星渡りの夜

桟橋から次々と舟が出て行く。
私はその様子を眺めながら願うのだった。
行き着く先にどうかまた、君が居ますようにと。

月の宴の祝いを終えて、夜空の海は静けさを取り戻していた。
それはそれは静かな夜。

程なくして、瞬く星々が一斉に歌い出す。

さぁ星渡りの夜の始まりだ。
さぁ舟を漕ぎ出せ。
新しい場所に祝福を。
新しいあなたに祝福を。

男はポケットの中から一枚の金貨を取り出した。

キプロスの金貨を、また巡り会う日まで大切に持っていよう。

月の宴の祝いの夜、2人で交わした約束を静かに思い出していた。


『私、貴方に出会えて幸せよ?』
あの夜の彼女の言葉を思い出す。

彼女はもう辿り着いただろうか。
僕は辿り着けるのだろうか。


そう考えている間に、男の順番がやってくる。


「さぁさ、お早くお乗りくださいませ。間もなく舟を出します」

男は舟に乗り込むと、夜空の海に手を浸した。

冷たくもなく、暖かくもない。
海の深い所で生まれた鼓動が、静かに伝わってくる。

「あぁ、もうじき私もそちらに行きます」
男は一言そう言うと、静かに眠りに落ちていった。


舟は次々と桟橋を離れていく。
乗る者たちの願いと共に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?