邪悪な人とは?
読書ノート「平気でうそをつく人たち ~虚偽と邪悪の心理学~」M・スコット・ペック 著、森英明 訳 1996 草思社
精神科医である著者は、自らの診療経験から、世の中には"邪悪な人間"がいると考えるに至ったという。
本書で語られる邪悪な人間の特徴の一部を以下に記す。
●深くかかわらなければごく普通の人。
●犯罪者の烙印を押されているわけではない。
●自分には欠点がないと思い込んでいる。
●異常に意志が強い。
●罪悪感や自責の念に耐えることを拒否する。
●他者をスケープゴートにして責任を転嫁する。
●体面や世間体のためには人並み以上に努力する。
●他人に善人だと思われることを強く望む。
「悪」の定義とは?
子供の虐待について
この本の中で、精神疾患の診療のために著者のクリニックを訪れた少年のカウンセリングを進めていくうちに、その少年の両親が息子に全く興味・関心・愛情を持っておらず、両親が息子の精神を破壊している事例が紹介されている。
邪悪さの影響を受けるのは、近くて弱い立場の人間であることが多く、子供たちが典型的な犠牲者になることは容易に想像できる。
近年、親が加害者で子どもが被害者になる痛ましい事件をよく見聞きするが、事件にまで発展しないものの、このような毒親の犠牲になっている子供たちは、かなりの数に上っていると考えられる。
肉体には危害を加えずに精神を攻撃する場合は、犯罪としても立件するのが難しいため、周りが知覚して助けてあげるのは本当に難しいのだろう。
また、著者も指摘しているように、邪悪な人たちは、健全であるかのようにふるまうことにも長けている。
周りの大人が子供たちをよく観察すること以外に、毒親に気づく術はないものだろうか?
思いついたアイディアとしては、小学校等で毎年アンケート(心理テスト)を行い、親から深刻な虐待を受けいている可能性がある子供をピックアップし、適切な支援につなげやすくする仕組み等を試してみてはどうか。
AIを活用すれば、微細な変化を精度高く検知でき、被害児童を知覚するための支援ができるのではないか。
また、学校の図書館に毒親からサバイブするための手引書のようなものがあると子供たちの力になると思う。
例えば、以下のようなコミックが読みやすいかもしれない。
大学等の研究機関(アンケート作成)、小学校(アンケート実施、図書購入)、児童相談所(知覚後のケア)の3者が、それぞれの強みを持ち寄ることで簡単に、かつ安価に仕組みが構築できそうな気がする。
「邪悪な人たちの特徴」とは?
また、自らの責任の放棄に加えて、邪悪性には、以下のような特性もあるという。
著者は、”邪悪性”とは誤った完全性自己像を防衛または保全する目的で、他者を破壊する力を行使することであり、自分自身の罪の意識を遠ざけることから”悪”が始まる、と指摘する。
悪の根源は、知的怠惰と病的ナルシシズムであり、邪悪な人たちが避けるのは自己批判である。そのため、邪悪な人が特に攻撃的になるのは、自分が失敗した時であるとのこと。
また、邪悪な人たちは健全であるように装っており、他人をだますのと同様に自分自身をだますためにも、時に愛ある態度で振る舞うのだという。
個人の悪とは少し違う「集団の悪」が生まれるメカニズムとは?
著者は、ベトナム戦争での大量虐殺事件を事例としてとりあげ、集団の悪が生まれる原因を以下のように指摘している。
専門化
組織の中で役割が専門化しているときには、道徳的責任が集団の他の部分に転嫁してしまう。依存心(知的怠惰)
大半の人はリーダーよりもフォロワーになることを好む。フォロワーとしてふるまうときは、意思決定をリーダーにゆだねてしまうため、道徳的責任をリーダーに転嫁してしまう。自己愛(ナルシシズム)
特定の敵を憎んだり欠点に目を向けさせることで、自分たちの集団の意識高揚を図りプライドを高めることがある。プライドの高い集団が、失敗したときには、外部や敵に対して攻撃的になりやすく、自己内省が欠如してしまう
確かに、組織の中では、自分の意見が上司や多数派の意見に流されてしまうことがあるので、注意が必要なのかもしれない。特に、組織の意見が、いわゆる”ポジショントーク”的だと感じるときは、専門化による道徳的責任の転嫁が起こっていないか、気をつけようと思った。
「集団の悪」を防止するには?
著者の記載を引用する。
学びをどう生かすか
今後に活かそうと思った点は、これまで自分が忙しいと感じていていたときに、言動が攻撃的になってしまうことがあったので、忙しいと感じている時は周りの人を傷つけないように意識してみようと思った。
また、見た目ではなく、印象がゾッとする怖さの人と接することがあったので、そういう人には近づきすぎないようにしようと思う。
この本の記述を読んで、特定の人たちに邪悪な人というレッテルを貼って決めつけてしまうのも危険だし、邪悪な人たちの言動に関する記述を読むのは、決して気持ちの良いものではない。というか、本当に気持ち悪い。
しかし、これから先も、この本はくりかえし読もうと思う。
自分の中の邪悪性が育ってしまわないように、また、邪悪な人たちと正しく関わるために、そして、著者が”集団の悪”と呼ぶ非道徳的な集団心理が自分の周りで生まれるのを未然に防ぐためにも。
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