危険すぎるイノシシの牙! 猪犬を守るための防牙ベストの世界
猪の牙から猪犬を守れ!
国内外を問わず猪猟において猪犬を使うとき、しばしば猪の牙にかかり、犬が受傷することがある。
せっかく猪が獲れても犬が怪我を負えば喜び半分、怪我の程度によっては全く笑えない状況で帰路に着くことになる。
そこでいつの頃からか、対猪用の狩猟犬のため「防牙ベスト」なるものが登場し始めた。現在(2018年)、日本で市販され、比較的容易に手に入る3種類(編集部調べ)をご紹介しよう。
犬は決して使い捨ての道具ではない。犬の成長や猟芸に合わせ最適な防牙ベストを選択し、愛犬を猪の牙から守ってほしい。
危険すぎる猪の牙
猪猟における犬の受傷の多くは、雄猪の下顎から突出している牙による突刺しと切裂きが主な原因だ。
猪は相手を攻撃する場合、突進したり首を捲り上げたりする際に、鋭利な下牙を武器にする(雌猪は牙が小さく、「咬みつき」が多いとされる)。
見切りを確実に行い、猪の雌雄や大きさ、数を判断して掛ける犬のタイプや組み合わせを選択することが理想だが、野生を相手にする以上、予想外のことは常に想定しておくべきだろう。
手加減無しの猪の一撃は犬にとって致命傷となる場合も多く、犬の防御力を高めておくことは非常に大切だ。
猪の牙は鋭利なナイフ
写真は雄猪の頭骨標本。下顎の大きな牙は、先が尖っているだけでなく、鋭利なナイフのように研ぎ澄まされている。
強靭な前脚の屈伸運動と首の振り上げによる「捲り」によって、動物の表皮や筋肉ぐらいは容易に貫き、切り裂くことができる。
腹部へのダメージは致命傷になる
猪は犬に多少咬み付かれた程度では怯むことなく下から犬を捲り上げるため、犬は猪との格闘で首から下腹部に掛けて広範囲に牙による受傷の危険性がある。
また腹側は毛も薄く臓器が集中しているため、致命傷となる場合が多い。
防牙ベストで致命傷を避ける
実猟時、猪犬を使って捕獲された雄猪口元の血には、犬の返り血も混じっている。犬が猪を追い詰めたものの、射獲の直前に牙により受傷した(犬はすぐに動物病院で治療を受け、その後、回復)。
猪の牙に掛かると「生身」の部分は全く耐えることができない。もちろん防牙ベストを着せることですべての受傷を防げるわけではないが、致命傷を治癒できる程度の傷にすることが期待できる。
防牙ベスト① KGS カットベスト typeR
『KGS カットベスト typeR』は猪の牙の突きに強く、かつ和犬・地犬が走れることをコンセプトに製作された防牙ベスト。ケプラー素材をクロスステッチ縫製でコーデュラ1000で挟み込み、牙が貫通し難い強固な構造になっている。
走る動作を妨げない立体裁断と縫製で、可動域の擦れを防ぐ。背面は3本のウレタンベルトで留める。ウレタンベルトは新品時、長めに製作されているので、犬の胴囲に合わせて余分を切り落として使用するとよい。
前脚裾のレッグフラップは、犬の動きやすさを確保しつつ、胸周りおよび前脚の間を効果的に守る。
防牙ベスト② スペクトラベスト
「致命傷となる切創を防ぐ」ことを目的とした防牙ベスト『スペクトラベスト』。高い耐切創性能を誇り、人間用の対刃防護衣などに用いられる「スペクトラ」生地で作られている。軽く、伸縮性・柔軟性に富み、険しい猟場を駆ける猪犬の動きを妨げない。
「スペクトラ」とは、米ハネウエル社が開発した超強度ポリエチレン繊維だ。アラミドの1.4倍、鉄の10倍の強度とされ、その強度と軽さから、防弾ベストや防弾盾に使用されている。
スペクトラ繊維で織られた生地は高い耐切創性を誇るとともに、伸縮性と通気性があるため、軍事・警察・警備従事者向けの耐刃インナーやアウターなどの素材に使われている
要所である首周りはスペクトラ生地に加えて「スーパーファブリック」で覆い、強化している。「スーパーファブリック」とは、高い摩耗強度や耐切創強度を持った特殊素材(ENISO 13997 テストおよび EN388 において耐切創、摩耗抵抗、引裂き抵抗などで最高レベルの性能評価を獲得)。表面は硬質な保護プレートで覆われており、小さな隙間のあるアーティスティックパターンが防汚効果と通気性を確保している。
首周りは強化マジックテープ、背部は強化マジックテープおよびベルト3本で固定。水・油・化学薬品などにも強く、家庭用洗剤での洗濯が可能など手入れが簡単。繊維を編み込んだ「生地」であるため、破れやほつれを自分で補修し、長く使うことができる。
防牙ベスト③ 大物猟犬用 防牙ベスト
『大物猟犬用 防牙ベスト』はハウンド犬種への使用を想定して製作されているため、小柄な犬や、日本犬にはやや大きめ。胴を覆うロングタイプだが、雄犬への装着を想定し、腹側下部(後脚側)はカットしてある。肩口から背中に掛けて4本のベルトで固定する。
(了)
狩猟専門誌『けもの道 2018春号』では本稿を含む、狩猟関連情報をお読みいただけます。note版には未掲載の記事もありますので、ご興味のある方はぜひチェックしていただければと思います。
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