見出し画像

二択の日々

寝るか、弾くか。

この二択に迫られる夜は多い。仕事・用事・食事など、生活の事柄を全て終えると、完全フリーの時間が夜9時以降にしかない。そんな日はサラリーマンのギター愛好家にとっては当たり前だろう。むしろ、「ちょっと弾く時間があるだけ良いじゃないか!」と怒られそうである。

先月下旬から今月末にかけて仕事量が増えているので、スケジュールの管理・調整に頭を使っている。そして、音楽制作に集中できる年末年始を過ごすためにも、多少の無理をしながらでも「仕事をすべて年内に片付ける!」というパッションを珍しく抱いている。ある芸人のように胸を強く叩いて気合いを入れる真似はさすがにしない代わりに、PCのキーボードを快速で叩いている。

仕事の効率を少しでも高めたい気持ちがそうさせるのか、動画メディア『PIVOT』で今まではスルーしていたタイプの動画を移動や食事の時間に見るようになった。例えば、昨日見たのは『世界の一流は「休日」に何をしているのか?』という著作を先月発売した越川慎司さんの出演回。もちろん私は世界の一流など目指してはいないし、スタートラインにすら立っていないことは自覚している(笑)ただ、"時間の使い方"には関心があるので、とりあえずの精神で動画をクリックした。

その動画の中で"入眠方法"に言及している時間があり、「生理学上一番入眠しやすいのは午後10時~10時半」と越川さんが述べていた。それと同時に、「頭が冴える夜9時に何もしないという睡眠準備こそが大事」という点も加えていた。世界的な睡眠学者の柳沢正史さんも同様の話をしていたような気がするが、夜9時に何もしない行動を実践したことはほぼなかった。逆に、夜9時に少しの眠気を我慢しながら約1時間の練習をした後、体は疲労を感じているにもかかわらず、眠気が吹っ飛んでしまう経験を何度も味わっている。そして、そんな日はスリープ:インポッシブルのほぼ徹夜状態で、早朝から昼過ぎまでラジオ仕事をしている。

昨夜はちょうど夜9時に完全フリーになった。夕方前に用事で出掛ける直前、3ヶ月ぶりの弦交換をしたぐらいで、ギターの練習はまだしていない日だった。ここで、冒頭の二択が頭によぎった。寝るか、弾くか。もし、翌日の午前中にラジオの仕事を済ませると、その日はレッスンが夕方のみになるので、ブログを書く時間が作れるかもしれない。そして、そのブログを書く時間は他の日に作れそうにない。ちょうど塾で中3に仮定法を教えているが、「If I had more time, I could write an article.」と友人に愚痴を言うのは避けたい。タラればの話でストレスを発散するよりも、時間の捻出に心を割く方がクリエイティブだと思うので、今回は少し迷いながらも睡眠を選択した。つまり、ギターの練習を全くしない日となった。

これで生徒さんに「毎日練習しましょう!」と言えなくなったが、まるで睡眠だけは世界の一流かのように、夜10時半~朝5時に行うことができた。そのため、ラジオの仕事も朝方にすべて終えることができた。仕事を予定よりも早く終えた後のモーニングは格別だった。目玉焼きやハムがいつもより美味しく感じた。とはいえ、昨日練習しなかった後悔は少しだけ尾を引いているので、このブログを書き始める前に、モチベーションの充電が必要になった。さすがに土曜日の朝からビジネスマン向けの自己啓発はイヤ。こんな時は音楽を家でゆっくり聴くか、オードリーのANNを聴きながら散歩するか。

また別の二択が思い浮かんだわけだが、YouTubeのアルゴリズムに任せるという怠惰な思考で、二択ルーレットをだらだら回していた。そのルーレットを止めたのがある弾き語りの映像だった。

民謡好きの私は「常盤炭坑節」のタイトルが再生ボタンを押すきっかけになった。福島県浜通り南部から茨城県北部にかけて伝えられている民謡で、Wikipediaによると「常磐炭田で働く坑員や女性選炭員によって歌われ出したのが始まりで、お座敷唄として酒席などでも歌われるようになり、やがて筑豊の「炭坑節」とともに有名になった」と説明されている。歌っている井上園子さんは初めて知った。どうやら1998年生まれらしい。しかも、音楽活動の開始は2022年で、バイト先のライブハウスの店長の一声がきっかけだとか。

画面越しではあるが、曲前の出で立ちや所作から特有の空気を感じる。イントロの始まりは低音のフレーズというアコギ弾き語りでは珍しい演奏。また、歌のキーに合わせて民謡の濃度を高めるためか、1・6弦は通常のE(ミ)より1音下げたD(レ)の音になっている(多分オープンDチューニング)。低音のフレーズがその6弦Dの音に終止する直前のE♭はそのエグみを際立たせるように、ビブラートも強烈にかけている。これだけの演奏でも十分痺れたのだが、最初の一声でガッチリ心を鷲掴みにされてしまった。極上の土香るフォークだった。

個人的には最後のエフェクターは無しの方が好みだが、それはどうでもいい些細なことで、間違いなく今後もその音楽に耳を傾けるだろう。30代半ばでアンテナが鈍くなったように感じる今、「これからも聴き続ける人」に出会う時間は本当に有難い。

家にある民謡関連本の一部

いいなと思ったら応援しよう!