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民法 時効 総則(144-161)

(時効の効力)
第百四十四条 時効の効力は、その起算日にさかのぼる。

(時効の援用)
第百四十五条 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)
が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

(大判明治43年1月25日)
当事者とは時効により直接に利益を受ける者、すなわち権利を取得し、消滅時効により権利の制限又は義務を免れる者をいい、間接に利益を受ける者は当事者ではない



第146条(時効の利益の放棄)
 時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。

★ 時効の完成猶予・更新(147~153)

時効の完成を阻止するため、時効の完成猶予と時効の更新の2つの制度が設けられている。

① 時効の完成猶予
 時効の進行が停止すること。この間は時効は完成しない。

② 時効の更新
 時効のカウントがゼロとなり、リセットされて新たに時効が進行する。

(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十八条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
(仮差押え等による時効の完成猶予)
第百四十九条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
一 仮差押え
二 仮処分

第150条(催告による時効の完成猶予)
1 催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。

(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
第百五十一条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
4 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
5 前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。
(承認による時効の更新)
第百五十二条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)
第百五十三条 第百四十七条又は第百四十八条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
2 第百四十九条から第百五十一条までの規定による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
3 前条の規定による時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
第百五十四条 第百四十八条第一項各号又は第百四十九条各号に掲げる事由に係る手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、第百四十八条又は第百四十九条の規定による時効の完成猶予又は更新の効力を生じない。
第百五十五条から第百五十七条まで 削除
(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予)
第百五十八条 時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。
(夫婦間の権利の時効の完成猶予)
第百五十九条 夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
(相続財産に関する時効の完成猶予)
第百六十条 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
(天災等による時効の完成猶予)
第百六十一条 時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため第百四十七条第一項各号又は第百四十八条第一項各号に掲げる事由に係る手続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から三箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。



※承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。(152-2)

裁判上の請求等(第147条)
1 裁判上の請求
2 支払督促
3 訴え提起前の和解・民事調停・家事調停
4 破産手続参加、再生手続参加・更生手続参加

強制執行等(第148条)
1 強制執行
2 担保権の実行
3 担保権の実行としての競売
4 財産開示手続・情報取得手続

仮差押え等(第149条)
1 仮差押え
2 仮処分

(大判大正12年3月26日)
時効の援用を裁判上で行使する場合は、事実審の口頭弁論終結時までにする必要がある。

(大判昭和14年3月29日)
時効を援用せずに後から別の訴訟で援用をすることは許されない。

(最判平成11年11月9日)。
 破産免責決定の効力を受ける債権については、債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなるため、『権利を行使することができる時』を起算点とする消滅時効の進行を観念することができない。したがって破産者が免責決定を受けた場合には、その免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時効を援用することはできない。

(最判昭和10年12月24日)
時効期間が満了していれば、いつでも直接時効の利益を受ける者は裁判上たると裁判外たるとを問わずいつでも時効を援用することができ、いったん援用があると時効による権利の取得は確定不動のものとなる。

(最判平成13年7月10日)
 時効の完成により利益を受ける者は、自己が直接に受けるべき利益の存する限度で時効を援用することができる。したがって被相続人の占有により取得時効が完成した場合において、その共同相続人の1人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができるにすぎない

第150条(催告による時効の完成猶予) 
① 催告があったときは、その時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効の完成が猶予される。
② 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、時効の完成猶予の効力を有しない。
この場合の「催告」は裁判外で行われる請求を指す。
催告は特に形式を要求されていないので、普通郵便でも法律上は効力を有するが、内容証明郵便にすることによって文書が証拠として残るので望ましい。
6ヶ月の完成猶予と効果は極めて弱いが、簡便な手続きであるので、訴訟の前提として実務上よく行われる。
また、催告は時効の完成が猶予されているだけなので、その6箇月の期間内に訴えの提起等の所定の法的手続をとらないと時効の更新の効力は生じない。

第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予) 
① 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、時効の完成が猶予される。
② 時効の完成が猶予されている間にされた再度の合意は、時効の完成猶予の効力を有する。
 ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。
③ 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた合意は、時効の完成猶予の効力を有しない。時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
④ 合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなす。協議の続行を拒絶する旨の通知についても準用する。

第153条・第154条(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲) 
① 第147条又は第148条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
② 第149条から第151条までの規定による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
③ 承認による時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。(相対効)
④ 第148条第1項各号又は第149条各号に掲げる事由に係る手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、第148条又は第149条の規定による時効の完成猶予又は更新の効力を生じない。

第158条(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予) 
② 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から6ヶ月を経過するまでの間は、その権利について、時効の完成が猶予される。

第159条(夫婦間の権利の時効の完成猶予)
 夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効の完成が猶予される。

第160条(相続財産に関する時効の完成猶予) 
 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効の完成が猶予される。

第161条(天災等による時効の完成猶予) 
 時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため、時効の完成猶予の手続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から3箇月を経過するまでの間は、時効の完成が猶予される。

(最判昭和61年3月17日)
時効による債権の消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずる。

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