サブカルで学ぶ社会学④ 『サピア=ウォーフの仮説』 ~『METAL GEAR SOLID Ⅴ』より、スカルフェイスの語ったこと~


はじめに(注意書き)

はじめましての方ははじめまして。そうではない方はいつもお世話になっております、吹井賢です。

恒例となりました『サブカルで学ぶ社会学』、第四回です。
大学院時代に暇潰しで日本語検定を受けて準一級を取り(なんとマジ)、そもそもアニメに影響を受けて社会学を勉強しようと決意した吹井賢(なんとこれもマジ)が、社会学やその周辺科学、つまり、政治学・哲学・精神医学・文化人類学・等々に出てくる概念を、サブカルチャーを絡めつつ、分かりやすいが論文で引用すると怒られる程度にはふわっとした感じに、解説していこう、という記事です。

最初にお断りをば。

※あくまでも娯楽として楽しんでください。
※興味を持った概念については、この記事を読むだけではなく、信用に足る文献を読み、講義を受けることをお勧めします。
※そして僕に分かりやすく教えてください。

それでは始めます。



世界で最も面白いゲーム・『メタルギア』シリーズと、Ⅴの登場人物『スカルフェイス』

皆さん!
あの世界で最も面白いゲーム(と吹井賢が勝手に思っている)、『メタルギア』シリーズのコレクション版『METAL GEAR SOLID:MASTER COLLECTION』の発売と、『メタルギアソリッド3』のリメイクが決まりましたね!!

カッコ良く、でも悲哀に満ちていて、社会風刺が効いていて、けれども希望がある。
本当に素晴らしいゲームです。

皆さんの好きな作品はどれですか?

吹井賢はどうだろう……?
話としてはソリッド2ですが、印象深いのは無印『メタルギア』や、『メタルギア2』かもしれません。
昔はガラケーのアプリでできたんじゃよ……(ロッキングチェアに座って遠い目をしながら)。

『アシッド』も楽しかったですよね?


そんな『メタルギア』シリーズですが、私達、そして現代社会に対し、最も痛烈な皮肉を放ってきたキャラクターは誰でしょう?

そうですね!(若干不安)
『メタルギアソリッドⅤ』の敵役、スカルフェイスですね!


スカルフェイスは、Ⅴの前半では、謎に包まれた男ですが(何ならアメコミの怪人と紹介された方が納得できるデザイン)、ゲームを進めていくと、その正体、そして、目的が明らかになっていきます。
この正体目的本当にもう、滅茶苦茶面白いので、ここでは書かないでおきます。
(やってない人はやりましょう)

そして、スカルフェイスと言えば、この台詞でしょう。

「ある思想家は言った」
「人は国に住むのではない 国語に住むのだ」
「『国語』こそが 我々の『祖国』だ」

『METAL GEAR SOLID Ⅴ:TPP』より

そして、こう続けます。

「私の『祖国』(ことば)」
「私の真実は奪われたのだ」

同作より


スカルフェイスが言う”思想家”とは、ルーマニアの作家であり思想家、エミール・ミハイ・シオランのことでしょう。

僕はこの言葉を、父親の書棚にあった藤原正彦『祖国とは国語』という本で知りました。
イカしたタイトルを付ける人だなあと思っていたのですが、あとがきを読むと、

「なお、題名の『祖国とは国語』は、もともとフランスのシオランという人の言葉で、それを私の敬愛する今は亡き山本夏彦さんが引用したのを、あまりにカッコよいので、ちゃっかり再引用したものである。」

藤原正彦著『祖国とは国語』
※なお、シオランはルーマニア出身だが、後年はフランスで過ごしている。

とあり、ズッコケたよね。
(確かにカッコいいけどもさ)



スカルフェイスの語ったことと、『サピア=ウォーフの仮説』

さて、スカルフェイスは前述の言葉を引用する前に、こんなことを言っています。

「……言葉とは」
「……奇妙だ」
「言葉が変わると 私も変わった」
「性格 ものの考え 善と悪」
「戦争にこの”外見”を 変えられたよりも 深く」

『METAL GEAR SOLID Ⅴ:TPP』より

「私は言葉に支配され 言葉は私の内(なか)に寄生した」

同作より

このように、スカルフェイスは、「使う言葉に思考が影響を受ける」というような考え方を持っており、また、それを実感として理解しています。
だから彼は言うのです、「人は国に住むのではない 国語に住むのだ」と。


もしかすると、荒唐無稽に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は彼の語った考え方は『言語的相対論』あるいは、『サピア=ウォーフの仮説』と呼ばれ、言語学や文化人類学の分野では有名なものです。
僕の持つ辞典では、こう定義されています。

「言語学者サピアと人類学者ウォーフによって提唱された言語相対主義の仮説。」
「この仮説では、ある個人の世界認識や思考様式は、その個人が属している共同体のもつ言語によって大きく影響されることが主張される。」

有斐閣『社会学小辞典〔新版増補版〕』より

そして、このように続きます。

「すなわち、さまざまな言語によって把握される『現実』は必ずしも同一ではないことが主張される。」

興味深く、そして、同じだけ恐ろしいと思いませんか?
サピア=ウォーフの仮説が正しければ、私達は、「使っている言語が違う」というただそれだけで、同じ現実を見ることができないのかもしれないのです。

『国語』こそが我々の『祖国』。
祖国が違えば文化が違い、宗教が違い、正義が違い、そして祖国に、私達は影響を受け続ける。
スカルフェイスが語ったように。



言語によって違う現実――『メタルギアソリッドⅤ』のテーマに思いを馳せながら

……最後に一つ、面白い話を紹介しましょう。

皆さんは『鉤十字』をご存知でしょうか?
ナチスドイツが党のシンボルとしていたマークです。
『ハーケンクロイツ』とも呼ぶので、世界史でそちらの名称を覚えた方もいるかもしれませんね。

戦前・戦中のナチスの蛮行の反省と被害者への配慮から、ハーケンクロイツ自体が規制されている国や地域もあります。
(割を食って、卍も規制されたりするとか……)
(おいおい、寺の地図記号書きたい時にどうすんだよ)


ちなみにこの鉤十字、英語では『Swastika』と呼ぶそうです。
スワスティカ、つまり、卍という意味ですね。

『ハーケンクロイツ』は、『ハーケン』+『クロイツ』。

”ハーケン”は『鉤』という意味。
『コードギアス』シリーズで「スラッシュハーケン」というものがありました。

そして、”クロイツ”は『十字』です。

ですから、日本語だと『鉤十字』と呼ばれるわけです。


……アレ?と思いませんか?

そう、同じ記号のことを、英語圏では「卍の一種」と認識し、日本語圏では「十字の一種」と認識している。
どちらも間違っていないのに、現実が、違っている。


僕達日本人も、そして、欧米の人々も。
占領地に自国の言葉を強制した歴史を持つ国の人間として、言語については、色々と考えないといけないのかもしれませんね。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


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最後に宣伝!

吹井賢、ゆる言語学ラジオが好きな友達と『虐殺器官』を見ていた際、
「サピア=ウォーフの仮説なんてデタラメだ!」
という台詞が出てきたんですが、友達と一緒に猛然と反論していました。

あ、あと『破滅の刑死者』の合冊版が出たのでよろしくお願いします。

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