忘れない、春 忘れられない、春 | 桜
どうやら今年の春は、“いつもの”お花見ができそうにないな、テレビから流れるニュースから、世の中に漂う空気から、そう感じ取った。
今年の冬は暖かかった。なんだ、もう春が来たのか、と思った。
だけど、予想もしない、経験したことのない規模の北風が世界に、そして日本にもあまねく吹き荒れて暦の進行に逆らう勢いで、気持ちは冬のように冷え込んだ。
だけど、桜は咲く。下を向いてばかりじゃいられない。
春は、希望の季節だ。
今できることは?今だからできる私なりのお花見は?
…そこで思いついたのが「#にほんごでおはなみ」だったのである。
思いついた背景
いつもの花見ができなさそうな様子を感じて、今だからできる私なりの、書を結びつけたお花見、どんなものができるかなあと考えた。
最近、古性のちさんが、写真と大和言葉を重ねて作品を作ってらっしゃるのを見て、その写真と日本語の美しさに感銘を受けていたところだった。
また、日本人は桜が大好きなので、桜にまつわる日本語が豊富であることはなんとなく知っていた。改めて調べると、ざっくざく出てきた。じゅるり。
「書く」という行為には「言葉」がつきもの、よしこれだ、ということで、今年は桜言葉で花見をすることにした。ひとり花見より、たくさんの方に見ていただければもっと楽しいなあ、、、と思っていたところに、セカアカの仲間のわっかさんが「#エア花見」を提案してくれて、それにも乗っからせてもらった。
どんな状況でも、どう面白がれるか。最近の暗いニュースに支配されそうな自分に、何度も言い聞かせたい。うんうん。
期限は、開花宣言直後から、花が散るまで(アバウト)。
調べた言葉の中には、開花の度合いを表すもの(満開や散り際)もあったので、その辺りが前後しないように気をつけよう…そこは整理して、見切り発車でスタートした。
ただ、無事に完結させたから言えるのだが、1日たりとも、投げやりに書いた日はなかった。ので、その筆跡と私の気持ちを来年の春まで残しておくために、ここに記しておきたい。また、見守っていただいた皆さんへ、それぞれのエピソードをお届けして、今年の桜をもう一度振り返って楽しんでいただければ…と想いを込めて。
よかったら、あなたのお気に入りも、ぜひ教えてくださいね!
01 初桜〈はつざくら〉 3月26日(木)
初日だったので、「初」がつく言葉からスタート。ベーシックに、ほぼ楷書体。
この桜の可愛い和紙(便箋)は、3年ほど前に後輩と京都・大原へ遊びに行った時、知らぬ間に後輩がおみやげ屋さんで購入し、書くことが好きだという私に帰り際にプレゼントしてくれたもの。
なんてできた子…。
その後、彼女は地元に帰って就職で、なかなか会えなくなってしまったので、次の春に、この紙でお手紙を書きました。その残りを、今回用いた、というところです。元気にしてるかな…?
