【密着取材】ツキノワグマ穴撃ち猟 〜 熊犬と追う宮古の熊ぶち
取材・文・写真|佐茂規彦
宮古の熊ぶち
年の瀬迫る平成29年12月末。犬を使ってツキノワグマを獲っていると聞き、やって来たのは岩手県宮古市。本州最東端の町で今も続くツキノワグマの穴撃ち猟に同行した。
そこで見たものは熊猟に懸ける「熊犬」と「熊ぶち」たちとの素晴らしき共存関係だった。
食べるために獲る
取材初日は、大阪から宮古への移動で丸1日を費やした。その晩は早速、西村昭二さんの自宅敷地内にあるマタギ小屋での「前夜祭」に呼んでいただき、話を伺った。
西村さんは岩手県猟友会で青年部副部長を務め、県の狩猟セミナーなどでも講演を行う。何度も聞かれただろうが、熊撃ちを始めた理由を聞いてみた。
「単純な話。熊肉食ったら凄ぇ旨いんだけども、そこらで売ってねぇから、自分で『ぶ』って食おうって」
「ぶつ」というのは、宮古だけでなく古くから伝わる猟師用語の一つで、獲物を「撃つ」ということだ。「熊をぶつ(撃つ)」と言ったり、熊や猪を撃つ猟師たちのことを「熊ぶち」「猪ぶち」という。
グループで猟期中に獲る熊の数は14~15頭ほど。食べる分だけ獲り、獲ったら食べる。熊以外の獲物は回収できないときは獲らないが、熊はどんな所からでも回収する。皮は農家にあげるそうで、田畑に熊皮を吊るしておくと熊除けになるそうだ。
熊の穴撃ちと熊犬
この時期、熊は冬眠を始めて「穴」の中で寝ているので、そこを狙って獲る。
「穴」というのは、岩場の隙間や、大木に出来た樹洞のことで、そこに熊は入り込み冬眠する。雄熊は比較的冬眠開始が遅く、眠りの浅い熊も多い。熊を獲るためには、山を知り、熊の習性を知る必要がある。
「穴に入っている熊を犬を使ったりして探して、あとは何とかして穴から追い出すんだけども、穴から出て来ないときは、中にいるまんまで『ぶ』つんですよ」
熊がいると分かれば穴に上半身を埋めて、穴の中でスラッグ弾を熊に見舞う。経験豊富な「熊ぶち」である西村さんは、相当に危険な行為をサラリと説明する。
銃はベネリM3の12番。26インチ銃身は穴の内壁につかえて熊を撃てなかったことがあったため、現在は20インチのスラッグ銃身を使い、確実に頭を狙えるようになったそうだが、「そういう問題なのか?」と話を伺いながら苦笑せざるを得ない。
熊を探してくれる「熊犬」には特定の犬種を選んでいるわけではなく、実猟で良い仕事をする犬を繁殖に使用している。
熊狩りのための犬の仕込み方というものも特に存在せず、基本的に山で全てを仕込む。若犬は先輩犬につければ、自然と狩りを理解する。人間が熊の穴を先に見つけたときは若犬を呼び寄せ、穴のニオイを確認させたりもする。
そして犬を連れて行くが、猟場で犬を掛ける「勢子」という役目もない。
「皆、同じ立場で『熊ぶち』だ」という西村さん。「熊ぶち」たちは全員が犬とともに歩く。タツマ(待ち役の射手。「待ち」「タツ」など)も無ければ、勢子も無い。
全員が山を見て、犬を見て、穴を探す。
熊ぶち1日目
はじめての熊ぶち
「熊ぶち」取材の初日は、西村さんのマタギ小屋に集合し、そこから車で奥山へ進むこと1時間。雪はほとんど積もっておらず、天気も良い。ただ乾燥した風が強く、平地での最高気温が5℃ほどなので、猟場の体感温度はかなり低い。
人は6名で犬は4頭。車を停めるとそこから先は歩いていくしかない林道が続き、身支度を整え出発する。犬にはGPS発信機もマーカーもつけていない。防牙ベストもない。
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