によって相手方の履行請求を拒めなくなるのは不合理である。そこで無権代理人を相続した本人は、無権代理人の責任を負うとしつつも、原則として相手方からの履行責任の追及を拒める。CはAに対して損害賠償請求はできても、土地の引渡請求をすることはできない。

※ 参考判例―他人物売買のケース(最大判昭49.9.4)
不動産の権利者Aでない者Bが自己の名義で(Aの代理人としてではなく)その不動産を売却した後に、AらがBを相続したという事案で、権利者Aは相続後も権利の移転につき諾否の自由を有し、信義則に反するような特別の事情のないかぎり、売主としての履行義務を拒否できる。

6 第三者による無権代理人と本人の相続

【設例⑥】(最判昭63.3.1)
A所有の土地をその妻BがAの無権代理人として売却した。その後、無権代理人Bが死亡して本人Aと子のCが相続し、さらに、Aも死亡してCが相続した。この場合において、Cは本件売買の追認を拒絶することができるか。

無権代理人を本人とともに相続した者がその後更に本人を相続した場合を、無権代理人が本人を相続した場合と同様に考えて、この場合においては、相続人は本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく、本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずる。

無権代理人を相続した者は、自らが無権代理行為をしたわけではない。それにもかかわらず、判例が無権代理人を相続した者を無権代理人と同視するのは、「無権代理人を相続した者は、無権代理人の法律上の地位を包括的に承継する」という理由にもとづく。


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