02 桜雨〈さくらあめ〉 3月27日(金)
この日の予報が、雨だった。シンプルな理由。
起きて、朝の空気を外の吸い込んでから、書きました。
紙は、アワガミさんのブロックからチョイス。
青の、不等間隔な縞模様が、美しくて。
筆は少し大きめにして、線で遊べるようにしました。
墨は、雨で薄まったかのように。
03 夢見草〈ゆめみぐさ〉 3月28日(土)
書いた中で唯一、「桜」も「花」も入っていない、桜言葉。調べて、初めて知りました。
ドリーミーなイメージで、淡い紙色に銀色の筆ペンで重ねました。
04 桜隠し〈さくらがくし〉 3月29日(日)
この日、確か3月末にしてはかなり寒かったので、最初は「花冷え」って書こうかと思っていた。だけど、関東では雪まで降ったようで、Twitterのタイムラインで「桜隠し」…桜の咲く頃に雪が降ること、というどんぴしゃりな言葉を発見して、急きょ変更。
このあたりから、書の表現を超えた動画職人(?)みたいなことをやり始める。
05 花曇り〈はなぐもり〉 3月30日(月)
本文にも書いてる通り、なんでもない曇りの日にまで
意味を見出す力をくれる桜言葉、魔法のよう。
水を多めに墨を磨って、アワガミさんの滲みやすそうな紙をと合わせて。
06 桜餅〈さくらもち〉 3月31日(火)
ここまで、割と真面目に来てたので、ちょっと遊び心を!おなかが空いたのでおやつタイムです。
緑の紙には、書かへんのかーい!それ、桜の葉っぱのつもり。
ちなみに私は関西風の桜餅しか食べたことがありません。あのつぶつぶの。
関東風のも、いつか味わってみたいなあ。
07 桜吹雪〈さくらふぶき〉 4月1日(水)
例年とは雰囲気がちょっと違うけど、
誰かにとってのスタートの日、応援できたらな、と。
たっぷりの墨で、堂々と。(手作り花びらを添えて)
08 花影〈はなかげ〉 4月2日(木)
桜は、日中も、そして夜も楽しめるものなので、
どこかに夜の表現を入れたいと思っていました。
あまり意識はしていなかったけど、この企画をスタートさせたのがちょうど新月あたりで。
そしてこの日が、半月を過ぎたところだったかな、確か。
月は満ち、桜は散る。世の中、うまいことバランスが取れています。
09 零れ桜〈こぼれざくら〉 4月3日(金)
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、
この日は、紙の下を重力の方向に書いています。(壁に紙を貼り付けている)
こぼしたかった…。
そしてもはや、墨ではなく、水彩絵の具のピンク色をチョイス。
いろんな情報を浴びたり、環境が変化したりで、少し疲れてしまった週末のあなたにより添えますように、と願いを込めて表現。
10 花時〈はなどき〉 4月4日(土)
一周回って、楷書に帰還。シンプルイズザベスト。
いい天気で、リアルお花見日和だったんだよなあ。だから紙は空色に。
お花見は確かに今しかできないんだけど、
この未曾有の状況は、もっとレアな状況(だと信じたい)。
だからこそ、そこにあったはずの過去にすがるんじゃなくて、
この状況をなんとか飲み込んで、それがあってこそ生まれた時間、気づき、
そんなものを大切にしなくちゃなあと思いながら過ごしていました。
…そう思って、普段はやろうともしない(水煮頼り)、筍のあく抜きをしてみました。
筍の炊き込みご飯、美味しかったなあ。
11 花霞〈はながすみ〉 4月5日(日)
これまで、白紙で始まっていたのに、突然のネタバレ。
見ると、うわわわあ、ってなるやつです。
どこかでやってみたかった、逆再生ついに投入。
そして裏の見所は、途中で変わる光の入り方。
「照明さん」として、空と太陽が協力してくれました。自然とのマリアージュ。(言いたいだけ)
ちなみに筆は「竹筆」を使っています。こちらも自然とのマリアージュ。
12 桜流し〈さくらながし〉 4月6日(月)
これは桜が盛りの時に、雨が降ろうが降らまいが、書くつもりだった。
予報を見ても一向に雨マークがなかったので、書いた。
「桜流し」思い浮かぶのは、宇多田ヒカルさんの曲。
彼女の曲、歌声は、どこか儚いのに強さがある、しなやかさがある。
桜の、さらに散り際を歌わせたら、どこにも敵う人はいないのではないか、と思ったり。
ここにわざわざ、色は要らない。
13 花筏〈はないかだ〉 4月7日(火)
前の休日に、近所をお散歩していて、あまり人が立ち入らないところに、
花びらだまりみたいなところができていて、この花びら、どこかで使えたら面白いな、と頭に残ってました。
…あの花びらを集めてきて、家で花筏(流れないver.)作っちゃおう!
