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新たな脅威となったアライグマ 〜 外来生物の現状と対策

本稿は『けもの道 2019春号』(2019年4月刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


写真は京都市内某寺内で撮影されたアライグマ(写真提供:川道美枝子)

脅威となった外来生物アライグマ

2018年10月、猟期直前に世間を最も賑わせた野生動物は猪でも鹿でもなく、東京都港区赤坂の繁華街に突如現れた1匹のアライグマだった。

赤坂警察署の警察官や東京消防庁の職員ら多数が出動する大捕り物となり、夜の繁華街は一時騒然となった。

この個体は発見から数時間後に “逮捕” されたものの、近年、アライグマ被害が都市部近郊で顕著になっている。日本における野生化したアライグマの現状とその対策について、専門家に聞いた。

取材|佐茂規彦

お話を伺った人|川道美枝子さん
理学博士。関西野生生物研究所(京都市)代表。2002年に関西野生生物研究所を設立。2005年から京都市でアライグマ対策に従事し、神社仏閣の建造物被害を減少させるなど成果を挙げている。

アライグマ野生化の今

「日本にはすでに野生化したアライグマが年間約4万頭ほど捕獲されています」と、なかなか驚愕の数字をサラッと説明してくれたのは、関西野生生物研究所代表の川道美枝子さんだ。

川道さんはアライグマやリス類の研究をしながら、京都市内におけるアライグマの生息調査や対策事業を引き受けている。

アライグマの生息に関する全国的な資料としては、10年以上前のものだが、平成18年度自然環境保全基礎調査種の多様性調査(アライグマ生息情報収集)業務報告書に、全都道府県から合計1812市町村を対象にアンケート調査を実施した結果がまとめられている。

その結果、アライグマの生息情報が寄せられた市町村はほぼ全国に見られるが、近畿で70.8%(167市町村)、北海道で47.8%(86市町村)、関東で39.2%(133区市町村)と、この3地方ではかなり生息域が広がっていることが分かった。

平成18年度「自然環境保全基礎調査 種の多様性調査(アライグマ生息情報収集)業務報告書」より抜粋

特筆すべきは、兵庫と和歌山では全ての市町村(100%)で分布情報があり、近畿地方ではかなり広範な広がりを見せていることだ。

日本でアライグマが野生化した最初の事例として記録に残るものは、今から60年近く前、1962年に愛知県犬山市の施設から12頭が脱走したものと言われている。

その後、1977年1月から12月まで全52話で放映されたテレビアニメ「あらいぐま ラスカル」が人気を呼び、さらにエキゾチックアニマルブームなども影響し、北米からペットとして多数が輸入された。

アライグマの顔の特徴は、目から頬にかけて帯状に黒く、鼻筋も黒い(タヌキは頬が全体的に黒い)。尾は太く7本程度の縞模様がある(写真提供:川道美枝子)
手の形は人間と似ており5本の長い指がある(写真提供:川道美枝子)

一方、日本におけるアライグマ規制に関する法整備は、2000年に狂犬病予防法による動物検疫対象に指定されたことによる輸入規制が初めてであり、それまでに日本に入って来たアライグマの数は「最低でも12,000頭と見込まれ、それ以上は正確には分からない」という。

さらに2005年に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(以下「特定外来生物法」)が施行されるまで野生化したアライグマが積極的に捕獲されることはなく、むしろ一般人が捕獲したアライグマを「放獣するように」との指導が行政からなされていたという。急速なアライグマの分布拡大にはこうした人為的な介入があったことも考えられる。

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