イシュタルの塔2 再構築と崩壊
イシュタル(Ishtar)
シュメール神話に登場する豊穣神イナンナの系譜と地母神の血を引く、メソポタミア神話において広く尊崇された愛と美の女神。戦・豊穣・金星・王権など多くの神性を司る。
シュメールにおける最上位の神々に匹敵するほどの信仰と権限を得た特異な存在。
おそらく農耕が始まる以前の地母神信仰において強い影響を持った女神であると思われる。
地母神信仰はしばしば母型社会を形成するケースがある。
当時は「生きづらい」と感じていたものの、自分の問題を自分で把握しきる事も出来なかったし、気分の突然の変調も「気まぐれなのだろう」くらいにしか思っていなかった。
妻と結婚した。
交際していく段階で、穏やかになっていく自分に気づいた。
心を預ける事によって穏やかな日々が得られるとは思っていなかったから「これが俺の探していた場所なのだろう」と感じていた。
妻と結婚するまで俺には故郷がなかった。
生まれた場所に懐かしさも郷愁も感じなかった。
人の中にいても居心地が悪く、いつも自分は「部外者」だと感じていた。
(今も若干そのケはあるが今は胸を張って「異邦人だ」と言える)
「ここではないどこか」に、生まれる前にいた場所、死した後行く場所。
今ではない時間、ここではない場所にしか俺の故郷はないと感じていた。
妻と出会ってしばらく経った時の事。
そうか!と膝を打ちたい気分になった。
ここではないどこか、今ではない時間に故郷を見つけた。
睦みあった後見つめあった時、妻の瞳の中に俺を見つけた。
「いた!俺がいた!その場所が俺のいつか帰る場所だったんだ!」
キザ?うるさいなぁ。
好きなんだよ、そういうノリが 笑
こうして俺は安定を得た。
かのように錯覚していた。
彼女を得た事によって、愛着の面では確かに安定していたのだ。
しかしそれは「祖母を失った世界」を「妻を得た世界」に再構築しただけだった。
本質は変わらない。
俺は妻を見ているようで、どこかで祖母の影を追っていただけだった。
頻度は減ったものの、何かの拍子に妻に心配されるので密かに自傷をしていた。
(今では「見捨てられ不安」を喚起されたり、実際の母親との記憶を無意識で感じての行動化だったと理解出来る)
今思うと養育者を再び見つけた子供となんら変わりはなかった。
その証拠に結婚して4年ほど経った時、転勤を言い渡され妻も当然勤めがあるので単身赴任となった。
それが決まった時、ひどく不安になり世界が終わった気がした。
正直に言うと死にたくなった。
彼女をベースに再構築した世界を失うのだ。
俺自身の世界が終わるのと同義だった。
栄転であったため必死だった。
自分を殺して。
苦しかった。
もともと回避性の愛着というか、一人の時間を愛する妻は俺ほどダメージを受けていなかった。それに少し憎しみを覚えた。
娯楽と酒に溺れる事でしか自分を誤魔化す事が出来なかった。
おそらくアルコール依存症だったと思う。
自傷も増えた。
3年の約束であったが2年延びた。
自分を殺し内世界は崩壊しているに近かったが、営業所を任された。
しかしそれがまずかった。
自分の事で精一杯なのに今までした事のない業務が山ほど降ってくればどうなるかは想像に難くない。
アルコールに依存していた事もあり、自律神経がおかしくなっていた。
突然涙が出たり狂おしい憎悪に駆られたり寝られなかったり、もの忘れが業務に支障を来たすほど酷くなったり。胸の奥に激痛が走ったり。
内科を受診した。
全く異常がなかった。
医師には「ストレスだと思われるので心療内科はどうか」「休職してはどうか」と言われた。休職は困るので上長に事情を話して、元の勤務場所に戻してもらった。
(前も言ったがそんな事になれば出世街道なぞ消えてしまう。塩漬けの窓際一歩手前の部署に配属になった。ま、今では超ラッキーだと思えるけど 笑)
地元の心療内科を受診し直した。
こうして俺の「闘病」は始まった。