採用母集団形成における「転職意欲」の違いを追求する┃スカウトメール内容の考察
今日、日々の採用母集団形成に苦労されている人事担当者やリクルーターに向けて、私が考え続けている「転職意欲の違いに基づくダイレクトスカウトメールのコミュニケーション戦略」を共有したいと思います。
格好言葉で銘打っていますが、これまで漠然と自分だけのノウハウとして持っていたことを、明文化することで、自身の気付きにもなることを期待しています。
例えば、転職サービス(BizReachなど)に登録している人々は、実際に転職活動を始めているか、それを検討している転職意欲が高い人たちです。
一方、LinkedInやYoutrustなどのSNSに登録している人は、必ずしも転職を考えているわけではなく、自分のネットワークを広げるために利用している場合が多いです。
これらの違いを深く理解した上で、相手の転職意欲に合わせたメールを作成することが、最終的な応募(母集団形成の成功)に繋がると信じています。
本記事では、転職意欲の違いに基づき、転職サービスやSNSでメールを送る際のコミュニケーション戦略を語ります。特に学術的理論に基づくインサイトを重点的に提示します。
転職意欲の違いとその特長
転職意欲の違いを理解するためには、先に個別のプラットフォームの特長を見ていきましょう。
1. 転職サービスの個性 (例: BizReachやdodaなど)
- 目的従順型: アクティブ層
転職活動を始めているため、効果的な情報提供を必要。
- 行動特性:
直接実践に繋がりやすいが、他社との競合になりやすい。
2. SNSの個性 (例: LinkedIn, Youtrustなど)
- 潜在意欲型: 潜在層
転職の意欲ははっきりしていないが、キャリアアップに関心がある。
- 行動特性:
アプローチの巧妙さが叩き起こせれば、中長期的な関係構築が可能。
スカウトメールの構成戦略
スカウトメールの作成は、目的によって大きく方針が変わります。特に、転職サービスを利用している「アクティブ層」とSNSを利用している「潜在層」では、情報の必要性やアプローチの方法が大きく異なります。
それぞれのタイプの候補者にとって最適なメールの作成方法があり、ひな型として下記を意識しています。
転職サービス向け(アクティブ層)
1. タイトル
転職サービスを利用する候補者は、すでに転職意欲が高く、目的意識が高いのが特徴です。これを考えると、タイトルは平凡なものではなく、より共感を引き起こすものが適切だと考えています。
例:【年収1,000万円可】リモート可能なプロジェクトマネージャー職募集
2. コンテンツ
ポジションの詳細を明確に説明するとともに、弊社が履行する価値を語ることで、候補者に実際に動く勢いを与えることができます。
例:上位20%のパフォーマーとなる機会です。
3. CTA
アクティブ層へのメッセージ表現(言い方)は直接的であるほど良く、対象者に自分が精選された感を与えることが重要です。
例:「〇〇の経験を活かすこの機会を見逃さずに、すぐご連絡を」
SNS向け(潜在層)
1. タイトル
SNSの個性に合わせて、柔らかい表現で気込みを作ることが重要です。通常「潜在層」は直接的な言い方よりも、自分について考えさせるようなメッセージに興味を持つことが多いと考えています。
例:次のキャリアの可能性を広げてみませんか
2. コンテンツ
個人の経歴やスキルをリサーチし、その人だけに向けたように書くことが大切だと考えています。
例:noteの記述を拝見し、これまでのご履歴に感銘しました。
3. CTA
行動のハードルを低くし、「とりあえず話してみる」という小さな歩を提案するのが良い方法です。カジュアル面談は応募を悩んでいる層に対して有効な施策ですが、転職未検討層に対する実施が最も有効だと考えています。
転職を考えていなかったのに、ヘッドハンティングされた!というイベントが候補者の中でポジティブに働くことが多いと考えています。
例:「カジュアルに一度ご話ししませんか」
これらのストラテジーを適切に実行することで、そのタイプごとに最適化されたメッセージを送ることが可能になり、応募までの成功率を大きく向上させることができる傾向にあります。
学術的理論を抽出し、スカウトメールに活用する
スカウトメールの戦略を設計する上では、学術的理論を実践に繋げることを重要視しています。
候補者が行動に起こしてくれるには?やスカウトメール受信後の遷移率の効率を理解するために学術的理論を出来るだけ取り入れようと心掛けています。基本的な取り入れている理論を解説しつつ、それらをスカウトメールにどのように活用できるかを解説します。
1. 社会的交換理論
人間関係やキャリアデザインは「交換」に基づいています。「いい職場を提供するから、大変な仕事だけどコミットしてくれる」という交換関係になるといったことを理論化されている内容です。
スカウトの訴求メッセージを設計するときに、例えば、「誰でもできる仕事」ではなく、「あなたの経験がここには実る」という親和性を追求しています。
2. 行動経済学の活用
ナッジ理論は「行動をさりげなく促す」方法です。
メールの中では、「まずはカジュアルに会話してみる」「とりあえず返信してみる」という小さな行動を提案することで、親和性を広げられます。
goodのスタンプだけでも大丈夫です。こちらから連絡しますと記載したときの遷移率は高いものになりました。
3. 認知負荷理論
メール内容を過度に載せず、明確で簡潔なメッセージを送ることで、読み手のストレスを低減できます。
「一言で言うと…」というストーリーテリングはこれの代表例ですし、長文のスカウトよりも200文字程度のコアメッセージを伝える方が好まれると考えています。
X のポストくらいの量でまずは伝え、興味があれば下部に詳細を記載しておくくらいが丁度いい塩梅でしょう。
4. モチベーション理論 (Vroomの期待理論)
求職者が行動を起こすためには、
「努力すれば結果が得られる」という期待感
「結果が価値あるものだ」という確信
「努力が成功に繋がる」という信頼感
を構築することが重要です。これを意識して、具体的な報酬(例: キャリアアップ、収入増)を伝えることが有効です。期待値を調整するというコミュニケーションは日常的に行っていると思いますが、上げ過ぎてもダメ。下げ過ぎてもダメ。経験で理解できる部分もありますが、前提としては期待値を組織で明確に出来ていないケースの方が多いです。ジュニアレベルの採用担当にも分かる期待値を作成することで、組織的な採用活動が上手く回ります。
5. AIDAモデルの適用
マーケティングの世界で広く使われるAIDAモデル(Attention, Interest, Desire, Action)は、求職者の心を動かすプロセスを理解するのに有用です。
Attention (興味を引き起こす):視覚的に相手の興味を引くタイトル。
Interest (関心を引き起こす):プロフィールに基づいたカスタマイズされた内容を提供。
Desire (欲望を促す):ポジションの魅力やキャリアパスの可能性を強調。
Action (明確な行動の提案):下記の行動を倡喚するコールトアクションを設計する。
あくまでも一例ですが、採用界隈で語られている常識を理論に当てはめることで、+@の施策として落とし込むことができ、納得感ある行動に変革することができます。
そこまで考えないでも、、、という意見もありますが知っているが無視することと、知らないことには雲泥の差がありますので、頭の片隅に置いていただければ。
おわりに
スカウトメールの作成は、趣向ではなく、理論と実践に基づく設計が重要だと考えています。
考え方の基本を記載しましたが、これらの方法を実践しながら、A/Bテストのようなデータに基づく改善を繰り返すことで、さらに効果的なアプローチが可能になります。
採用を科学するデータドリブンな戦略アプローチを活用し、より多くの優秀な人材を引き寄せ、採用成功を収めてください。