浮かべとくだけじゃ面白くないので、時だけは流す。
水性インクと、親水性の高そうな紙で、タイムラプス。
花筏、綺麗な日本語ですよね。発想が素敵。
14 徒桜〈あだざくら〉 4月8日(水)最終回
これまで、散り際の緑が混ざる桜は、あんまり美しくない、もう終わったものだと、勝手に思っていた。
目に見える部分だけだと、確かに、満開の混じりけのない花のほうが美しい。
だけど、そこに芽吹く緑は、新しい季節の予感、そう思うと見える景色が変わってくる。
いつだって、決めつけるのは自分の心なんだなあと、葉桜に、謝りたくなった。
愛を持って、今日も桜の木を見上げよう。
そして、ユコさんの最後の句も素敵だった。毎日、楽しみにしていました。ありがとうございました!
桜言葉をあじわい尽くしてみて
見切り発車でスタートしたけれど、日本語表現が豊かなおかげで、紙、墨、筆プラス、動画だからできることの組み合わせでいろんな表現の幅が広がりました。自分でも驚くくらいに。
何よりも、手を動かし続けることが次のアイデアに繋がる、ということ。
スタートさせた日は、まさか12日後に桜の花びら集めに行くなんて思いもしなかったのだから。
そして、継続は力なり、だということ。
もちろん楽しくやっていることが根底にはあるのだけれど、毎日これを書くないのでことばかりではないので、時間を作ったり、表現に詰まったり、簡単ではない部分もありました。だけど続けてやりきる、と決めたからこそ、限られた中でのアウトプットを生み出すことができたのかなあと思ったり。
最後に、継続は力なり、とは言ったけど、継続できたのは、毎日見守って、あたたかいメッセージをくださった、セカアカをはじめとした皆さんのおかげです。これ、一人では、花が満開になる前に心が折れていたかもしれません。笑
しかも嬉しいのは、最終回のあとに、楽しい表現、素敵な作品を「ありがとう」と、たくさん言っていただけたことです。こちらこそ、ありがとうございます、なのに。あたたかいコミュニティに、育てていただきました。
「日々をかく」これが私のモットーなので、そういう意味で、皆さんの少しハッピーな/なんでもない/ちょっぴりさみしい…さまざまな日々に少しでも寄り添えたり、彩りを加えられたり、できていたらいいな、と心から願うばかりです。また、今回続けられたことを励みに、これからも幅広い表現を求めて、書き続けたいと思います。
最後に、
書き続けて、丸2週間。
桜が花開き、散るまでの時間。
姿を消した月が、満月になるまでの時間。
これまでの暮らしなら、そこで終わっていた。
だけど今この状況、「2週間」という時間の意味は、変わってしまった。
私たちに現実を突きつけてくる。
2週間後に命があるのが当たり前、というか、
当たり前を当たり前とすら思っていなかった、これまでの自分。
だけど、もしかしたら、そうじゃない、かもしれない。
と、感じずにはいられないこの頃。
仮に、あなたの命はあと2週間です、と言われたら、
今の私は間違いなく、後悔する。
この非常事態、点で捉える限り、ポジティブな面はあまりに少ないけれど
敢えて言うとすれば
その後悔の理由と向かい合う本気度と覚悟はあるのかと、
強引にも押し付けられたことかなと思う。
人は愚かなもので、その重要性を身をもって体感しないと動かない。
少なくとも私はそう。
かと言って、明日を劇的に変える魔法なんてないので、
結局は、昨日より少し成長した今日を積み重ねていくしかないと思うのです。
まずは、来年、
皆さんと桜の木の下で会えるその日を目標に!
最後まで見守っていただき、
本当にありがとうございました。
2020.4.12 桜流しが降る、春の日に
いただいたサポートで、新しい筆か、紙を買いにいきます。 あなたに新しい表現を還元いたします(^^)