僕のくくりわな的思考回路
文|千松信也
昨秋の狩りはキノコから
去年の秋は例年に無いくらいの雨続きだった。普段なら、日本海に素潜りに行ってイシダイやキジハタを突き、川を下るモクズガニを狙う秋。猟期の直前まで、震えながら11月の川に入って、落ち鮎を巻き網で捕るというのが定番だ。しかし、昨秋はあまりの雨でほとんど海にも川にも行けなかった。
〈こんだけ雨が降ったらキノコはようけ出てるんちゃうかあ〉
猟欲が満たされず、欲求不満だった僕は、仕方なく去年の秋はひたすら山に入った。
僕はキノコに関しては全然詳しくなく、分かりやすいものしか採らない。本格的に勉強するのは老後の楽しみでいいか、くらいに思っており、裏山での薪集めや猟のついでに見かけたら採って来る程度だ。
ありがたいことに去年のキノコは発生時期が全体的に遅れ気味で、普段ならとっくに時期が過ぎているアカヤマドリが大量に採れた。
アカヤマドリはイグチと呼ばれる種類のキノコで、色合いが派手。似た毒キノコもなく、すごく大きくなるので間違えようがない。そして、ヨーロッパの方で人気のあるポルチーニ茸の親戚みたいなものなので、とても美味しい。
ちなみに、わな猟と比べると、キノコ狩りの方が断然奥山の方に入って行く。
なぜなら、わなというものは一度仕掛けたら大原則として毎日見回らないといけないし、獲物が掛かっていたら、軽トラを停めてある林道まで一人で引き出す必要がある。つまり、設置段階で搬出ルートをイメージしておく必要がある。
こういうことを考えると、たとえ奥の方にすごく良いけもの道があったとして、そうそう気軽にわなを仕掛けられない訳だ。
それに対してキノコ狩りは、その日限りの勝負になる訳で、昨秋は自分の猟場のまわりを中心に、かなり広範囲に山を歩いた。
キノコ狩りでも、毎年行くような山では発生場所もだいたい絞られて来るが、初めて行くエリアでは条件の良さそうな場所をひたすら探すしかない。
気になるツキノワグマの動向
「うわ、またあった!」
キノコではなく、クマの糞だ。
色んな場所で毎日のように見つけた。ちょうど柿の時期だったので、ほとんどの糞に茶色い種が混じっていた。
実は、一昨年の夏頃に裏山で2頭の当歳仔を連れたクマを確認している。自分の猟場ではだいたいクマが来る場所は決まっているので、糞を見つけても驚くことはない。
ただ、昨秋のキノコ狩りでは猟場を離れて色々と歩いたので、「こんな住宅街のすぐ裏にも来てるのか」とびっくりするぐらい、民家スレスレのけもの道でクマの糞と足跡を見つけたこともあった。
せっかくなので、見つけるたびに糞のサイズや木に登った爪痕なんかも丹念にチェックした。
どうやらその親子熊と思しき、大きさの異なる個体が2頭いるように思えた。子熊の方はその気配の濃さから判断して2頭ではなく1頭のようだったが、正確には分からなかった。
僕がわなで狙うのはシカとイノシシなので、クマは狩猟の対象外だ。
ただ、全国的にクマは増加傾向にあると言われており、お隣の兵庫県でも20年ぶりにクマ猟が解禁になった。僕の暮らす京都府でも2017年度からの解禁が検討されているという。
確かに近頃は僕の猟場周辺でもちょっとクマが増えている印象はあり、ここ何年かは痕跡があれば気にして見ることにしていた。
近年のシカ・イノシシの増加でクマの肉食傾向が強まっているという話がある。
実際に僕も林業ネットに掛かって死んでいるシカをクマが食べた跡は何度も見ているし、他地域ではくくりわなに掛かった生きているシカをクマが襲っているという事例もぼちぼちと報告されている。
これまでは飼っているミツバチの巣箱が襲われるくらいで、僕のわな猟とクマはあまり関わりがなかったのが、近頃はそうも言っていられなくなって来ている(ちなみに、クマ猟が可能な都道府県であろうとも、わなによるクマ猟は鳥獣保護法により禁止されている)。
勝負を左右する猟場の下見
さて、秋のキノコ&クマ糞探索のおかげで、今回は例年になく猟場の下見をしっかり行い、余裕を持って猟期を向かえることが出来た。
実はくくりわな猟でいちばん大切なのは、この「猟場の下見」である。
わなを仕掛ける技術なんてものは、数年しっかり猟をやれば、ある程度の水準には誰でも達することが出来る。つまり、どこにわなを仕掛けるかをちゃんと見極めることが何より重要であり、わなを仕掛ける前の時点で8割方勝負は決まっていると言っても過言ではない。
ここで僕が言う “猟場” というのは、「これまでわなを仕掛けて獲物を獲ったことがある場所」くらいの意味である。
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