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vol.1 避けられない労働力人口の減少
労働力人口の減少の危機と労働需給の変化を正しく把握しよう
(※労働力人口とは、15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口で、就業者(学生)や高齢により労働できない者は除く)
コロナ禍により、日本をはじめ世界中でとてつもない経済状況の変化が起こりました。
こういった状況で今、日本の人事担当者は何を考え、どう行動すべきなのか。
人事担当者はもちろん、人材の獲得に苦戦している経営者にも有益な情報を少しでもお届けできればと思い、採用や人事制度など幅広く人事に関わる内容を解説していきます。
みなさんは「経済状況の変化」をどのように解釈されているでしょうか。
経済状況の変化は、大きく2種類あります。
1.短期的な経済状況の変化
2.中長期的な経済状況の変化
前者は、リーマンショックなどの一時的な経済の後退。
そして、日本国内でいうとアベノミクスや東京オリンピックなどによる景気変動。もちろんコロナショックも含まれます。
一方、後者は少子高齢化に伴う労働人口の減少などが当てはまります。
「人口ボーナス」と「人口オーナス」
「人口ボーナス」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。
総人口に対して、労働生産人口の割合が高くなる状態です。
現在は東南アジア各国など、新興国がこの状況にあります。
では「人口オーナス」という言葉を聞いたことがある人はどれくらいいるだろうか?
人口ボーナスの対義語として用いられることが多く、まさに今の日本の状況そのものです。
1950~1970年頃、出生率の高かった戦後、多くの若い労働者が日本の発展に大きく貢献してきました。
団塊の世代とも言われますが、そんな世代が高齢化し人口ボーナス期はとっくに終わり、1990年頃から日本では人口オーナス期に突入したと言われています。
こういった構造的な社会の変化が原因となる景気変動は、数年で回復させられるものではありません。
では、人事部に話を戻しましょう。
こういった状況の中で今、日本中の人事担当者は、いったい何を考え、どのような人材をどのように採用し、どのように育成していくべきなのか。
労働市場の減少により、ほしい人材を、質的にも量的にも確保することは非常に困難な状況に置かれており、課題は山積みです。
ご存じの通り、これまでの日本では一般的に新卒一括採用により、総合職として様々な部署を経験させ長期間育成することで、幹部候補として終身雇用していくことが当然とされてきました。
そしてその主役は男性であり、多くの女性にはチャンスがありませんでした。
このような、当時から続いた日本特有の人事制度の仕組みは完全に崩壊しており、すでに通用しなくなっています。
労働力不足による人材獲得競争の激化
前述したように日本ではすでに労働力不足が深刻化しており、それに伴い一部の業界では特に人材獲得競争が激化しています。
建設業・サービス業・運輸業など、現在その業界に身を置いている読者であれば人手不足や高齢化を痛感していることでしょう。
労働力不足は深刻な経営問題であり、これまでのような人事管理の方法ではまったく対応できなくなっています。
そんな状況に追い込まれてまずやることと言えば、給与水準の引き上げです。
厚生労働省により、過去の全国最低賃金が公表されています。
2022年から過去15年間の変化は以下のようになっています。
2022年 930円
2017年 848円
2012年 749円
2007年 687円
なんと10年前から200円近くも時給が上がっているのです。
こういった話題はよくニュースでも報じられていますが、現実はまだまだ状況が改善したとは言えず、依然、厳しい状況です。
人件費の引き上げだけで人材獲得競争が解決したわけではなく、女性や高齢者、外国人など様々な層にアプローチが必要です。
人事管理にも多様性を
このような多様な層を獲得するために、現在の人事には人材の調達のための多様で複雑な管理能力が求められています。
女性の社会進出や障がい者雇用など「ダイバーシティマネジメント」と称して、これまでも行われてきました。
ですが、まだまだ短期視点の対症療法的なものでしかなく、ツギハギのような制度となっている企業が多いのが実情です。
これまでの「コア人材」といえば正規社員であり、会社都合で転勤もできる地域が限定されない人材でした。
いわゆる、それ以外の非正規社員や地域が限定されるような人材は周辺人材として労働市場では立場的にも弱者でした。
しかし、現代の日本ではプライベートで様々な事情・問題を抱えている人が非常に多く、そういった層も含めて「コア人材」として捉え、いかに戦力として活用していけるかがカギになります。
このように労働力不足はすべての企業にとって深刻な打撃を経営にもたらすこととなり、これまでの人事制度や管理方法を根本から見直す必要があります。
そのためにも自社の市場動向や労働需給の状況を把握し、柔軟に対処しなければ長期的に深刻なリスクを負うことになります。
こういった状況が、長らく不況にあえぎ、日本企業に課せられた大きな大きな課題です。
業界や市場はまだまだ安泰なのか。
若い人材の流入はあるのか。
柔軟な制度の変更が可能なのか。
読者のみなさんは、自分の会社は現在どのような状況に置かれているのか、現実をしっかり直視してみてください。